論文思考に陥らないために【書評】『医療者・研究者を動かす インセンティブプレゼンテーション』

TED TALKSやAppleの新商品発表プレゼンなど、秀逸で感動を呼ぶプレゼンが人気を博しています。現在、様々な場面でプレゼン・スピーチの重要性が説かれ、世はまさに「大プレゼン時代」。

しかし、そんなプレゼンは自分とは縁の無いもの、と考えている方はいませんか?

そう、特に理系の方々です。理系のプレゼンといえば、学会での発表や、医療関係の方の症例発表会などが思い浮かびます。経験のある方ならお分かりでしょうが、そうした場でのスピーチは、非常に退屈です。開始3分で興味を失い、眠くなるものがほとんど。

一体なぜでしょうか。

もちろん、新商品のお披露目でも、候補者から票を集めるためのアピールでもありませんから、文系プレゼンの手法がそのまま使えるとは言いません。しかし、基本的な姿勢は同じ。誰かに自分のアイデアや研究を伝え、理解してもらうために行うはずです。

今日はそんな医療者、研究者のためのプレゼンの心得を説いた書籍をご紹介します。「プレゼン=観客にものを伝える」という、その本質が見事に描き出されているので、もちろん文系の方にもおすすめです。

 

insentive-presentation02『医療者・研究者を動かす インセンティブプレゼンテーション』 杉本真樹著 KADOKAWA/アスキー・メディアワークス 2014年 assocbutt_or_buy7

 

(以下引用は本書より)

 

 

プレゼンは「観客のことを考えて」行うべき

 

学会発表でのプレゼンが退屈な理由を、著者は「発表者の自己満足になっているからだ」と語ります。

皆さんはプレゼンテーションをする際に、どんなお客さんが、何を求めているかを考えたことがありますか?そこが実は重要な、プレゼンテーションの向こう側なんです。

プレゼンの大前提がここにあります。観客のことを一番に考えるから、資料を作る手間も惜しみませんし、何回も予行練習を積むのです。プレゼンは、自分のためのパフォーマンスではない。第一にそれを考えるべきなのです。

そう言われても、一体何をするかわからない……。そんな方が多いでしょう。以下では、観客のために「何をすべきか/すべきでないか」紹介していきましょう。

 

「論文フォーマット」のプレゼンはダメ。

 

「Power Point」を知らない人はいないでしょう。プレゼンの際に一般的に使われるソフトです。パワポに入っているテンプレート(タイトルがあり、その下に箇条書きの入力スペースがある)に従ってはいけない、と著者は語ります。そのテンプレートに従うと観客に伝わらない「論文フォーマット」になってしまうからです。

【医学論文のスタンダードフォーマット】 前提→対象→方法→結果→考察→結語→文献 (中略) 確かに論文を書く際や症例報告や研究発表をする場合、こうしたフォーマットに則ると非常に良いとされています。けれども、論文とプレゼンテーションは違うのです。(中略)こういった、オーディエンス(観客)が何を求めているか、その会が何を趣旨としているか、といったことを的確に把握し、それに対して応えてあげることがプレゼンにはとても重要なのです。

プレゼンに来る人が専門家の場合、わざわざ論文フォーマットにする必要なんてないですよね。だって、彼らは論文を読めるんですから。わざわざ論文をそのまま垂れ流すより、本物の論文を読みたくなるような、思わず手にとってしまうような、そんなプレゼンをするのが一番に決まっています。

また、プレゼンを聞くのが一般人の場合。論文フォーマットを理解できるはずがありません。途中で寝るのが関の山です。あなたの伝えたいことはなんですか? 観客は何を聞きたくてここに来たのですか? それを常に意識すれば、伝わるプレゼンになるはずです。

 

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「WHY? →HOW? → WHAT?」でつなげる「プレゼン思考」とは

 

プレゼンターの意気込みだけでなく、話す順番、話し方も大きくプレゼンに影響します。著者は、プレゼンの順番は「WHY? →HOW? → WHAT? 」であるべきだと語ります。これについて、英国の著名なコンサルタントで『WHYから始めよ!―インスパイア型リーダーはここが違う』などの著書があるシネックによる指摘を引き合いに出し、次のように述べています。

シネックは、たいていの人や企業は、自分たちが「何を(What)」「どのように(How)」やったかを先に説明し、「なぜ(Why)」やるのかは後回しにするか、あるいは、あまり説明しないと指摘しています。(中略)論文を書いた本人ならば、自分たちが何をしているか(What)は十分にわかっています。また、論文にまとめる段階までには、どうやるか(How)について誰よりも詳細なデータを持っているでしょう。そのため、その部分に力を入れて語るのはもちろんです。

著者はこうした「なぜやるのか?」の部分を後回しにしたり、説明しなかったりするのを「論文思考」と呼び、プレゼンでは避けるべきだというのです。たしかに「この研究は◯◯に役立ち、世界中で注目を集め、~~なんです!」といわれるよりも、「私たちはずっと##で困っていました。だから◯◯を研究したんです!」と説明をうけた方が分かりやすい気がしますね。

なぜその研究が始まったのか、なぜその発見は役立つのか。今までの研究とはどうしてことなるのか。「なぜ(Why)」の部分には、非常に本質的な内容が含まれています。あなたの発表、研究を際立たせるためにも、ぜひ参考にしてください。

 

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退屈な学会発表も、眠くなる講演会も、もう終わりにしましょう。あなたが観客のことを考え、ひたむきに努力を重ねれば、きっとプレゼンは素晴らしいものになるはずです。

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