上司から理不尽な要求をされた。急いでいるのに電車が遅れている。生きていれば、何かにイラッとするのはよくあることですよね。こんな時、イライラしたまま行動してしまい、良い結果が得られなかった、という経験はありませんか? 冷静さを欠いたせいで、思わぬところでミスしたり、他者に八つ当たりして関係を悪化させてしまったり……。
その一方で、怒りをモチベーションに変え、結果につなげることができる人がいるのも事実。青色ダイオードの開発でノーベル賞を授賞した中村修二さんは、怒りのエネルギーが研究の原動力だったと述べています。
怒りを利用できる人と、怒りに呑(の)まれてしまう人。二者の違いはどこにあるのでしょうか? 今回は、怒りを上手に利用する方法について紹介します。
怒りの良い面・悪い面
怒りは、とても大きなエネルギーを持った、とても厄介な感情です。そのエネルギーは時に人を振り回し、多くの不利益を生じさせます。イライラしたまま仕事に向き合っても、当然集中することなどできませんし、思考も整理できません。失敗してしまうのは当たり前と言ってよいでしょう。
しかし、そのエネルギーは時に爆発的な力を生みます。例えば、青色発光ダイオードの開発で2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二・カリフォルニア大サンタバーバラ校教授は、「研究の原動力は怒りだ」と述べています。日亜化学工業に就職後、最初の10年ほどは赤色発光ダイオードを使った製品の商品化を手掛けたものの売れず、会社の上層部からこっぴどく叱られたそう。その後のエピソードを、中村さんは次のように語っています。
偉い人たちに『お前はカネの無駄遣いをしやがって!』と、けちょんけちょんに言われ頭にきて、『青色発光ダイオードをやらせてくれ』と言って、OKが出ておカネをもらえた。怒りを原動力にしたら青色発光ダイオードができた
(引用元:東洋経済ONLINE|「怒りエネルギー」が導く“成功”と“破滅”)
このエピソードから分かるのは、怒りという感情はただ悪いものというわけではないということ。元マラソンランナーの有森裕子さんも、選手時代は幾度となく怒りをエネルギーに変換し、練習に打ち込み結果につなげてきたと述べます。一流の人たちは「怒りを利用することに長けている」のです。
では、怒りを上手に利用するにはどうすればよいのでしょうか?
1. 怒りのピークは「たったの6秒」
怒りの感情をうまく利用するには、3つのコツがあります。まず1つ目は、「怒りのピークはほんの一瞬だ」と心得ておくこと。
怒りのピークは時間が短いといわれています。そして、そのピークさえ我慢できれば、衝動的な行動を抑えることができるのです。怒りをコントロールする「アンガーマネジメント」の啓発や研修活動などを行う日本アンガーマネジメント協会で理事を務める戸田久実さんは、次のように述べます。
「怒りのピークは長くて6秒」です。激高するような怒りでも、6秒をやり過ごせば怒りに任せて衝動的に行動しにくくなります。
(引用元:NIKKEI STYLE|「怒りのピーク」は6秒、感情と上手に付き合う秘訣)
怒りの感情が発生しても、6秒待てば怒りは過ぎます。まずはそのことを知っておきましょう。
2. 怒りを客観的に分析してみよう
2つ目のコツは、怒りのピークの6秒をやり過ごし、怒りを抑えること。具体的な方法として、次の2つを紹介します。
1. 怒りを数値化する
戸田さんは、怒りの6秒をやり過ごす方法のひとつとして「怒りを数値化する」ことを挙げています。例えば、これまでで最大の怒りを「10」としたとき、今の怒りがそれを超えるほどの怒りなら、数値は「13」くらいでしょうか。逆にちょっとしたイライラなら数値は「5」ぐらいでしょう。そんなことを考えているうちに、6秒経ってしまう、というわけです。
数値化する以外にも、怒りの感情を客観的に見る方法があります。『「こころの静寂」を手に入れる37の方法』の著者である僧侶の松本紹圭さんは、次のように述べています。
ネガティブな感情が生じたとき、なぜそう思うのか、起こったことをありのままにノートに書き出してみるといい。自分の感情や実際に起きたことを客観的に整理できる。
(引用元:NIKKEI STYLE|僧侶が教える、ネガティブ感情が消える心の習慣)太字は筆者にて施した
状況が許すなら、怒りが生じたときはペンとノートを取り出し、上記のようなことを書き出してみてください。一度、怒りから自分を切り離すことができるため、落ち着くことができるでしょう。
2. 「怒ることで何かが変わるのか?」を考える
怒りの感情が発生したら、「自分の怒りは状況を変えるだろうか?」と考えてみてください。
例えば、電車の遅延にイライラした場合。この場合、自分が怒ったところで、何も変わりません。「自分が怒ったところで何も変わらないな」と思えば、意外とすぐに気持ちを切り替えられるでしょう。そうすることで、怒りに向けられていたエネルギーを健全な方向へと向け直すことができます。怒りから一歩引くことができるはずです。
3. 目的をつくり、怒りをやる気に変換しよう
最後のコツは、怒りから「新たな目的」を作り出すこと。一時の怒りを収めた後は、怒りを抑えるためにはどうしたらよかったのか、これからどのように行動すべきなのかを考えましょう。
腹立たしいことがあると、ついその怒りを引きずってしまうもの。ですが、怒った後で明確な目的ができれば、怒りに振り回されることがなくなるのです。これについて有森さんは次のように述べます。
うまくいかないこと、納得できないことが起こると、その要因を外に求めたくなります。でも、多くの場合、怒りの原因があるのは自分。「他責」からは何も生まれません。現状を変えたいと思うなら、自分の内側へと目を向けること。自分さえ整えていけば自ずと物事は整うし、無駄な怒りに振り回されることもなくなるはず。
(引用元:cafeglobe|怒りをパワーに変えるには。有森裕子さんの怒りとの向き合い方)
マラソンの場合、タイムが縮まらないイライラや、代表選手に選ばれなかったことの怒りを、例えば監督のせいにして怒ったとしても、速く走れるようになるわけではありません。有森さんは「自分とチームにとっての一番の価値は、強い選手になることだ」という目的に気づいたことで、怒りを人にぶつけている場合ではないのだと悟ったのだそう。そして、監督にくらいつき、いっそう練習に打ち込むようになったのだと言います。
私たちも、うまくいかないことを他人のせいにばかりして怒るのはやめて、「どうすればうまくいっただろうか」「次はどうしたらいいだろうか」と考えようではありませんか。上司の指示が理不尽なものに感じたら、「自分にとっての価値は仕事で結果を出すこと。上司の要求の真意を読み取ろう」と考える。電車の遅延にイライラしたのなら、「これからは通勤ラッシュを避けてもっと朝早く移動しよう」などの解決策を考える。このようにすれば、怒りのエネルギーを生産的な行動へと変換することができますよ。
*** 怒りは人間だれもが持つ自然な感情です。したがって、何かや誰かに怒ってしまうことは、仕方のないことでしょう。しかし、怒りに振り回されて身をほろぼすか、それとも怒りをやる気に転換できるかは、自分次第です。ぜひ、怒りを利用する方法を試してみてくださいね。
(参考) 東洋経済ONLINE|「怒りエネルギー」が導く“成功”と“破滅” 日テレNEWS24|中村教授、LED研究の原動力は「怒り」 Wikipedia|中村修二 NIKKEI STYLE|僧侶が教える、ネガティブ感情が消える心の習慣 NIKKEI STYLE|「怒りのピーク」は6秒、感情と上手に付き合う秘訣 cafeglobe|怒りをパワーに変えるには。有森裕子さんの怒りとの向き合い方