いろんな仕事を一度にまとめてバリバリとこなす、マルチタスクが得意な人っていますよね。マルチタスクを難なくやってのけ、仕事をどんどん進める人は優秀に見えるもの。「そんな人に自分もなりたい、だけど一度にたくさんの仕事を器用にこなすなんて無理……」と嘆いている人はいませんか?
確かに、マルチタスクができる人の中には仕事で高い成果をあげている人もいるでしょう。しかし実際には、「同時に複数の仕事をこなす」のは、あまりよくないことだとわかっているのです。
ではいったい、マルチタスクが良くないのはなぜなのでしょうか。シングルタスクでも成果をあげるにはどうすればよいのでしょうか。
NO MORE「マルチタスク」
マルチタスクがいけないのは、仕事の生産性を著しく下げるからです。
あなたがテレビを観ながら本を読む時を考えてみましょう。本かテレビ、いずれかの内容は、ほとんど頭に入ってきません。この例から明らかなように、一つの情報処理を行えば、他の情報処理がおろそかになります。
このように考えれば当然のことなのですが、なぜか仕事に関しては、こんなに単純なことが理解できなくなってしまいます。時間がない、終わらない、と嘆いては複数のタスクに手をつけ、生産性をあげようと躍起になるのです。
複数のことを同時にやれば、より多くを達成できる――これは私たちの思い込みにすぎない。それによって生産性は最大40%も下がるという研究結果がある。人は本当のところ、マルチタスクを行っているわけではない。「スイッチタスク」、つまりひとつのタスクから別のタスクに素早く切り替えているだけだ。これによって自分の集中力を自分で非生産的に妨げ、時間を無駄にしているのだ。
(引用元:Harvard Business Review|マルチタスクをやめる方法と、やめるべき理由)
このように説明するのは、数多くの企業・団体のリーダーにアドバイスを行う戦略コンサルタントのピーター・ブレグマン氏です。
そう、生産性をあげる方法はいたってシンプル。「ひとつのタスクから別のタスクに素早く切り替える」こと。つまり、欲張らず、一つの仕事を一つずつ、淡々とこなすことなのです。
シングルタスクに集中しよう
さあ、ここまでわかったらあとは簡単。タブレットの電源を切り、デスクトップのブラウザを閉じて、資料作成に取り組むだけ……。
と言いたいところですが、それが一番難しいんですよね。メールチェックだってしたいし、部下の様子も気になる。デスクリサーチもしなければいけません。一つのことだけに集中するのは至難の技なのです。
以下では、シングルタスクに集中し、成果をあげるための具体的な方策を提案していきます。
1, 適度な休息
シングルタスクに、休息は欠かせません。一つの仕事を淡々とこなすのは、集中力や気力が必要だからです。一方で、マルチタスクを長時間続けるのは、そう難しい話ではありません。
メールチェック、報告書の作成、ミーティング。この3つのタスクを実行する場合を考えてみましょう。3つの仕事を1時間ずつ、合計3時間続けるのは、比較的楽にできるはず。しかし、いずれか一つを3時間ぶっ通しで続ける、となったらどうでしょうか。きっと、途中で音をあげてしまうはずです。
逆に言えば、集中力が持たないからこそ、マルチタスクになってしまうのかもしれません。適度な休憩を取り忘れ、だらだらと続けるうちに、他の作業に気を取られて中途半端なマルチタスクになってしまうのです。
集中力を維持したままシングルタスクを続け、生産性を高めるためには、休息が欠かせません。休息と言っても、軽くとるだけで大丈夫。30分に一度、水を飲んだり、60分に一度、大きく伸びをしたり。自分なりの休息を見つけ、集中してシングルタスクをやり抜きましょう。
2, 煩悩のシャットアウト
マルチタスクが起こる原因は、タスクが複数あることです。目の前に、片付けるべきほかのタスクや、気を取られる要因が複数あるからこそ、マルチタスクに手を出してしまうのです。
学生時代のテスト期間を思い出してください。学校が終わり、だらだらと夕飯を食べ、いざ勉強机へ。せっかく勉強を始めようと思ったのに、机の上にはゲームと漫画が散乱しています。これでは勉強ははかどりません。勉強、漫画、ゲーム、というタスクが3つも、同じ場所に存在しているからです。
仕事でも、全く同じことが言えます。机の上に置いていいのは、一つのタスクまで、と決めてしまいましょう。もし資料作成を進めるなら、それ以外の指示や上司からの伝言メモ、ToDoリストは見えないところにしまっておくべきです。
机の上は、資料やものを置いておく場所ではなく、作業をする場。今自分が取り組むべきタスクのみを置くようにしてください。
3, まずは「20分」続けてみる。
シングルタスクに慣れない人は、まずは20分だけ一つの仕事を続けてみてください。
人間の脳は、エンジンがかかるのに時間がかかると言われています。掃除や洗濯などの家事、テスト勉強など、私たちが「面倒だ」と思いがちな作業は、始めるまでが一番大変で、一度始めてしまえばスイスイ進む……というものが多いはずです。この仕組みは脳科学の用語で「作業興奮」と言われ、物事を継続したり、そのためのモチベーションを高めるには不可欠な仕組みなのです。
シングルタスクを続けられない人は、多くの場合この「作業興奮」をうまく使いこなせていません。一つのタスクをやってみるけれど、集中力が高まる前に別のタスクにふらふらと移ってしまう。やる気が出てスイスイ進むようになる前に、別の作業を始めてしまうんですね。一つのタスクを続けていれば、きっと効率が上がっていくのに。
だから、まずは20分続けてみましょう。他のタスクをシャットアウトして、一つのタスクを20分間、無理してでも続けてみてください。その間は、絶対に他の作業に手を出してはいけません。そうすれば、自然と集中力はつくはずです。
*** マルチタスクを防止し、一つのことに集中するのに、複雑な方法論は必要ありません。 大切なのは「一つが終わるまで他を遮断する」というシンプルな考え方。
タスク管理アプリや、ビジネス書に頼る前に、このシンプルな考え方を思い出してくださいね。
(参考) Harvard Business Review|マルチタスクをやめる方法と、やめるべき理由 nanapi|どんな時でも集中した状態まで辿りつく方法 東進ドットコム|池谷先生のカガクテキ学習法。作業興奮