「now that 報酬」で相手のやる気を引き出せる! “本当に正しい褒め方” 3つのきほん。

仕事仲間がプロジェクトを成功させたとき、子どもがテストでいい点数を取ったとき、部下が仕事で良い成果を上げたとき……そんなときに、相手をうまく褒められていますか?

褒めるという行為は相手の良い行動に対する一種の報酬であり、適切に行えばモチベーションを高めるとても良い方法です。しかし、そのやり方を間違えると、かえって逆効果に終わってしまうことも。今回は「褒める」という行為の意味を分析し、正しく褒めるポイントをご紹介します。

報酬には2種類ある

アメリカの作家ダニエル・ピンク氏は、著書『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』の中で、「if then報酬」と「now that報酬」という言葉を用いて2種類の報酬について述べています。

「if then報酬」とは「交換条件つきの報酬」のこと。例えば「良い企画書を書けたら何か褒美を出す」という、成果が出る前から約束された報酬を指します。

一方「now that報酬」とは「思いがけない報酬」のこと。例えば「企画書の出来がすばらしかったから何か褒美を出す」という、成果を受けて与えられる想定外の報酬を指します。成果が出てから行われる「褒める」という行為は多くの場合「now that報酬」に含まれます。

報酬の使い分けと、正しく褒めることの意義

このように報酬には2種類あるわけですが、報酬の出し方によってその効果は変わってきます。なかでも、少しでも創造性やひらめきを要する作業に対しては、「if then報酬」は良い効果をもたらさないということが指摘されているのです。

その理由を説明するものとして、同書の中で次のような実験が紹介されています。幼稚園児を被験者として、ある日の自由時間に以下のようなグループに分けて絵を描かせました。

グループ1:絵を描くと賞状を渡すことを事前に伝え、絵を描いたら賞状を渡した。 グループ2:事前には何も伝えなかったが、絵を描いたら賞状を渡した。 グループ3:事前に何も伝えず、絵を描いても賞状を渡さなかった。

つまり、グループ1は「if then報酬」という形で、グループ2は「now that報酬」という形で、描いた絵に対しそれぞれ賞状を受け取ったということになります。結局同じ褒美をもらうのなら、両者の間に違いは生まれないのでは? と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、この実験の2週間後に再び自由時間の幼稚園児を観察すると、2週間前の実験で報酬を約束された状態で絵を描いたグループ1だけ絵を描く時間が激減してしまったのです。

この結果について、ダニエル・ピンク氏はこう述べています。

実験から二週間も経っていたのに、魅力的な報酬によって(中略)遊びが仕事に変質してしまったのである。

(引用元:ダニエル・ピンク著,大前研一訳(2010),『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』,講談社.)

すなわち、グループ1の子どもたちは「絵を描いたら賞状をもらえる」という「if then報酬」を提示されたことによって、「絵を描きたいから描く」という動機よりも「賞状のために描く」という動機の方が強くなってしまい、賞状がもらえなくなると絵を描く意味を失ってしまったのです。

相手のやる気を引き出す褒め方の3つのポイント

上の実験が示しているように、相手のやる気を引き出すには、あらかじめ約束された報酬ではなく、成果に対して与えられる報酬の方が効果的です。このことを踏まえて、より効果的に相手のやる気を引き出すような褒め方を実践するために、注意すべきことや意識していただきたいことを紹介します。

1. 相手の価値観に合った褒め方をする

褒めるという行為の本質は内的動機付けです。つまり、相手が何をモチベーションに動いているのかを見極めることが重要だということ。例えば「時間をかけてでも良いものを作りたい」と考えている相手に対して、「こんなに仕事が早くてすごい」と褒めてもあまり効果はありませんよね。相手の動機が何なのかを知り、その動機をより強化できるような褒め方をしてみましょう。

2. すぐに褒める

相手が行動した直後に褒めるようにしてください。すぐに褒めてあげれば、「褒められて嬉しかった」ということが相手の記憶に残りやすくなります。自分の仕事に手一杯のときは、ついつい「後で褒めればいい」と考えてしまいがちですが、相手が望ましい行動をとったのならば、即座に褒めてみましょう。相手のやる気を高めることができるはずです。

3. 無理に褒めようとしない

特に褒めることがないな、と思った場合には褒めるべきではありません。なぜなら、毎回必ず褒めようとすると、「何かを行ったら褒めてもらえる」という「if then報酬」の構図が相手の中に作られてしまい、かえって逆効果をもたらしかねません。あえて何も言わない、というのも大切なことです。

*** 「褒める」という行為ひとつをとってみても、うまく行うのは案外難しいもの。今度誰かを褒めるときは、今回ご紹介した褒めるポイントをぜひ思い出してみてください。

(参考) ダニエル・ピンク著,大前研一訳(2010),『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』,講談社. 石田淳著(2016),『マンガでわかる!ほめる技術』,宝島社.

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