私は意志が弱いから、忍耐力がないから…と、言い訳をしてしまうことはありませんか。 こういった弱点、克服のためには、誘惑に負けない力や根性が必要だ、と考える人が多いのではないでしょうか。 でも、そんな根性論を持ち出さなくても、こうした弱点は直すことができるんです。
誘惑への耐性が脳の構造を左右する
マシュマロを使った有名な実験をご存知でしょうか。 米国スタンフォード大学のウォルター・ミッシェル博士が中心となって、1968~74年にかけて行われた実験です。
653人の4~5歳の子どもにマシュマロをひとつだけ見せ、「このマシュマロは今すぐ食べてもいいよ。でももし15分間食べないで待つことができたら、もうひとつマシュマロをあげるよ」
[引用元:岩崎一郎『何をやっても続かないのは、脳がダメな自分を記憶しているからだ』]
この指示のあと、大人は退室して別室から子どもたちがどうするのかを観察したのです。 結果は、6割の子どもたちがすぐにマシュマロを食べてしまい、4割の子どもたちが我慢することができました。 さらに1984年の追跡調査の結果から、我慢できた4割の子どもたちは我慢できなかった子どもたちに比べてSATという米国の大学入試の平均が210点も高かったばかりか、そのさらに40年後に行われた追跡調査で、誘惑にも簡単になびかない脳構造になっていたことがわかったというのです。具体的には、我慢できなかった人たちの脳の構造は、依存症などに関係すると言われている腹側線条体が活性化しやすく、誘惑を抑える部位(下頭前回)の活性が低めに出るようになっていたことが明らかになったのです。 脳の発達具合まで変化してくる、誘惑への耐性度。 我慢できた子どもたちはどのようにして我慢したのでしょうか。
カギは『想像力』
子どもたちは、「我慢、我慢」と念じていた訳ではありません。 我慢しようとすればするほど、人はその対象への執着が強くなってしまうことは、科学的にも証明されています。 カナダのブリティッシュコロンビア大の研究によると、人間は普段していることを禁止されることによって、より一層それに注意を向けるようになってしまうそうです。
ではどうすればいいのか。
誘惑を我慢できた子どもたちは実際にどう我慢したのでしょう。 一部の子どもたちがとったのは、注意をそらす方法です。歌を歌ったり、一人でゲームをしてみたり。対象から意識をそらすことで注意を別の方法に向けていたのです。 そして我慢がまったく苦にならなかった子どもたちがとった方法こそ、脳の構造にかなったものでした。 それが、頭の中でイメージを膨らませ、工夫して誘惑に負けないようにするというものです。 甘くてやわらかいマシュマロを、塩辛くてかたいものだとイメージすることで、対象への興味を失うことに成功していたのです。 私たちの脳は、五感で実際に知覚していなくても、イメージするだけで同じ働きをするようになっています。さっきのようにマシュマロへのイメージを変えることで、食べたい気持ちも失せるという訳です。 『意志力』を鍛えるには、「根性」よりも、「想像力」を使ったほうが、あまり無理をしないで習慣や行動が変えられるんです。
いかがでしたか。意志が弱いと感じている人、誘惑に弱いと感じている人は、あなたの我慢しなければいけないことへのイメージをマイナスのものに変えてみることが有効かもしれません。 とっても簡単なので、ぜひ試してみてくださいね。
参考・引用文献 岩崎一郎|クロスメディア・パブリッシング|2013『何をやっても続かないのは、脳がダメな自分を記憶しているからだ』