「社会人になってからの資格勉強や語学学習は難しい。加齢とともに記憶力が落ちるから」
こう考える人は少なくありません。しかし、“年齢を重ねると記憶力が低下する” という考えは間違いであることが、複数の研究によって明らかになっています

1. エビングハウスの忘却曲線によると、60代と20代で記憶力に大差はない
2. 脳の働きを決定づける神経回路の数は、年齢・経験を重ねるごとに増える

忘却曲線とは、ドイツの心理学者・エビングハウスが見つけ出した、時間の経過とともに物事を忘れてしまう法則のこと。人間は1時間後には56%を忘れ、1日後には74%を忘れてしまうのだそうですが、この法則に年齢差はないというのです。

それにもかかわらず、学生時代と比べて記憶力が落ちたと感じるのはなぜなのでしょうか? 記憶力低下の本当の原因と、今から始められる「記憶力を高める4つの習慣」を説明しましょう

記憶力低下の原因は単純に意欲不足?

いくら脳科学が加齢に伴う記憶力低下を否定しようとも、現に自分は記憶力が落ちている……と、感じている人はいることでしょう。日経ウーマンの読者アンケートによると、働く女性の4人に3人が「記憶力が落ちていると思うことがある」と回答しているそうです。

しかし精神科医の和田秀樹氏は、あえて厳しくこう言います。

「物覚えが悪くなった」と歎いている人たちは、現在学習にそこまでの意欲と時間をかけているのでしょうか。大人になるにつれて記憶力が落ちていると感じるのは、学生の頃のように意欲を持って復習にあたらなくなることも原因の1つかも知れません

(引用元:福井新聞ONLINE|「加齢で記憶力が低下」は誤解 知能も低下せず、問題は前頭葉老化 ※太字は編集部が施した)

社会人は学生に比べ、意識的に勉強する時間を作らなければ勉強時間が激減してしまいます。そして、勉強時間を作るには意欲が必要です。しかし、「昔と比べて覚えが悪い」「頑張っているのに知識が身につかない」といった悪循環に陥っていたら、意欲を高めることは困難でしょう。

そこでまずは、簡単にできることで悪循環を断ち切りましょう。おすすめしたいのが、記憶力を高める習慣を取り入れるということです。「前より覚えが良くなった」「スムーズに勉強が進むようになった」という成功体験を積み重ねれば、勉強に対する意欲も自然と高まっていきますよ

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1. 睡眠をしっかりとって記憶を定着させる

成果を出すために寝る間も惜しんで勉強に励むという姿勢は、たしかにすばらしいことです。しかし、脳科学の観点から見ると、効率的な勉強方法とは言えません。

睡眠には、脳が取得した情報を取捨選択し、必要な情報を記憶として定着させる役割があります。また、睡眠は勉強の暗記のみならず、日々の生活で覚えておきたい仕事のことや人の名前・顔といった記憶の定着にも役立ちます。早稲田大学研究戦略センター教授・枝川義邦氏は、記憶力を高めるには6時間半~7時間半の睡眠が必要だとしています。

記憶を維持する上で最適な睡眠時間は6時間半~7時間半とされています。試験対策などで寝ずに勉強をすると、記憶力と同時に集中力も落ちるので逆効果。一方で、寝過ぎて1日のリズムが崩れてもよくありません。

(引用元:NIKKEI STYLE|物忘れを防ぎ、記憶力を高める10の習慣

毎日適した睡眠時間を確保するよう、心がけましょう。

2. 勉強中にガムを噛む

咀嚼は、さまざまな面で脳にプラスの影響を与えます。

・脳の血流を促して神経活動が活性化させる
・記憶の定着で重要な役割を担う海馬を刺激する
・脳の知的領域である前頭前野が活性化して集中力が高まる

咀嚼によるメリットを手軽に得る方法が、ガムを噛むことです。日本体育大学保健医療学部教授・小野塚實氏によると、勉強中の集中力維持にガムを噛むと良いのだそう。

勉強をしていると集中力が下がってきますよね。休まないで集中力を回復させようとするとなると、ガムがいいです。ガムをかむと集中力が回復します。それはかむことのリラックス効果によるものと考えられます。

(引用元:マイナビニュース|かむことは記憶力にも影響? – かむ力の驚きの効果・効能とは

小野塚氏は、普段の食事でも噛み応えがある食べ物を摂ること勧めています。マウスを使った研究では、咀嚼が減ると海馬の神経細胞死が進むという結果も出ているので、ぜひ噛むことを意識しましょう。

3. 勉強する場所を定期的に変える

記憶には、意識的に覚えようとする「意味記憶」と、時間・場所・感情といった体験に付随する「エピソード記憶」があります。一般的に、勉強による記憶は意味記憶です。しかし、エピソード記憶のほうが忘れにくいという性質があることから、東京大学大学院総合文化研究科の教授・深代千之氏は、勉強にエピソード記憶の要素を取り入れることを勧めています。年号を語呂合わせで覚える、ストレッチしながら英単語を覚えるといった方法が代表的な例です。

より習慣として取り入れやすいのが、勉強場所を定期的に変えるという方法です。前出の枝川氏は、勉強場所を変えることで感情を揺さぶると、記憶が定着しやすくなるとしています。

記憶を引き出す際に、『緑の多いカフェで、カフェラテを飲みながらテキストのこの部分を読んだな』といった具合に、勉強をしていたときの情景が記憶のトリガーになってくれます

(引用元:NIKKEI STYLE|物忘れを防ぎ、記憶力を高める10の習慣

職場近くのカフェや図書館、自習室など、外にはさまざまな勉強場所があります。自宅を出るのが難しい場合は、部屋を変えるだけでも構いません。ぜひエピソード記憶の特性を活かして勉強しましょう。

4. 覚えたことは積極的にアウトプットする

記憶を定着させるには、ひたすら暗記をする「インプット」だけではなく「アウトプット」も重要だということが、ハーバード大学での実験でわかっています。私たちの記憶を司る海馬は、アウトプットすることによって、覚えたことを「必要な情報」と判断して記憶として定着させる性質があるためです。勉強におけるアウトプット方法の代表例が、問題集を解くことです。テキストを読み込むだけではなく、問題集を解き、紙に書くことで記憶をアウトプットしましょう。

また、記憶のアウトプットは、覚えたことを人に話すことでもできるのだそう。教育学者の齋藤孝氏は、著書『必ず覚える!1分間アウトプット勉強法』でアウトプットのコツについて次のように述べます。

アウトプットについては「一分間で意味のつながる説明をすること」を目標に定める。目の前に誰かいてもらい、あるいはいると仮定して、その人を「ぜんぜんわからない」状態から「わかった」状態に移行することを目指すわけだ。

(引用元:齋藤孝 (2011),『必ず覚える!1分間アウトプット勉強法』, PHP新書.)

理解していないことは、1分間という短い時間で的確に伝えることはできません。うまく説明できない場合は理解が不十分と考えられます。こうして理解度を確認することができるのです。

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年齢と記憶力低下に関連性がないと分かった今、学ぶことを手放してしまうのはもったいないことです。小さな習慣の変化が、記憶力向上を助ける可能性があります。ぜひ、できることから始めてみましょう。

文 / かのえかな

(参考)
福井新聞ONLINE|「加齢で記憶力が低下」は誤解 知能も低下せず、問題は前頭葉老化
All About|年齢のせいにするな!記憶力を鍛える小さな習慣 [記憶術]
NIKKEI STYLE|物忘れを防ぎ、記憶力を高める10の習慣
フミナーズ|記憶力アップの方法|自分の記憶タイプを知り「脳力」を上げる
大和薬品株式会社|咀嚼で脳を活性化
ベネッセ教育情報サイト|エピソード記憶で効率的な学習を!!
太陽笑顔fufufu|「覚えられない」は年齢のせいじゃない!記憶力の真実
齋藤孝 (2011),『必ず覚える!1分間アウトプット勉強法』, PHP新書.