充実感や幸福感は、私たちの人生の質を高め、豊かにしてくれるもの。しかし、そのような感情が常に私たちの心にあるわけではありません。生きていれば、辛いこと、苦しいこと、面倒くさいこと……負の感情を感じることもしばしばあります。そこで多くの人は、充実感や幸福感をより多く、負の感情をより少なくすることを願うのではないでしょうか。本当にそのようなことができたら、私たちの毎日は今よりももっとポジティブなものになりますよね。
今回は、そのような願いを実現に近づけるよう、意図的に充実感や幸福感を得る方法を書いていきたいと思います。
人はどんな時に充実感を感じるのか?
皆さんは、何かに集中しているうちにあっという間に時間が過ぎていた……という体験をしたことがありますか? 明日までの書類を作成しているとき、気づいたらもう3時間過ぎていた。子供の時、遊んでいたらあっという間に日が暮れていた。このような経験がある人は多いと思います。
このような「高度に没頭する活動に伴う精神的な状態」を、フロー体験といいます。
アメリカでもっとも有名な心理学者の1人、チクセントミハイ氏は、より多くのフロー体験こそが人生の幸福感や充実感を高めると述べています。近年では実際に、フロー体験が多いほど、人生の幸福感は高いという研究結果が示されているそうです。
しかし、多くのフロー体験をしよう! と思ったとしても、そう簡単にできるものなのか? と疑問に思いますよね。
実は、フロー体験の条件を理解し、かつ自分をコントロールするコツをつかめば、フロー体験によって日常生活の質を変えていくことはできるのです。
それではまず、フロー体験に入るための条件を理解していきましょう。
フローの条件とは?
フローとは、具体的にどのような状況・条件で発生するものなのでしょうか。 チクセントミハイ氏は以下のように述べています。
”目標が明確で迅速なフィードバックがあり、スキルとチャレンジのバランスがとれたギリギリのところで活動しているとき、われわれの意識は変わり始める。”
(引用元:M.チクセントミハイ著,大森弘訳(2010),『フロー体験入門―楽しみと創造の心理学』,世界思想社.)
つまり、
- やったことに対してすぐに報酬が得られること
- 自分の能力と取り組むレベルとが見合っている状況で、チャレンジすること(自分がぎりぎり達成できるレベルのこと)
これらの条件がそろったときに、人はフロー状態に入りやすいということです。
例えば、スポーツを行っているとき、私たちはフローに入りやすい状態にあると言われています。テニスについて考えてみましょう。サーブを打つという行動は、まずは相手コートに入れることを明確な目標とします。さらに、INかOUTか相手に打ち返されるかというフィードバックが、1~2秒の間に即座になされます。また、プレーの相手が自分と同等か少し上くらいのレベルであると、チャレンジへのモチベーションはさらに高まります。テニスなどのスポーツでは、このような条件が満たされることによって、人はフロー状態に入れるというわけなのです。
しかし同氏は、「わたしたちの日常は交互にやってくるストレスと退屈の連続である」とも述べています。日常生活においては、自分のスキルに対して、チャレンジのレベルがあまりにも高すぎるか低すぎるかといったものが多く、目標が高い時にはストレス、低い時には退屈を感じてしまうのだということです。
ではそんな日常を脱して、より多くの素晴らしい体験をしていくために、私たちはどうすればよいのでしょうか? 次では、フロー体験を意図的に生み出すための3つのコツについて書いていきます。
フロー体験を意図的に生み出すための3つのコツ
ここでは、近年のアメリカの成人と若者における研究で得られた結果をもとに、毎日の活動の中で何を意識すればフロー体験をすることができるのか、3つのコツをお伝えします。
1. 能動的な活動をする
フローを体験したいなら、それなりの努力を要する行動をすることが必要です。なぜなら、努力をしなくてもできる行動は、集中力や注意力を必要としないため、フローには入りづらいと考えられているから。より高い集中力が必要な能動的な活動に取り組みましょう。
例えば、よりフローを体験しやすい活動として、以下の3つの分類があると言われています。
- 【生産的活動】やった分が成果として現れるもの。(例)仕事、勉強など
- 【生活維持活動】日常生活の行為。(例)車の運転など
- 【レジャー活動】遊びに分類されるもの。(例)趣味、スポーツ、映画、会話など
これらの共通点は「適度なチャレンジに対するフィードバックがすぐにあること」。先ほどはスポーツを例に考えましたが、今度は仕事や勉強に置き換えてみましょう。
■ 仕事
仕事では、その日のタスクや目標がおおよそ決まっています。それらの目標を時間内に達成しなければなりません。午前中までに取引先にメールを送る、営業に行って案件を獲得するなど、目標に向けて行動することになります。そして、達成できたorできなかった、というフィードバックが即座にある、ということの連続です。
このように仕事では、1日の中で小さな目標にチャレンジする機会が多く訪れるため、人はよりフロー状態に入りやすいと言えるでしょう。
■ 勉強
勉強では、何かをインプットするよりも、アウトプットする際にフロー状態に入りやすいと考えられます。
アウトプットと言えば、「問題を解く」という行為がその1つ。そして、問題を解いたら答え合わせも行いますよね。問題を解いている最中には正解するという目標に向けてチャレンジをし、答えあわせによってチャレンジに対するフィードバックを得ることになります。これが、勉強でフロー体験に入りやすいことの仕組みです。
このように、仕事や勉強においては、チャレンジとフィードバックを意識して取り組むことで、よりフロー体験をしやすくなるでしょう。
2. やり始めを徹底する
一定の高い集中状態に入るには、自分自身が集中状態に入りやすくなるように意識を持つことが重要になります。では、どのような意識を持てばいいのでしょうか?
有効なのが、「やり始めを徹底する」という方法です。皆さんは、5分だけ勉強をやろうと思って教科書を開いたら1時間も勉強できた、という経験はありませんか? このように、勉強や仕事などは、やり始めは辛くても、やり始めてしまえば案外集中することができるもの。
大変なのは、とにかく最初に勉強や仕事に注意を向けること。それさえできてしまえば、そこから先は集中して物事に取り組めるでしょう。
3. 考えるよりも、できることをやる
3つ目のコツは、思考と行動の比率を変えることです。
よりよい行動をするためには、考えを深めたり、計画を立てたりといった、頭の中で考えることが必要ですよね。しかし、高い幸福感や充実感というのは、「考えること」のみによっては生まれないとチクセントミハイ氏は延べています。思考ではなく「行動によって」成果を得られたときに、初めて充実感を得ることができるそうなのです。
私たちには、こうでありたいという理想の姿があるかもしれません。そう思って、計画だてたり考えたりすることはもちろん重要なのですが、肝心な「行動に移す」ということが無いと、いつまでも幸福感や充実感を得ることは難しいのです。
ですから、身にならない思考はストップさせ、「できることからまずはやる」という意識を持ち、行動の頻度を増やしましょう。行動しなければ、フロー体験など得られるはずがありません。自分をポジティブにしてくれるのは、「考え続けること」ではなく「行動すること」だったのですね。
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フロー体験は、シンプルな3つの心がけによって得やすくなります。注意や集中次第で、あなたの人生は変わり始めるはず。フロー体験によって、人生の質を高めてみてはいかがですか?
(参考)
M.チクセントミハイ著,大森弘訳(2010),『フロー体験入門―楽しみと創造の心理学』,世界思想社.
一般社団法人ポジティブイノベーションセンター|フロー理論
TED|ミハイ・チクセントミハイ:フローについて