チームを結成し、仲間と協力しながらより高いレベルでアウトプットする。言葉にするのは簡単ですが、実際にチームで活動するときにはうまくいかないこともありますよね。良いアイデアが湧かず話が進まなかったり、遠慮し合って意見に対する批判ができなかったり……。そうして手をこまねいているうちに期限が迫り、結局は満足のいく仕事ができなかった、なんて経験をされたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
仕事をする際にわざわざチームを組むのは、個人の総和以上の成果が求められているからこそ。では、実際にチームを組んでよりクオリティの高い仕事をするにはどうすればいいのでしょうか。今回は、日本が世界に誇るアニメーション会社「スタジオジブリ」がどのようにチームを形成しているのかを学び、そこから私たちが活かせることについて探っていきます。
スタジオジブリを知れば、チームの在り方が分かる
経営学の人的資源管理等の分野では、より高い成果を上げられるチームをつくる方法を知るために、様々な研究が行われています。しかし、そうした理論を突き詰めるのではなく、独自の考えに基づいて成果を上げているのが、このスタジオジブリです。スタジオジブリといえば、『天空の城ラピュタ』や『となりのトトロ』といったヒット作を連発し、『千と千尋の神隠し』ではアカデミー賞の長編アニメーション部門を受賞するなど、皆さんもご存知ですよね。
実はスタジオジブリは、ピクサー等、世界の有名なアニメーション会社と比べたらとても規模の小さい会社です。しかしながら、上で挙げたような大作アニメーション映画は、構想から完成に至るまで、ほとんどすべての工程をスタジオジブリ内でこなしています。映画監督である宮崎駿氏のアイデア力や作画力はもちろん、同じく監督の高畑勲氏の演出力、プロデューサーを務める鈴木敏夫氏の手腕、そして良い作品を世の中に届けることへのこだわりなど、スタジオジブリは特筆すべき点が数多くあります。
私たちがチームとして結果を出すためのヒントが、このスタジオジブリに隠されているのです。
「アイデアは周囲3メートルにいっぱい転がっている」
この言葉は、宮崎駿氏がよく口にする言葉なのだそう。数多くの名作を世に出した宮崎駿氏ですが、そのアイデアの源泉は実は2つしかないのだとか。それは、友人の話、そしてスタッフとの日常の何気ない会話です。鈴木敏夫氏の著書によると、宮崎駿氏は以下のように述べたのだそうです。
ジブリで起きていることは東京でも起きている。東京で起きていることは日本中で起きている。日本中で起きていることはたぶん、世界でも起きているだろう
(引用元:鈴木敏夫著(2008),『仕事道楽―スタジオジブリの仕事現場』,岩波書店.)
そのような理屈で、「周囲3メートル」というふうに表現したのでしょう。
冒頭でも紹介した、アカデミー賞受賞作品『千と千尋の神隠し』。これも、スタッフとの会話がきっかけとなって原案が生まれました。その会話とは、「水商売をしている女性は実はもともと引っ込み思案の人が多く、仕事を通じてコミュニケーションが得意になっていく」というもの。その話のとおり、主人公の千尋ははじめこそおとなしい少女でしたが、不思議な世界に放り込まれた中で適応しようと奮闘し、成長していきます。
ほかにも宮崎駿氏は、イヤホンで音楽を聴きながら作業をしているスタッフがいると、わざわざイヤホンを借りてその曲を聴き、どんなところが魅力なのかを尋ねることがあるのだそう。これはスタッフひとりひとりをより深く知りたいという自身の欲求から行なっているとのことですから、驚きですよね。面白いことや不思議な人、ものは身の回りにあふれていて、大切なのはそのひとつずつを理解しようとすることだ、ということを教えてくれる逸話です。
あなたの周囲3メートルを見回してみてください。何がありましたか。ほとんどの場合、今日の新聞があったり、同僚がいたり、友達がいたり、何かしら存在しているはずです。
新聞には新鮮な情報があふれていることは言うまでもありませんね。読むだけでなく、世の中の動きについて「なぜ起こったのか」「なぜ新聞で大きく取り上げられているのか」と仮説を立ててみたり、書評されている本を手に取ってみたりしてみましょう。あまり深く話したことのない同僚がいるなら、どんな人なのか知ろうとしてみてください。そうやって自分から動いていくと、世の中には自分の知らない驚きや発見がたくさんあることに気づくでしょう。それを繰り返していけば、自然とアイデアのヒントとなるものが見つかるかもしれませんよ。
「お互いに尊敬し合わない関係だから、自分たちはやってこれたのだ」
宮崎駿氏の長年の映画制作のパートナーとして知られている、高畑勲氏。宮崎駿氏は、自分が作品を作る際に意識している受け取り手はただ一人、この高畑勲氏だけなのだと言います。夢の中に登場する人物も高畑勲氏だけと言うのですから、驚きですね。
そんな高畑勲氏は、数十年間にもわたって宮崎駿氏と一緒にやってこられた理由について「お互い尊敬し合わない関係だから、自分たちはやってこれたのだ」と語っています。尊敬し合わない関係というと違和感を覚える方もいるかもしれません。しかし、お互いを尊敬しすぎるあまり、強い批判ができなかったり表現を選んでしまったりして本音の意見交換ができなくなってしまっては、良い関係だとは言えませんよね。
チームで動くとき、特にアイデアを出す段階で重要になるのは、出したアイデアを批判し合っていくこと。批判というのは決してマイナスなものではなく、お互いの意見をブラッシュアップしていく上では極めて重要なものなのです。
出たアイデアに欠けている要素があれば、それを指摘し、その欠点を埋めていくにはどうしたらいいのかを一緒に考える。そのプロセスにおいて、尊敬の気持ちは場合によっては邪魔になりかねない。そういった考えから、「尊敬し合わない関係」だから成功したと述べたのでしょう。
スタジオジブリの作品が作られる現場をイメージした場合、宮崎駿氏という天才のワンマンプレーを思い浮かべる方もいるかもしれませんが、実はそれは大きな間違い。実際には、鈴木敏夫氏や高畑勲氏、アニメーターたちが信頼をもとにぶつかり合い、協力しながらブラッシュアップしていっているのです。
あなたがチームに加わった場合にも、思ったことや意見は積極的に発言することが大切です。たとえその指摘が的外れであったとしても、自分の理解のズレを認識することにつながります。そうした経験を繰り返していく中で、少しずつ考える力も磨かれ、チームとしても個人としても成果が上がっていくのです。
*** 良いものを作り、世の中に届ける。それを実現し続けてきたスタジオジブリの背後には、確かな信頼関係が繰り広げられているのです。決して楽ではないけれども、楽しい。そうした環境で働けたら、個人の総和以上の成果をチームで出せそうですよね。
(参考) 鈴木敏夫著(2008),『仕事道楽―スタジオジブリの仕事現場』,岩波書店. 宮崎駿著(1996),『出発点―1979~1996』,スタジオジブリ. 加藤昌治著(2003),『考具 ―考えるための道具、持っていますか?』,CCCメディアハウス.