現代では、心理学がとても身近になりましたね。特に「ミラーリング」という用語は、人間関係を円滑にするテクニックとして知られるようになりました。
心理学で裏づけされたテクニックを知っておくと、ビジネスにも日常生活にも役立てられますよ。今回は、活用しやすい心理テクニックをご紹介します。
- 活用しやすい心理テクニック1:ハロー効果
- 活用しやすい心理テクニック2:ミラーリング
- 活用しやすい心理テクニック3:ポジティブ・ダブルバインド
- 活用しやすい心理テクニック4:ドア・イン・ザ・フェイス
- 活用しやすい心理テクニック5:ラベリング
- 活用しやすい心理テクニック6:ツァイガルニク効果
- 活用しやすい心理テクニック7:作業興奮
活用しやすい心理テクニック1:ハロー効果
私たちの考えを大きく左右するのが「ハロー効果」です。一般社団法人・日本経営心理士協会は、ハロー効果を次のように説明しています。
対象を評価する際、その対象が持つ顕著な特徴に印象が引きずられてしまうことで対象の評価が歪んでしまう心理現象
(引用元:一般社団法人日本経営心理士協会|ハロー効果)
たとえば、髪を丁寧にセットしていてパリッとしたスーツを着ているビジネスパーソンを目にしたとき、「仕事ができそうな、ちゃんとした人だな」と思ったことはありませんか? 外見の印象によって仕事の能力まで評価してしまっているのです。
けれど、身だしなみが整っていることは、その人の営業成績や企画書の質、コミュニケーション能力などが高いことを意味するのでしょうか?
そうではありませんよね。身だしなみを丁寧にしている人でも、一般常識に乏しかったり、仕事をこなすのが遅かったり、何をすべきか自分で考えられなかったりする可能性は充分にあります。
あなたも、人との関わりが深まるにつれ、「最初の印象と違うな……」と感じたことはありませんか? それは、あなたの認知にハロー効果が関わっているからなのです。
そして、あなたが他人に与える影響にも、ハロー効果が影響しています。そのため、誰かと初めて顔を合わせる場合は特に、次のことを意識しましょう。
- ビジネスパーソンらしい、清潔感のある髪型・服装にする
- 自然な笑顔を浮かべる
- 聞き取りやすく話す
- 声のトーンを明るめにする
- 丁寧な言葉を使う
「当たり前では?」と思うかもしれません。ですが、できている人は意外と少ないのです。
「感じの悪い人だな……」「仕事ができなそうだな……」と判断され、せっかくのチャンスを逃さないよう、ハロー効果を意識してみてくださいね。
活用しやすい心理テクニック2:ミラーリング
恋愛テクニックとしても知られる「ミラーリング」。ビジネスパーソンが人間関係を円滑にするのにも役立つんです。
心理カウンセラーの大塚統子氏は、ミラーリング効果をこう説明しています。
相手の振る舞いを鏡(ミラー)に映すようにまねて、相手に親近感や安心感を持ってもらいやすくする心理効果
(引用元:マイナビウーマン|ミラーリング効果とは? 職場や恋愛で使える簡単テクニック 太字による強調は編集部が施した)
たとえば、あなたがゆっくり話すタイプだとします。かなりの早口で話す相手と会話すると、「自分とは全然違うタイプの人だ。合わないな……」と距離を感じるのではないでしょうか。
反対に、あなたと同じくらいのテンポで、言葉を慎重に選びながら話す人が相手だと、「この人と自分は似ているな」と親しみや好感を覚えるはずです。
人間は、自分と似ている相手に親近感を覚えるもの。この性質を意識的に利用し、友好な関係を築きやすくするのが、ミラーリング効果なのです。
リモートワークをしていると、ビジネスチャットでのやり取りが多いかと思います。こんなときもミラーリング効果を活用できますよ。
ビジネスチャットは比較的新しいツールなので、手紙に比べて明確なマナーが共有されていません。そのため、丁寧にテキストを作成したつもりが「仰々しい」ととらえられたり、親しみやすさを演出しようと絵文字を使ったら「失礼だ」と思われたり……ということも。
そのためビジネスチャットでは、相手のスタイルに合わせたやり取りがいいでしょう。たとえば……
- 絵文字を使う相手→自分も絵文字を使う
- 常に「お疲れさまです」から始める相手→自分も「お疲れさまです」から始める
相手のやり方に合わせると、向こうがあなたに好感をもってくれるだけでなく、あなたも相手に親しみやすさを覚えられるのではないでしょうか。
活用しやすい心理テクニック3:ポジティブ・ダブルバインド
3つめにご紹介する「ダブルバインド」には、ポジティブなものとネガティブなものがあります。今回は、会話で活用できる「肯定的ダブルバインド」のみご紹介しますね。
公認心理師の城川光子氏は、肯定的ダブルバインドをこのように説明しています。
セールスの世界では肯定的ダブルバインドはよく使われています。何かをやってほしいとき、それをやるかやらないかではなく、やることを前提とした選択肢を用意して、質問するというやり方です。
(引用元:心理資格ナビ|ダブルバインドとは 太字による強調は編集部が施した)
たとえば、営業担当者から「会っていただけるでしょうか?」の代わりに「以下の日程のうち、ご都合のよろしい日時をお知らせいただけますか?」という連絡を受け取ったことはありませんか? 会うかどうかが問題ではなく、会うことを前提として質問されるのです。
やや強引ではありますが、使う相手や頻度、内容などが適切であれば、成果につながるかもしれません。
肯定的ダブルバインドはセールストーク以外にも使えます。たとえば、上司に提案したいことがあるとき、「○○するのはいかがでしょうか?」の代わりに「〇〇するにあたっては、AとB、どちらのやり方がよろしいでしょうか?」と聞いてみては。
これまで却下されていた提案が通りやすくなるかもしれません。
活用しやすい心理テクニック4:ドア・イン・ザ・フェイス
交渉テクニックとして有名な「ドア・イン・ザ・フェイス」。学術雑誌『心理学研究』に掲載された論文では、こう説明されています。
拒否されることが前提の大きな要請を出し、相手が拒否したところで譲歩して(もともと目標にしていた)小さな要請を行うこと
(引用元:八木保樹・平林郁子(2008),「食事直後のドア・イン・ザ・フェイス・テクニック──資源としての感情による自己制御──」, 心理学研究, 79巻, 3号, pp.232-240.)
たとえば、いきなり「1年間の定期購入はいかがですか?」とすすめても、まず断られるでしょう。続いて相手に「1週間の無料おためしを利用していただけませんか?」と頼みます。
このとき、相手は「せっかく譲歩してくれたのだから……」という気になって、頼みを聞いてくれやすい、という仕組みです。
あなたも交渉したいことがあれば、ドア・イン・ザ・フェイスを意識してみましょう。たとえば、給与アップの交渉をしたいとき。
月給を5万円上げてほしいときは、あえて「10万円上げてほしい」「8万円増やしてほしい」と最初に頼んでみるのです。受け入れられれば最高ですが、断られたら「では、5万円だけでも上げていただけませんか?」と言ってみるのです。
ここで断れば、相手は2回連続で断ることになります。「あんまり無下にしたら不快にさせ、転職してしまうのでは……」「向こうも譲歩していることだしな……」という気にさせ、交渉が成功しやすくなるかもしれません。
活用しやすい心理テクニック5:ラベリング
ラベリングとは、自分や他人に「○○な人」というレッテル(ラベル)を貼ることです。レッテルを貼ることは、本人や周囲によくも悪くも影響を及ぼします。
たとえば、あなたが上司から「○○さんは、すごく仕事ができる人だから……」と言われたらどうでしょう。あなたは自身を「仕事ができる人」として認識し、上司もあなたをそのように扱います。
あなたは自身をもって仕事をこなせ、「仕事ができる人」であり続けるための努力も行なえるのではないでしょうか。
反対に、「ミスが多い人」というレッテルを貼られたらどうでしょう。「私はミスが多いから気をつけなきゃ……」と慎重に業務をこなすようになるかもしれませんが、「私は "ミスが多い人" だから」と萎縮して緊張し、かえってミスが増えるかもしれません。
ビジネスパーソンとして前向きに働き続けるには、自身をポジティブにラベリングすることをおすすめします。たとえば……
- マーケティングのプロ
- ベテランの経理
- 成績ナンバーワンの営業パーソン
このように自己認識すると、「私はプロなのだから、最新の知識を仕入れ続けよう」と意欲的になれたり、「私はベテランなのだから、このプロジェクトもうまくまとめられるだろう」と自信をもてたりするはずです。
活用しやすい心理テクニック6:ツァイガルニク効果
勉強や執筆など、毎日続けたい習慣があるなら、「ツァイガルニク効果」を利用してみませんか? 公認心理師の城川光子氏は、ツァイガルニク効果をこう説明しています。
人は達成できた事柄よりも、達成することができなかった事柄や中断している事柄の方を強く覚えている、という現象
(引用元:心理資格ナビ|ツァイガルニク効果とは)
物事をキリよく終えられると「できた!」とスッキリする一方、途中のままだとモヤモヤしませんか? このモヤモヤ感を習慣化に利用しましょう。
たとえば毎晩1時間の勉強を習慣にしたいなら、「この単元の最後までやっちゃおう」「もう少しで終わるから、キリのいいところまでやろう」と引き伸ばさず、1時間が過ぎたらすぐに中断しましょう。そうすれば「昨日の勉強、途中までだったんだよな……」という意識が残り、そのモヤモヤ感を解消するため、翌日に勉強を再開しやすいはずです。
活用しやすい心理テクニック7:作業興奮
Webメディアや雑誌でもよく語られるようになった「作業興奮」。精神科医のTomy氏はこう説明します。
実は人間の脳には、「何もしないと興奮しない」という性質があって、何もやっていない状態からやる気を出すのは難しいのです。そこで体を少し動かしてやると、皮膚や眼球から脳に刺激が入ってきます。
すると脳の側坐核という部分が反応し、神経伝達物質の1つアセチルコリンの分泌が促されます。アセチルコリンには人に積極的な行動を起こさせたり、集中力を高める作用があり、結果として「動き始めただけ」で、やる気が湧いてくるのです。
(引用元:プレジデントオンライン|精神科医が証言、科学的に正しい「モチベーション」をアップさせる方法 太字による強調は編集部が施した)
つまり、待っているだけでは意欲は湧いてきません。行動を起こすことによって意欲が生まれるのです。
そのため、面倒な業務を後回しにしたくなったときは、作業興奮の存在を思い出しましょう。「やる気が起きないのは手をつけていないからだ」と考えるのです。
いったん始めさえすれば、集中力が高まり、面倒だと思っていたことも前に進められるのではないでしょうか。
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仕事や日常で活用しやすい、7つの心理テクニックを紹介しました。けして難しいものではないので、ひとつでも実践してみてくださいね。
(参考)
一般社団法人日本経営心理士協会|ハロー効果
マイナビウーマン|ミラーリング効果とは? 職場や恋愛で使える簡単テクニック
心理資格ナビ|ダブルバインドとは
八木保樹・平林郁子(2008),「食事直後のドア・イン・ザ・フェイス・テクニック──資源としての感情による自己制御──」, 心理学研究, 79巻, 3号, pp.232-240.
心理資格ナビ|ツァイガルニク効果とは
プレジデントオンライン|精神科医が証言、科学的に正しい「モチベーション」をアップさせる方法
APA Dictionary of Psychology|labeling theory
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STUDY HACKER 編集部
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