「なんで勉強するんだろう?」このような考えは、誰しも一度は抱いたことがあるはず。私たちは、勉強して、何を身につけることが求められているのでしょうか。そもそも何のために勉強をするのでしょうか。今回は、勉強する意味について、改めて考えてみたいと思います。
勉強することで、「批判的思考力」を養う
勉強する目的は、何なのでしょうか?
知識を増やす。論理的思考力を身につける。
もちろん、それらも大きな目的です。ではなぜそれらの力を身につけるのでしょう。それは、「批判的に考える力」を身につけるため。実は、これは法律においても示されています。学校教育法・第51条には、次のようにあります。
第五十一条 高等学校における教育は、前条に規定する目的を実現するため、次に掲げる目標を達成するよう行われるものとする。 (中略) 三 個性の確立に努めるとともに、社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い、社会の発展に寄与する態度を養うこと。
つまり学校教育において、高校レベルになれば、与えられた情報を鵜呑みにせず批判的な視点を養うことが大きな目標となっているのです。
惑わされないためのスキルとしての、「批判的思考力」
批判的思考力は、近年声高に叫ばれている「コミュニケーション能力」にとっても重要な意味を持ちます。議論においては、時には、故意に主張を誘導しようとする人がいます。たとえば、次のような主張があったとしましょう。
「ゲームを日常的にする子供と、しない子供を比較したところ、日常的にする子供の方が、コミュニケーション能力が低い子供の割合が多かった。だから、ゲームは、子供のコミュニケーション能力を低下させる」
この主張は、一見もっともな主張に見えます。しかし、よく考えてみてください。「もともと人付き合いが苦手な子供が、一人でゲームする」という可能性はないのでしょうか? 批判的な視点をもてば、相手が故意に結論を誘導しようとしたとしてもそれに流されずに、物事の本質が見えるようになるのです。
言葉のトリックにだまされない
もうひとつ例を挙げます。以下の文章は、「DHMO」という、2つの水素原子と、1つの酸素原子からなる物質の危険性について紹介しています。
- 水酸と呼ばれ、酸性雨の主成分である。
- 温室効果を引き起こす。
- 重篤なやけどの原因となりうる。
- 地形の侵食を引き起こす。
- 多くの材料の腐食を進行させ、さび付かせる。
- 電気事故の原因となり、自動車のブレーキの効果を低下させる。
- 末期がん患者の悪性腫瘍から検出される。
以上から、DHMOがいかに危険な物質であるかがわかるでしょう。それにもかかわらず、DHMOは、工場などで大量に使用され、私たちの体にも蓄積されていっています……。
さて、お気づきでしょうか。このDHMOという物質は、ただの「水」です。しかし、危険性の部分だけが巧妙にピックアップされ、水を別の危険な物質だと勘違いしてしまった方は少なくないのではないでしょうか? このように世の中には、巧妙な言葉の嘘、トリックが溢れています。
もっともらしいデータを示して、言葉たくみに相手を自分の意見に同調させようとする。それに対する防衛策としても、「鵜呑みにしない」という批判的思考力が求められているのです。
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いかがでしょうか。社会における「議論」という観点から「批判的思考力」を見てきましたが、このスキルは学生のみなさんにとってもとても重要です。
「この解答は、なぜこうなるのか?」
「模範解答以外に正解はないのか? 自分の解答ではいけないのか?」
このような積み重ねが、批判的思考力を涵養することにつながります。勉強する意味を見出せなくなったときは、「批判的思考力」を身につけるということを思い返してみてはいかがでしょうか。
(参考)
Wikipedia|批判的思考
e-Gov|学校教育法