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「幼少期に熱狂したものは価値観や倫理観の形成に大きな影響を与える」という仮説に基づいて、美少女戦士セーラームーンとそれを見て育った世代への影響を論じたのが本書である。
美少女戦士セーラームーンとは、1992年3月から1997年2月にかけて全5作が放映された大人気アニメである。アニメ放映開始と同時に、月刊誌なかよしで連載が始まっている。当時の少年少女は誰もが少女マンガの金字塔という認識を持っていた。発売された関連グッズもヒットし、20周年経ってもなおコラボ商品が発売されるほどである。

このアニメを観て育ったアラサー女性(1982年~1993年に生まれ)は、現在人生の様々な選択を迫られる年代でもあり、消費の中心とも言える世代の一つだ。彼女たちの価値観を育んだ一つであるセーラームーンを知ることで、消費行動やこの時代特有のマインドを知る大きな手がかりになるのではないだろうか。


『セーラームーン世代の社会論』

稲田豊史 著
すばる舎 2015年

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「セーラームーン世代」とは

筆者はセーラームーン世代を1982年生まれ~1993年生まれの女性と定義している。現在アラサーといわれる世代で、会社勤めでは責任あるポジションについていたり、可処分所得も増えていたりと、社会の中核を担っている世代である。それと同時に、結婚や出産などの大きなライフイベントに直面する年代でもある。

主人公の月野うさぎは14歳の女子中学生であり、アニメ作品としてのターゲットは女子小中学生であった。自らを「美少女戦士」と名乗るセーラームーンは、女子中学生の憧れの対象となった。物語は基本的に対立の構図の中で物語は進んでいく。テレビアニメ版のセーラームーン全5作において、セーラームーンたちがその時あるべき女性の姿を体現しており、逆にある種の醜さを体現している“悪”と戦う。

本書ではその戦いについて「どのような敵(価値観)と戦っているのか」を検証することで、セーラームーン世代に及ぼした影響を分析している。

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女子会の原点はセーラームーンにあった?

本書ではこの世代について「自分自身を徹底的に肯定する世代」としている。放映時に同世代だったセーラームーンたちは作品中でヒロインであり、「女子だけのチームで様々な敵を更生していく姿が視聴者に作用している」としている。

女性のキャリアアップが以前より当たり前になった会社組織における人間関係、また女子会やガールズトークという言葉も産まれた同世代女子の友情など、実社会で見られる様々な具体的現象を例に出し、セーラームーンでのシーンと照らし合わせており、セーラームーンを知らない読者に対しても納得できるよう解説がなされている。

オリジナル主題歌に見る、ファンへのメッセージ

近年のアニメではいわゆるJ-POPソングがテーマソングに起用されるケースが多い。これはアニメのタイアップという価値が大きくなってきたためであると考えているが、以前はそうではなかった。当時のほとんどの作品において、アニメ専用の書き下ろしソングが採用されていた。つまり、歌によってそのアニメの世界観を表現していたのである。

本書ではこのテーマソングの歌詞にも注目し、ターゲットとなっている女子にどのようなメッセージを送っていたかを分析している。例えば、筆者が最重要テーマソングと位置づけている「乙女のポリシー」は、女子は守ってもらうのではなく自分で未来を切り拓くべきだ、というメッセージ性の強い楽曲となっている。

原作者である武内直子氏自らが作詞している「“らしく”いきましょ」でも、相手に合わせるのではなく自分の価値観で判断し突き進もうという想いを歌っている。このように、ストーリーやキャラクターとリンクさせた詩は今でもファンの心に残っている。

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セーラームーン世代の青春を後押しした、コギャル、モーニング娘。

さらにはその時代の社会現象という、セーラームーンという切り口以外の背景に関しても言及している。セーラームーンには90年代当時革新的だったポケベルやインターネットなどが登場し、世相と積極的にリンクさせていた。他にもコギャル文化、モーニング娘。やSPEEDの大ヒットといった現象など、様々な社会背景に関しても裏づけとして言及している。

コギャルたちは人の目を気にせず、自分のなりたい自分になることを選んだ。モーニング娘。は、アイドルという憧れの存在を「自分がなるもの」と再定義した。

SPEEDは最年少が小学6年生でデビューしながら、彼女らとしては非常に大人びた歌詞を包み隠さず歌った。これらは全て女子の欲望を様々な形で体現し、女子たちの共感を呼んだ例と言える。セーラームーンと同じく、自分を重ね合わせることができる、少し大人の存在として同時代に流行した文化である。

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アラサー女性の多くが幼少期に観たと思われるセーラームーンの分析により、「揺るがない自我を確立し、自らの欲望に正直である」マインドセットを理解することができるのではないだろうか。単なる人気アニメの分析に留まらず、一つの現象を深く掘り下げ数十年に及ぶ影響まで計測する、というビジネスのケーススタディ分析としても有用である。


​​京都大学工学部に入学、3回生で総合人間学部に転学部。学部卒業後、京都大学経営管理大学院に進学しMBA取得。新卒でFMラジオ局に入社、広告営業と音楽番組・イベントプロデューサーを歴任。週2回はフットサルorサッカーをプレイ。