突然ですが、質問です。
ここは工場のライン。あなたの仕事は現場監督です。製造元から流れてくる機械部品を次の作業場ごとに的確に仕分けてください。最近、部下の仕分けミスが多発。部品の差し戻しが増えています。さて、現場監督としてあなたが一番初めにすべきことは一体なんでしょう。
1, 毎朝朝礼を開き、フィードバックのための時間をとる
2, 部下との個人面談の時間を設けて、仲を深め指示を通りやすくする
3, マニュアルを充実させ、個人の技術の向上をはかる
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確かにどれも効果的なように見えますね。でも、これらは一番最初にすべきことではありません。
優先すべきなのは「ミスが出ないような環境整備を行うこと」です。 今日は職場でのミスを減らすコツをご紹介しましょう。
ヒューマンエラーは無くせない
まず最初に肝に銘じるべきは、「ヒューマンエラーはなくせない」ということです。
人生で受けた数学のテストのうち、一度も計算ミスをしたことのない人はいるでしょうか?大学の講堂にノートを忘れたことのない人は?家の鍵をかけた、と絶対の自信を持てる人は?
まず、いないでしょうね。心理学者である宮本聡介氏はこう語ります。
慣れや疲労による注意の低下,知識・経験の不足がエラーを誘発することは人間工学的によく知られている.エラーを防ぐための圧力が,作業員に極度の緊張や疲労を与え,作業環境を悪化させてしまう可能性もある.過去の大事故を詳細に分析すると,ヒューマンエラーが原因となっているケースが多いのも事実であり,「人間は間違える」ことを前提としながら,事故を防ぐための積極的なエラー防止対策が必要となる.
(引用元:日本応用心理学会編|応用心理学事典)
エラーをなくすために個人をどう変えるか、という考え方はもはや過去のものなのです。エラーが起こらないような環境整備、エラーが起こっても対処できる環境整備が必要です。
ミスが起こらないような環境をつくる「フールプルーフ」
まず初めに考えるべきは、「フールプルーフ」です。 これは、「人間とは誤操作をするものだ」と考え、ミスが起こっても重大な事故に繋がらないようにあらかじめ設計しておく、というもの。
例えば、車のシフトレバーを考えてみてください。ブレーキを踏まないと、パーキングから動かすことはできませんよね。これは、誤ってギアを入れてしまい、発進してしまわないための工夫。エラーを未然に防止する、ということですね。
先ほどの質問の場合を考えてみましょう。
部品の仕分けでミスをしてしまう時、予想されるのは部品が似ているため見間違える、ということでしょうか。ですから部品同士の違いがわかりやすいように、色分けしたらどうでしょうか。それができないなら、コンベヤの切り替えボタンを色分けするなど、まずはミスを未然に防ぐ工夫を考えてみることが大事です。
ミスが起こってもカバーできる「フェイルセーフ」
次に考えるべきなのが、「フェイルセーフ」。
これはもしミスが起こったとしても、それをリカバリーするようなシステムを整えておく、というもの。例えば、石油ストーブを考えてみてください。まちがって足をぶつけてしまい、運転停止…なんて経験ありますよね。電源を入れ直すのは面倒ですが、これもれっきとしたフェイルセーフの一つ。ここで電源がついたままだったらどうでしょう?
石油に引火して爆発、なんてことも考えられますし、とにかく意見ですよね。何か間違いが起こっても平気なような仕組みを整えましょう。
先ほどの質問の場合、例えば仕分ける人の他に、もう一人ダブルチェックの役目を持つ人を設置する、間違えた部品を台におくとブザーが鳴る仕組みを作る、など。人間のミスを仕組みによってカバーするのです。
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いかがでしょうか。人間である以上、ミスは減らせても、無くせません。どうすればミスを減らせるか、ではなくどうやってミスをカバーするか、を考えてみてください。
最後に一つ考えて欲しいことがあります。最初の質問の状況で、一番最初にすべきなのは「環境整備」と答えました。でも、正確には違います。
あなたが一番にすべきなのは、現場に向かい、部下の目線から仕事を考えることです。そうしなければ、どんなミスが起こりやすいのか、どんなミスを防げるのか、ということもわかりません。
まずは部下の気持ちになること、ですね。
参考 日本応用心理学会編|応用心理学事典

