【書評】『君はどこにでも行ける』

物もサービスも品質は高く、欲しいものは何でも手に入れられる。安全で、清潔で、誰にでも使いやすいようテクノロジーが整えられていて、とにかく快適な日本。

この国に安住していると、あえて新たな環境に飛び込もう、何かにチャレンジをしてみようという精神を失ってしまいがちだ。とりあえず、適度な刺激を受けながら生活していけるだけの仕事に就ければいい。野心など持たなくても、十分人生は充実させられる。そう考えている人は多いだろう。

そんな考え方を見直すきっかけを与えてくれるのが、この書籍だ。

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『君はどこにでも行ける』

堀江貴文著

徳間書店・2016年

 

著者は、元株式会社ライブドア代表取締役CEOで、現在は実業家として活動する堀江貴文氏。

書籍では、2013年に刑務所を出所してからの約2年半で28カ国58都市を訪問した堀江氏が、様々な国の特徴を、現地での体験を踏まえて具体的に紹介している。

海外の国々と日本を比較した結果浮き彫りとなるのは、日本が抱えている問題点。我々の住んでいる日本は、生活する面で世界最高レベルにある。しかし、各国と日本とを比較した場合、仕事や買い物、勉強、医療など、同じことを海外と日本の両方で受けようとすると、いかに日本におけるそれらの質が過剰であるか、それが生産性の足を引っ張っているかが分かる。この問題について、日本はどうあるべきなのか堀江氏なりの提言をしているところも読みどころだ。

日本にいてもいいし、海外に出てもいい

本書のターゲットは日本人全般だが、テーマは「日本の若者よ、日本だけにとどまらず海外に出ろ!」と積極的に薦めることではない。日本あるいは日本人という自己を客観視し、自分の人生は自分で作っていこうというのが主な主張だ。つまり、今までより少し世界を俯瞰して、人生の選択肢を考えてみてはどうかということを提言しているのである。

その前提としてあるのが、スマートフォンやWi-fi環境により利便性が高まった現代社会のインフラだ。世界のどこにいても、ネットワークにさえつながれば、多くの仕事はできてしまう。また、AIやロボット等科学技術の発達による影響も大きい。従来、人が工場などの現場で手を動かさなければならなかった単純作業は、自動化され淘汰されていくだろう。

そんな中では、日本にずっととどまるメリットが薄れているのは事実である。しかし、日本が住みやすい国であることに関しては、堀江氏含め誰も異論は無いであろうというのも、また事実。すなわち、「日本に居続けたい気持ちは認めるが、日本に居なくても、やりたいことはできる。むしろ自分の可能性を日本だけにとどめる必要はないのではないか?」と堀江氏は言っているのだ。

日本はもはやアジアナンバー1ではない

大半の日本人は、「日本はアジア最大の国である」と思っているであろうが、実はそうではなくなってきているという。そのことについて堀江氏は「日本は『安売り』の時代に入った」と表現しているが、生活実感としてはまさにその通りではないだろうか。

日本には「お客様は神様」という言葉がある。製品やサービスを提供する側が、過度に顧客に対応しすぎるのだ。モンスターペアレンツやテレビ番組等へのクレーマーの出現も、この言葉と無関係ではないだろう。しかしこれは日本人の国民性に由来するもので、長所でもある。この長所のおかげで、世界一とも言われる日本のサービスが生まれたのは確か。しかし堀江氏は、「他国で同じサービスをビジネスとするなら、もっとお金を取れる」と述べている。つまり、日本ではサービスの対価が低すぎるということ。本来、いいサービスには付加価値としてそれなりの対価が発生すべきなのに、日本では何でもサービスすることが当たり前となっているため、経済活動的には非効率になってしまっている。つまり、日本は、質の高いサービスを安売りしてしまっているのだ。

また、比較的新しい話題として、ホンハイによるシャープ買収についても言及している。過去には敵対的買収という言葉でメディアを賑わせた堀江氏だが、「買収」という言葉が持つネガティブなイメージを払拭するために、「バイアウト」というワードを浸透させたいと主張している。

中国を筆頭にシンガポールやタイなど急成長するアジア各国にとって、日本は投資対象として評価されている。このことは、むしろ喜ばしいことであり、悲観すべきことではない。いわば爆買いの延長と言えるだろう。またそれと同時に、日本は猛スピードで追い抜かれる立場にあることを認識する必要があると感じた。

ヨーロッパに関しても、観光やスポーツ、フィンテックなど様々なビジネス的視点で紹介されている。しかしアジアも含めて、この書籍で紹介されている国々はほんの一例だ。他の多くの国にも同様のビジネスチャンスが眠っており、自分の活躍のフィールドが広がっているという観点で本書を読むと、思考も可能性も拡がるのではないだろうか。

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素晴らしい日本が、より価値を高めるには

海外を旅行した経験のある人ならわかると思うが、日本と海外とを比較したとき、日本に対して不便さを感じることはほとんど無いのではないだろうか。街は綺麗、電車は時間通りに来るし、レストランの質も素晴らしい。さらに夜中に街を出歩いても、外国ほど危険を感じることはまず無い。

そんな誇るべき母国である日本についても、東京・福岡・大阪・京都・沖縄を例に挙げ、グローバル視点で堀江氏が価値を感じている地域を紹介している。各地方が、中国人による爆買いに代表されるようなインバウンド対策をより一層講じるべきで、堀江氏の実感としてはまだまだ足りないのだそうだ。

また巻末では、本書の装丁デザインをしており、イタリア人の夫とともにイタリアで暮らす漫画家のヤマザキマリ氏との対談も掲載されている。まさに、外国人と接しながら外国で暮らす日本人の生の声。国民性の違いや宗教観・歴史観などについてのリアルな意見は、堀江氏の主張を十分にフォローする内容となっている。

自分の中の国境(ボーダー)を越える勇気を

本書で堀江氏が読者に最も訴えたいことは、最終章の表題でもある「国境(ボーダー)は君の中にある」ということだろう。

多くの読者が知っている通り、堀江氏は業界のタブーとされていることや、当時は一般的でなかった手法によって、企業を成長させていった。このことは敵を増やすことに繋がった面もあったようだが、堀江氏の真意は別のところにある。それは、「そもそもなぜこうなっているのか?」という純粋な疑問を突き詰めた結果、堀江氏の中から湧き上がってきた考えであったのだ。

人は皆、日本や海外に対して様々なイメージを持ち、それが行動するうえでの価値観となっているに違いない。しかし、世界を見ないままでは、その価値観は狭い固定観念になりかねない。だからこそ、自分の中にあるボーダーを越える勇気が必要なのだ。

本書は、純粋な疑問を大事にし、真理を突き止めたいという思いから突き進んできた堀江氏が、日本・海外という視点から、新たな行動の選択肢を示唆してくれる1冊と言える。さらに、堀江氏が日本こそ最高の国だという前提を疑っているように、人間が直面する諸問題は本当にそうなのかと疑ってみる必要がある。そのことを教えてくれる書籍だ。

こうした意味から、海外に興味の無い人にとって必読の書籍だが、あらゆる方に有益な1冊であると言えるだろう。

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