世の中には大まかに言って2つのタイプの勉強法がある。 〈丸暗記〉派と〈全体像をつかむ〉派だ。
〈全体像をつかむ〉派が優勢だけど……
〈丸暗記〉派はこのような勉強法を好みます ・単語カードを使う ・『一問一答』の問題集を繰り返す
〈全体像をつかむ〉派はこのような勉強法を好みます ・蛍光ペン片手にテキストをじっくり読む ・要点まとめノートをつくる
近年の傾向としては〈全体像をつかむ〉派が優勢です。
「昔の受験戦争みたいに丸暗記していてもそんな知識は役に立たない。もっときちんと全体の流れを把握して、有機的に知識を身につけなくては意味がない」
という意見が支持されています。その主張は正しい。まったくその通りです。実際に〈全体像をつかむ〉ことを重視した良書もたくさん出ています。 しかし「効率のよい学習」をしようと思ったら、〈全体像をつかむ〉派一辺倒で突き進むべきではありません。
蛍光ペンも再読も時間のムダ
効率のよい勉強法についての数千もの論文のなかから、実際にどれが効果的で、どれが非効率かをまとめた研究が発表されました。 ケント州立大学のジョン・ダンロスキー教授率いる心理学の研究グループは、多くの研究の中から10の学習方法をピックアップして詳細に検証したそうです。その結果を見てみましょう。
【最悪の勉強法】
・蛍光ペン 研究によるとただ単にテキストを読む以上の効果は見込めないことが分かった。ハイライトが学習の邪魔になるという研究さえある。ハイライトすることにより、個々の箇所に注意を惹きつけてしまい、関連性を見出し推論を行うのを妨げる可能性があるからだ。
・繰り返しテキストを読むこと 同程度に効果が低いのが再読、これも普及している方法だが、より効果が見込める方法は他にいくつもある。
・要点まとめ まとめや文章中の要点を書き出すやり方は、方法を熟知した人にとっては効果的だが、勉強時間を費やすに値するもっとよい方法がある。
【最高の勉強法】
・分散学習 直前に情報を詰め込めば、テストや会議をやり過ごせるかもしれないが、あっという間に覚えたことは記憶から消えて無くなる。それよりも、間隔を置いて教材に触れるほうがはるかに効果的だ。
・模擬試験 情報を思い出そうとする単純な行為は、知識を定着させ将来に思い出す際に効果を発揮する。模擬試験は[中略]それほど一般的な戦略ではないが、同様に効果のあるおなじみの学習方法がある。それは単語カードだ。
この研究の結果、〈全体像をつかむ〉派の勉強法はことごとく効率が悪いことがわかりました。蛍光ペンを片手にテキストを読むことは時間がかかる割に内容を記憶できません。 その一方で〈丸暗記派〉の勉強法は高い評価を得ています。一問一答を繰り返したり、単語カードで思い出す練習をする方が短時間で確実に記憶するのに効率が良いのです。
〈丸暗記〉を〈全体像の把握〉に組み込む
もちろん、この記事で「全体像をつかむよりも、丸暗記しよう!」と主張したいわけではありません。だって英単語だけを知っていても長文を読みこなせませんし、「794年平安京遷都」とだけ知っていても歴史を理解できるわけではありませんから。
結局「丸暗記も全体像の把握もどちらも大事」です。 ですが、ただ闇雲にどちらもやればいいというわけではありません。勉強のフェーズによって〈丸暗記〉と〈全体像の把握〉をうまく組み合わせることで勉強効率のアップが図れるのです。
たとえば、英語の場合。いきなり辞書を片手に英字新聞に挑戦しても時間がかかるばかりで、内容の把握も単語の暗記も捗りません。単語カードなり単語帳をつかって繰り返し英単語を暗記する。そして頻繁に辞書を引かなくても済むようにしながら英字新聞を読む練習を詰めば、効率よく英語を読みこなせるようになっていきます。
歴史の勉強も同様です。歴史をわかりやすく解説したテキストがあっても、それを読んだだけでは試験で肝心の固有名詞を思い出せず点が取れません。流れを解説したテキストを読むだけで歴史事項を暗記しようとすれば非効率です。「一問一答」で個別の知識を定着させつつ流れを把握すれば、穴埋め問題も記述問題も解けるようになります。
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〈丸暗記〉の勉強法に否定的なひとは少なくありません。 ですが、研究によって〈丸暗記〉の勉強法は学習効率が高いことが明らかになりました。一方で〈丸暗記〉だけの知識が使いものにならないことはみなさんご存じの通り。 〈丸暗記〉系勉強法は(上で挙げた例のように)戦略的に学習に組み込むことで、学習の効率化と勉強時間の短縮を可能としてくれるのです。
参考 Highlighting Is a Waste of Time: The Best and Worst Learning Techniques

