社会では、豊かな人脈を持っていることが良しとされる傾向にあります。SNSの友だちの人数、名刺交換した人の数、携帯電話の電話帳に入っている件数のように数字で見える人脈から、直接の取引先であるとか、前の会社の先輩とか、同僚のつながり、といったように人づてにつながる人脈まで、人脈にもいろいろなものがありますよね。ビジネスの場合、人脈が縁で商談がまとまったりキャリアチェンジしたりするケースもありますから、人脈が豊富であればより多くのチャンスに恵まれているというのは確かかもしれません。
さて、そうした人脈づくりを普段から意識して行っている人がどれぐらいいるでしょうか。積極的に人脈づくりをしている社交的な人がいる一方で、人との関わりが少ない仕事をしていたり、新しい人間関係を築くのが苦手であったりする人も中にはいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は、人脈づくりが苦手な人でも実践できる、人と良い関係を築いていくための方法についてお伝えしたいと思います。
人間関係とは「自然にできていくもの」なのか?
人脈づくりが苦手な人の中には、もしかすると、戦略的に人脈を築くことは「不誠実だ」「他者を利用している」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。そういう方の場合、人間関係は気の合う人同士で自然に生まれて育っていくものなのだ、と考えていることでしょう。しかし、そのような考えは、人脈づくりにとっては弊害となってしまう可能性があります。
これについて解説をしているのが、フランス、シンガポール、アブダビにキャンパスを持つビジネススクールであるインシアードの教授、ハーミニア・イバーラ氏です。イバーラ氏によれば、何十年にもわたる社会心理学の研究によって、人は放っておくと、自分に似た相手、頻繁に出会い知り合いやすい相手と関係を築く傾向にあることが明らかになっているのだとか。確かに、近くにいる親しい人との人間関係も大切ではあるでしょう。しかし、自分が居心地の良い相手としか人脈を築くことができないのであれば、意見や情報の幅は広がりませんし、多様性も決して生まれません。
また、人間は「弱いつながり」の重要性を過小評価する傾向にあるのだといいます。弱いつながりとは、頻繁には会わない相手やあまり深い知り合いになっていない相手との関係のこと。しかしイバーラ氏の解説によれば、イノベーションや戦略にまつわる知見は、親密で信頼感に満ちた内輪の人間関係よりも、この弱いつながりを通じて伝達されるのだそう。ですから、新たなアイデアを取り入れたい場合などには、現在関係が浅い人との交流にも目を向けてみるのが良いかもしれません。
自然に生まれ育っていく人間関係は確かにあります。そのような人間関係は、深く知り合っていて互いをよく知っている「強いつながり」と呼べるものでしょう。しかし、「弱いつながり」も立派な人脈のひとつ。人脈に自信がないという人は、自分と弱くつながっている相手のことを思い浮かべてみてはいかがでしょうか。
信頼関係は急げば急ぐほど逆効果
誰かに知り合いを紹介してもらい、新たにその人に対して興味を持つことがあるかもしれません。また、最近疎遠になってきた人や距離を感じるようになった人との関係を思い、寂しいと思うこともあるでしょう。
しかし、人との関係が熟す時期というのはそれぞれ異なります。お互いの立場や状況によって関係性が深まる時もあれば、時には少し距離を置いたりすることもあり、人間関係の深まり方は決して一定ではありません。ですから、早急に人間関係を築こうと躍起になるのは良くないのです。逆に人間関係が崩れてしまうことにもなりかねません。
このように解説しているのは、株式会社リンクCEOで人材育成コンサルタントの能町光香氏。能町氏は、互いに良い関係を築くには、待つことができる心の余裕、そして互いの状況を理解し合い、時間をかけながら丁寧に関係を築いていくことが重要なのだとも述べています。
人脈づくりを急ごうとするあまり、相手の懐に入ろうと積極的になりすぎたり、誘いのアピールをかけすぎたりするのはよくないようです。人脈づくりが上手くいかない人は、自分の行動を振り返ってみると、思い当たる節があるかもしれませんよ。
「教えてもらうばかり」では人は寄ってこない
『非学歴エリート』の著者として知られ、数々の企業で重要なポジションを歴任してきた安井元康氏は、ビジネスにおける人脈について次のように定義しています。
「いざとなったときや何か自分の抱える問題に対して、具体的な解決策を提示してくれるネットワーク」
(引用元:東洋経済ONLINE|「三流」は、絶対に「一流」との人脈を築けない)
学生や新人ならまだしも、社会人になっても、誰かから教わりたい、誰かに何かを与えてもらいたいという考えばかりでいては、人と知り合うことはできても、ビジネスで有益な人脈を築くことはできません。
ビジネスでの飛躍や成功につながる人脈を築くためには、ぜひ相手に「会いたい」と思われるようになりましょう。会いたいと思ってもらえる人になることで、あなたの人脈は格段に有益なものになります。
人脈を作ろうとするとき、外にある人脈に目を向け、自分から見知らぬ人に会いに行くのもいいですが、より重要なことがあります。それは、自分自身という内に目を向け、会いたいと思われる人になれるよう時間とエネルギーを使うこと。そのために、普段から自分の問題には自ら向き合い、自らの力を尽くして解決策を導こうと努力し、成果を出すようにしてください。そのうちに経験が積み重なり、自分から周囲に知見を共有できるときが来るでしょう。自分から周囲に何かを与えられる人になれば、「会いたい」と思ってくれる人は増えるはず。さらに、もし自分が困難に直面したとしても、自分から周囲に知見を与えたお返しに、解決の手助けをしてくれる人が現れるのです。
人脈を、ただの偶然の産物ではなく、未来に役立つ支援基盤と捉えることができれば、きっと有益な人脈を広げていくことができるでしょう。「ギブ・アンド・テイク」という言葉がありますよね。人脈は互恵的で、ギブとテイクを等分に行うことなのです。
*** 人脈づくりに苦手意識がある人でも、ちょっとした心がけで豊かで有益な人脈を作ることはできるのだということがお分かりいただけたと思います。みなさんも、周囲との関係の中に自分を置き、一方的ではない、相互の人間関係を築いていく感覚で、人脈づくりに前向きになってみてください。
(参考) DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|人脈づくりが苦手な人には「5つの誤解」がある DIAMOND online|一流の人は絶対にしない!間違った人脈づくりの発想 東洋経済ONLINE|「三流」は、絶対に「一流」との人脈を築けない