例えばあなたが学生で、それなりに分量のあるレポートの締切を1か月後に設定された場合、いつごろにレポートを完成させますか? すぐに取り掛かって最初の1週間で終わらせるという人もいれば、締切1週間前に終わらせる人もいるでしょう。しかし、おそらくこの記事見ている人の多くは、締切前日に終わらせたり、中には徹夜を経て当日の締切間近に完成させたりするのではないでしょうか。
今回は、そんな「早くやるべきだと分かっていても、ついギリギリになってしまう」という人に向けて、先延ばし癖を直す方法をご紹介したいと思います。そして、先延ばしの意外なメリットと、効果的な先延ばしの方法についてもお伝えします。
先延ばしにしてしまう原因
そもそも、私たちはなぜ先延ばしをしてしまうのでしょうか。
私たちの脳は、面倒・困難だがやらなければいけない物事に直面したとき、自然と恐怖を感じるようになっています。皆さんの中にも、手の付け所が分からない未知なるものへの恐怖や、失敗することへの恐怖を経験したことがある人もいるでしょう。私たちはそのようなとき、とにかく目の前の課題から逃げたくなります。そしてさらに、目の前の課題から目をそらし、自分の趣味などに逃げることで、脳は刹那的な「快楽」を味わってしまうのです。この恐怖と快楽によって、私たちは先延ばしの誘惑にかかってしまいます。
では、いつも先延ばししないで課題に取り組める人というのは、なぜこうした誘惑に屈せずにいられるのでしょう。その理由は、彼らの意志力が非常に強いからか、あるいは、意志力が少なくても先延ばしせずにいられるコツを知っているから。
意志力の強さは人によって固有のものであり、鍛えるのには時間がかかるもの。ですから、今すぐに先延ばし癖を直したいと考えている人は、意志力を鍛えようとするよりも、先延ばししないコツを知ることをお勧めします。ではそのコツについてこれからご紹介していきます。
先延ばししない方法
このパートでは、少ない意志力でも先延ばしすることなく物事に取り組むコツを紹介したいと思います。方法は大きく3つ。「チャンクダウンする」「ベビーステップで始める」「習慣化させる」です。それでは、ひとつずつ見ていきましょう。
1. チャンクダウンする
「チャンク」とは、塊のこと。つまり、「チャンクダウン」とは、塊を細かく分解し、ひとつひとつを小さくすることです。課題をチャンクダウンすると、その課題に対してやるべきことのひとつひとつがより具体的になります。
例えば、提案書の作成なら、一気に全てやりきろうとするのではなく「目的の明確化・リソースの確認・アイデア出し・構想・論理の肉付け・資料作り・仕上げ」と分解してみましょう。こうすることで、自分がまず何をすべきかをイメージすることができるので、課題に着手しやすくなるはずです。
2. ベビーステップで始める
目の前の課題に取り組む前に他の誘惑に負けてしまい、課題を先延ばしにしてしまうのであれば、とにかく課題に対して一歩踏み出せるようにする必要があります。そのための方法が「ベビーステップ」です。これは、赤ちゃんの一歩のような、とても小さな1ステップから課題に取り組むというもの。初めの一歩を小さくすることで心理的ストレスを少なくし、課題着手へのとっかかりを作るのです。
具体的なやり方としては、時間を限定する方法と、作業をとても小さなものにするという方法があります。時間を限定する方法は、「まずは5分」というように時間を決めて取り組みだすというもの。作業を小さくする方法は、例えば「資料を机に用意すること」といった具合に、とても小さなことから始めるというものです。ベビーステップで課題にとにかく着手してしまえば、その後はストレスをあまり感じずに、スムーズに作業に入っていけるでしょう。
3. 習慣化させる
意志力を使わずに先延ばしを防ぐ究極的な方法が、この「習慣化させる」というものになります。学生時代、最初は長かった通学路も時間を経るごとに短くなっていったという経験は誰しもがあるでしょう。これは、通学路を通ることが習慣化して、正しい道を判断することに意志力を必要としなくなった結果です。人は、習慣になった物事については、ほとんど何も意識せずに行動することができます。そして、これをうまく活用すれば、先延ばしは防げるのです。
例えば「新たに課題が与えられたときはいつでもすぐにチャンクダウンを行う」「毎日○時には未完成の課題に着手する」といった具合に、とにかく自分でルールを作り、ひたすら実践してみましょう。最初は大変だと感じるかもしれませんが、これが習慣化すれば、いつの間にか先延ばし癖はなおっているはずです。
先延ばしの意外なメリットと、効果的な先延ばしの方法
ここまで、先延ばしは良くないものとして、先延ばしの癖を直す方法をご紹介してきましたが、実は先延ばしによって良い効果が得られることもあります。組織心理学者のアダム・グラント氏は、TEDでの講演「独創的な人の驚くべき習慣」でこのように述べています。
素早く着手し 仕上げに時間をかけることが あなたの創造性を高めるのです。 自らのアイデアを疑い、挑戦し損なう恐怖を受け止めることが、自らを奮い立たせるのです。 少数の良いアイデアを生むために多数のまずいアイデアが必要なのです。
(引用元:TED|独創的な人の驚くべき習慣)
グラント氏は、締め切りを激しく意識して早めに課題を仕上げてしまう人よりも、完成を先延ばしにする癖がある人の方が独創性が高いといいます。完成を先延ばしにしている間に経験するあらゆることから影響を受け、着想を得やすくなるからです。仕事から離れている散歩や入浴中などに、仕事に関するアイデアが浮かびやすいのと同じですね。
ただし、ここで言う先延ばしとは「着手の先延ばし」ではなく「完成の先延ばし」であることに注意が必要です。着手を先延ばしし、締め切りギリギリまで手を付けないでいると、独創性は上がらないとグラント氏は言います。重要なのは、課題に一度手を付けたうえで、完成を先延ばしにすること。
そのため、やはり手始めの部分は、先ほどご紹介したチャンクダウンやベビーステップによってスムーズに課題に着手し、完成だけを先延ばしすると良いでしょう。例えば、本来の締切よりも前に自分で締め切りを設定し、そこまでにある程度は課題を完成させておくというやり方をすれば、本来の締切までにユニークなアイデアが浮かぶ可能性が高まって効果的かもしれませんね。
*** チャンクダウンやベビーステップで早くに課題に取り掛かったのち、完成を先延ばしさせて良いアイデアを得る。この方法を活用すれば、弱みだった先延ばしの癖が解消されるどころか、強みへと変わることでしょう。先延ばしの癖に困っている人は、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。
(参考) “未来を変える”プロジェクト|先延ばしの心理メカニズムと絶対に先延ばししない対処法とは 島津製作所|行動経済学からみた後回し癖を解消する方法 TED|独創的な人の驚くべき習慣 東洋経済ONLINE|目標を達成する人は、心をこう鍛えている!