プレゼンは得意ですか?
よく、海外のビジネスマンはプレゼンが得意、でも日本人は苦手……と言われることが多いですね。確かにプレゼンが苦手な日本人もいるでしょう。しかし、日本人はプレゼンができない国民性だと言い切ってしまうのは間違っています。日本には、古来から伝わるプレゼンの技術があるのですから。
そのプレゼンの技術とは、「落語」です。扇と手ぬぐいだけを使い、寄席に集まった聴衆の前で語る。まさに「純和風プレゼンテーション」であり、高度な技術を要する伝統芸能の一つです。
落語を生で見たことがある、という人は少ないかもしれませんが、「笑点」などの落語家が出演するTV番組は根強い人気を誇っています。さらに、現在ヒットしている多くのお笑い芸人が「落語でお笑いを勉強した」と語っており、日本人は古くから現代に至るまで「落語」に親しんできた、といえるでしょう。(参考:リアルライブ|落語で腕を磨くお笑い芸人たち)
そんな私たちが「プレゼンなんてできない……」と嘆くのは、情けないですよね。
今回は、プレゼンが苦手なあなたに「落語から学ぶプレゼンの技術」を紹介しましょう。
入りは「マクラ」を意識しろ!
プレゼンを決めるのは始めの3分間である。そう語るのは、日本プレゼンテーション教育協会代表理事を務める西原猛氏です。
一般的にビジネスプレゼンは15~30分間が多いですが、その長さにかかわらず開始から3分間もあれば、聞き手はプレゼンについて、最後まで聞くに値するかどうかをシビアに判断します。その判断材料は「内容」「伝え方」「熱意」の3つです。
(引用元:西原猛著(2015),『ぐるっと!プレゼン』,すばる舎. )
大学の講義を想像してみてください。さすがに、講義の最初から寝ている人は少ないはずです。始めはみんな聞いているけれど、段々と興味を失い、徐々に意識も失っていく……。逆に、講義の最初で興味深い導入をしてくれた教授の講義は、もう少し聞いてみようかな、という気になるはずです。
実はこの「入りが重要」という考え方は、落語にも存在しているのです。 落語は、大まかに分けて3つのフェーズに分けることができます。
1, マクラ(自己紹介や本題に入るための流れを作る) 2, 本題 3, 落ち(噺の終わりが来たことを聴衆に示す)
この「マクラ」の部分の重要性を説くのが、落語家の立川志の春氏。彼は、落語における「マクラ」とは聴衆との関係構築である、と語ります。マクラにおける聴衆との対話を通じて、
・「相手が何を求めているのか」当たりをつける ・内容と相手の頭の中をリンクさせる
(引用:ぐるりみち。|落語に学ぶコミュニケーション『あなたのプレゼンに「まくら」はあるか?』)
ことを意識しているそうです。志の春氏の場合、マクラでの聴衆の反応によって、噺の構成や内容を変えたりすることもあるんだとか。
ビジネスのプレゼンでも、相手のバックグラウンドや、どんなことに興味があって、自分のプレゼンに何を求めているのか。これを探ることで、聴衆との関係づくりが可能になるのです。
営業トークがわかりやすい例でしょうか。いつも自社の製品を購入してくれるリピーターに対するトークと、新規顧客に対するトークでは、内容が違いますよね。新規顧客に対しては、「自社製品を全く知らない」というバックグラウンドがありますから、製品の概要や使い方などを詳しく話すはずです。リピーターに対しては、新たな機能や細かいプランの話をするでしょう。
このように営業トークでは当然のことが、プレゼンになるとなかなかできません。
プレゼンの時、いきなり本題に入っていませんか? 平凡な自己紹介をして、聴衆を辟易させていませんか?
プレゼンも、聴衆との関係づくりを意識しましょう。引用で紹介した、志の春氏が実践する方法以外にも様々なやり方がありますから、ぜひあなただけの「マクラ」を探してみてください。
「作り変え」で、イマジネーションを呼び起こす
実際に落語をご覧になったことのある方ならわかるかもしれませんが、落語ではセットや道具はほとんど使われません。
落語家が使うのは、一枚の手ぬぐいと一本の扇子、そして聴衆のイマジネーションだけ。この制限の中で、落語家は時に大富豪になり、将軍になり、歌舞伎役者になり、変幻自在な芸術を見せるわけです。
落語には昔から伝わる噺が多く、その舞台の多くは現代の世界ではありません。それを道具なしに現代人に伝えるのですから、非常に難しいように思います。しかし、落語家はいとも簡単にそれをやってのけるのです。
(落語が長く受け継がれてきた理由のひとつは)古典落語でも時代にあうようにストーリーが微妙に書き換えられているということ。例えば、籠。江戸時代には存在していましたが現代にはもうなくなっている籠のようなものは、現代では自動車に置き換えられている。聴衆が共感しやすいような工夫がされているそうです。
(引用元:College Cafe|グローバルZEN問答(12)落語に学ぶプレゼンの極意~相手を心から感動させるには?)
聴衆のイマジネーションに依存する芸術だからこそ、落語家は噺を押し付けるのではなく、聴衆の視点に立って、どうすれば伝わるのかを考えているのでしょう。
これはプレゼンにも共通することです。業界の専門用語は、わかりやすい例えを用いて話す。スライドの中にわかりづらい表が入っていたら、手間をかけてグラフに直す。
このように、聴衆の視点に立って、自分のプレゼンを作り変えることを考えましょう。
「用意」と「卒意」でプレゼンを練り上げよう
落語家は、どうしてあんなに流暢に話せるのでしょうか。それは、事前の「用意」と噺中の「卒意」のバランスをうまくとっているからです。
「卒意」とは、話している最中に「さっきの噺はウケなかったけど、この噺ならウケるな」「今日のお客さんは落語初心者の方が多いから間を多く取ろう」と聴衆の様子を見ながら考え、噺を調整することです。先ほどの項で紹介した「作り変え」にも通じるところがあるかもしれませんね。
「用意」と「卒意」のバランスが大切なのは、プレゼンも同じ。もし「用意」をおろそかにすれば、その場の反応だけを見てプレゼンを進めることになります。これでは、整ったロジカルなプレゼンなど、できるはずもありません。逆に「卒意」をおろそかにするのも問題です。決まり切った台本に沿って、聴衆の反応を一切見ずにプレゼンを進める。これでは聴衆の心に響くプレゼンにはならないでしょう。
プレゼンテーションにおける「用意」とは、 -中身の作り込みをしっかり行い、確認をしておく。 -プレゼンする相手がどんな人で、どんなプレゼンが求められるか イメージし、反論に備えたり、詳細を求められたりした場合に 対応できるよう準備をしておく、など。 「卒意」とは -専門用語を並べ立てたりせず、聴き手のレベルや聴きやすさを意識する。 -早口にならないようにし、随所に理解しやすいような“間”を作る、など。
(引用元:グロービス経営大学院|プレゼンテーションの名手に学ぶ! ~落語家の「用意」と「卒意」~)
きっちり準備を作り込んだら、本番での調整も忘れずに。
*** こうしてみると当たり前のことばかりですが、落語が発祥した江戸時代からこのような技術が体系化されていたことを考えると、落語家の凄さに改めて感服するばかりです。
みなさんも落語家ばりの心に響くプレゼンを目指してみてくださいね。
(参考) リアルライブ|落語で腕を磨くお笑い芸人たち - 西原猛著(2015),『ぐるっと!プレゼン』,すばる舎. ぐるりみち。|落語に学ぶコミュニケーション『あなたのプレゼンに「まくら」はあるか?』 College Cafe|グローバルZEN問答(12)落語に学ぶプレゼンの極意~相手を心から感動させるには? グロービス経営大学院|プレゼンテーションの名手に学ぶ! ~落語家の「用意」と「卒意」~ Wikipedia|落語