仕事や勉強のことを考えると不安で仕方がない。嫌なことがあり、心が折れてしまった。ついイライラしたり、妬んだり、嫉妬したりしてしまう。そんなふうに自分の感情を持て余し、どうしていいか分からず困っているならば「感情のラべリング」をおすすめします。心の弾力性「resilience」が高まりますよ。

そして、その際には、あなたの「感情ノート」がきっと役に立つはず。さっそく説明しましょう。

resilienceとは

レジリエンス、リジリエンス、リジリアンス、とさまざまな表現がありますが、これらはいずれも「resilience」のこと。以前より、欧米の児童精神医学において「回復力」や「快活・元気・弾力性」という意味で扱われています。コロンビア大学・心理学教授のGeorge A. Bonanno氏は、「極度の不利な状況に直面しても、正常な平衡状態を維持することができる能力」と定義しています。

resilienceという言葉は、ストレスという言葉同様、もともとは物理学用語でありながら心理学でも使われるようになりました。物理学的にストレスは「外力による歪み」を意味し、resilienceは「外力による歪みを跳ね返す力」を意味します。

物理学的な意味でも十分 resilience のニュアンスは伝わりますが、心理的な意味合いでは「立ち直る力」「乗り越える力」「防衛力」「抵抗力」「耐久力」などさまざまな表現で伝えられています。どれが正解というわけでもないので、今回は「心の弾力性」としましょう。

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心の弾力性「resilience」を高める方法

PTSD(心的外傷後ストレス障害)に関するいくつかの論文(1995年・2006年)によれば、外傷的体験に曝された人のうち、PTSDを発症するのはごく一部なのだそう。そして、発症するか・しないかの差は、心の弾力性「resilience」が低いか・高いかの差だといわれています。もちろん心の弾力性が高いほど発症しにくいということ。

そうしたなか、アメリカ精神医学会では、resilience を高める方法として、周囲と良好な関係を維持することや、危機やストレスに満ちた出来事でも、それを耐え難い問題として見ないようにする、自信を深めるといった内容などを挙げています。

そのほかにも、セルフヘルプ(自身の問題を当事者で解決する)によって resilience を高める方法も提唱されており、そのなかには自分の感情から一歩離れて観察するマインドフルネスもあります。Google社が導入しているので、マインドフルネスを取り入れている、あるいは取り入れようとしている方は少なくないでしょう。

でも、それらだけではありません。自分の感情と距離を置き、resilienceを高めるなら、「感情のラべリング」もおすすめですよ。

「感情のラべリング」とは?

感情のラべリング」とは、感情を言語化することです。いわゆる名前をつけるということ。カルフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学科による2011年の研究では、感情のラべリングをすることにより、ストレスが低下し、なおかつ快感情までも低下したことが確認されています。つまり、自分の感情と距離を置き客観的になれるため、感情そのものを落ち着かせる効果があるということ。意図的に感情を制御しようとしなくても、その役割は果たされるそうです。

米国コネチカット大学でも、興味深い研究を行っています。研究者らは被験者を2グループに分け、双方とも冷たい水の中に手を入れてもらったそうです。そして、片方には冷たさで痛みを感じても「そのまま我慢」してもらい、もう片方には「痛みに言葉を当てはめ『感情のラべリング』をしたうえで我慢」してもらいました。

その結果、前者は平均して110.10秒しか我慢できなかったにもかかわらず、後者は211.75秒も我慢することができたのだとか。つまり、「感情のラべリング」は、ストレス耐性も高めてくれるということです。

ジョージ・ワシントン大学の精神医学教授のSteven J. Wolin氏、児童育成の博士号を持つSybil Wolin氏夫妻も著書の中で、心の痛みを克服する方法として、「ダメージに名前をつけること」を挙げています。

「感情のラべリング」のやり方

「感情のラべリング」は、いたって簡単です。たとえば、なんだか不安になって落ち着かなくなったら、その感情を「不安ちゃん」あるいは「ソワソワ君」とでも名づけ、心の中で「あれ? 不安ちゃん、また懲りずに何か心配してるの?」と、自分ではなく友人にでも話しかけるようにしてみるのです。もちろん声に出してもOK。

イライラしたら「イライラ先生」でも「ブー太郎」でも、心が折れたら「ガックリ君」、嫉妬したら「ヤキモチ女史」、妬んでしまったら「ネタミちゃん」でも「ヒガミちゃん」でも構いません。

とにかく、何でもいいので不快な感情に名前をつけ、その感情が湧き上がるたびに名前を呼び、「また来たの? よく来るねえ」とでも話しかけてあげましょう。そうすることで、ネガティブな感情が他人ごとになり、徐々に不快感が減っていくはずです。

その際、感情が湧き上がるたびに名前をつけるのではなく、あらかじめ感情に名前をつけておいて、それをノートにしておくことをおすすめします。

「感情ノート」が効果的な理由

あらかじめ「感情ノート」をつくっておく理由は、認知的な負荷を少なくするためです。

2017年に発表された信州大学の研究では、感情のラべリング方法の違いによる影響が検討されました。その結果、選択肢をもとに感情をラべリングした方が、自分自身で感情のラベルを生成するよりも、不快度などが低下したそう。その理由は、自分の感情に対して、自分でラベルづけを行うと、より自分自身の感情に意識が向けられてしまい、認知的負荷が高まってしまうからです。

もちろん、「感情ノート」をつくる際は自分でラベルづけを行いますが、そのあとは、ネガティブな感情が湧き上がるたび名前を思い出そうとせず、ノートに書かれたものの中から選択するかたちで感情のラべリングをしていきましょう。より効果的に自分自身の感情状態と距離を置き、客観的に眺めることができるはずです。

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感情を持て余したら、ぜひ自分の「感情ノート」で不快感を減らしてくださいね。そうしているうち、ノートを開かなくても感情を客観的に眺められるようになり、心の弾力性も強固なものになっていくでしょう。

(参考)
北澤加純,高橋知音(2017),「感情のラベリングの方法の違いが感情変化や認知的負荷に及ぼす影響の検討」,信州大学大学院教育学研究科心理教育相談室,信州心理臨床紀要,No.16,pp.39-49.
S.J.ウォーリン,S.ウォーリン著,奥野光,小森康永訳(2002),『サバイバーと心の回復力 逆境を乗り越えるための七つのリジリアンス』 ,金剛出版.
金剛出版|サバイバーと心の回復力
マネたま|すべて“他人事”に考えよう! 科学的に証明された不安マネジメント法4選
Wikipedia|レジリエンス (心理学)
Wikipedia|セルフヘルプ