何かを主張し、相手にその主張を受け入れてもらいたいときには、説得力がなければ難しいですよね。私自身の経験上、説得力があるなあと感じた人や本から得たヒントを参考に、説得力のある主張を行う方法について考えてみました。
偉人や権威がある人、専門家の言葉を引用する
例えば、「自分の仕事を好きになった方がよい」という主張を聞くときに、よく知らない人が急にやってきて「仕事を好きになれ! 」と言ってきたとしてもなんとも思いませんよね。しかし、「スティーブ・ジョブズ氏が
私がこれまでくじけずにやってこれたのは、ただひとつ。自分がやっている仕事が好きだという、ただそれだけなのです。
(引用元:地球の名言|スティーブ・ジョブズの名言)
と言っているよ」と言われると、「なるほど、仕事を好きになるのも悪くないかもしれない」と思えませんか?
このように偉人や権威のある人の言葉を添えただけで、だいぶ説得力が付きます。ありがたいことに、偉人の数はかなり多く、また雄弁な偉人も多いため、様々な名言が豊富に遺っています。そのため、自分の主張したいことに関係する名言も必ず見つかると思います。検索してみましょう。
また、同様の理由で、参考文献を載せたり引用して何かを主張したりすると、説得力が増します。本や論文も多種多様なものが出版されていますので、ぜひ探して参考文献として採用・引用しましょう。
数字を使う
例えば、何かに対し反対の主張をしたいときに、「たくさんの日本人も反対しています」と言ってしまうと、「たくさんって何人だよ」とつっこみを入れられてしまいます。このように、主観的な言葉を使うのは説得力がないのです。では次のように言うとどうでしょう。
「少なくとも1千万人の日本人が反対しています」
日本人の人口は約1億2千万人ですから、およそ12分の1の人が少なくとも反対しているということになります。そうすれば、この主張は傾聴に値するものだとされ、説得力もより一層強くなります。
このように、数字を使って具体性を持たせることは、説得力を付けるためには重要なことなのです。もちろん数字を出すときには、その証拠も同時に示すことが大切です。
経験談を語る
科学的にはナンセンスですが、意外と説得力があります。特に、自分と似たような立場の人間が経験したことは、自分自身にとってもリアルな体験として想像しやすいので、より説得力が増します。
また面白い経験談は記憶に残りやすいもの。いろいろな人が発表する発表会のような場面では、できるだけ面白い経験談を織り交ぜておくと、自分の主張が忘れられずに済むというメリットもあります。
相手の受け入れやすい主張をする
例えば、「勉強しろ」と頭ごなしに主張されても、勉強が嫌いならやる気が起きませんよね。しかし、「勉強して、いい大学に入って、いい会社で働いて幸せになろう」と言われたら、先ほどよりは受け入れやすいですよね。(いい大学に入ったからと言っていい会社に入れるかもわかりませんし、いい会社に入れたからと言って幸せかというと疑問ですが……)
このように、相手に合わせて、受け入れやすい主張に変えましょう。特に、頭が痛くなるような主張をする際は、具体的なメリットを盛り込むことでかなり説得力が増します。
反論時は一度相手の意見を受け入れる
反論するときに、「いや、それは間違っている」ときっぱりと言ってしまうと相手の態度は硬化し、正しい事を言ってもなかなか受け入れてくれなくなってしまいます。
そうならないためにも、まずはいったん相手の意見を受け入れましょう。そして、「確かに~という主張は理解できる。~だからね。しかし、こうしたらどうだろう。~という意見では改善できなかったことがこちらだと改善できるよね」などと言ってみましょう。そうすれば、相手も「自分の意見をしっかりと理解してくれているな」と思うので、反論も誠実に聞いてくれます。
フレーミング効果を使う
唐突ですが、70%の成功率の薬と、30%の確率で失敗する薬、どちらを使いますか?
よく読めば同じことを言っている文章なのに、多くの人は前者を選ぶんだとか。このように表現の仕方で選択が変わってしまう効果を、フレーミング効果と言います。そして、実験によると、人は失敗率の方に過敏に反応してしまうのです。そういうわけなので、何かを主張するときには、できるだけ利益の方を強調しましょう。
再び唐突ですが、600人を死に至らしめる感染症を止めるための政策Aと政策Bがあるとします。二つの政策には、次に述べる二つの特徴があります。どちらを選びますか?
政策Aを適用すると、200人が助かる。 政策Bを適用すると、600人が助かる可能性が3分の1あり、だれも助からない可能性が3分の2ある。
(引用元:スーザン・ノーレン・ホークセマ,バーバラ・フレデリックソン,ジェフ・ロフタス,クリステル・ルッツ著,内田一成訳(2015),『ヒルガードの心理学 第16版』,金剛出版.)
この場合、政策Aを選んだ人が多かったのではないでしょうか。次のような場合はどうでしょう。
政策A’を適用すると、400人が死ぬ。 政策B’を適用すると、だれも死なない可能性が3分の1あり、600人全員が死ぬ可能性が3分の2ある。
(出典:同上。筆者にて政策名を改変)
この場合、政策B’を選ぶ人が多いようです。聡明な皆様ならお分かりのとおり、AとA'、BとB'は実質的には同じものです。ではなぜ違う政策を選んでしまうのでしょうか。
AとBを比べた時には、一か八かのBより、確実な利益のあるAを選ぶ人が多く、A'とB'では、確実な損を少なくしようとし、B’を選んでしまうのだそうです。つまり、人間は確実な利益を選び、確実な損を避ける傾向(リスク回避傾向)にあるのだとか。
このことから、利益は強調し、損はできる限り上手い文言を使い強調しない方がよさそうです。(もちろん損を隠すのは、不誠実だし、時には詐欺になってしまう行為なのでやめましょう)
わかりやすい具体例を入れる
相手にとって、分かりやすくて想像しやすい具体例などを随時入れましょう。具体例は、相手自身の実感として、主張をとらえてもらえる良い契機を作ることができます。相手に「確かに」と思わせる具体例を出せれば、かなりの説得力を持たせることができるはずです。
今回の記事では例を意識的に多く出してみました。果たして説得力はあったでしょうか……。
*** 挙げてきた方法の中から、使えそうなものを何個か選び、組み合わせることで、ぜひ説得力のある主張をしていただけたらと思います。
(参考) 地球の名言|スティーブ・ジョブズの名言 スーザン・ノーレン・ホークセマ,バーバラ・フレデリックソン,ジェフ・ロフタス,クリステル・ルッツ著,内田一成訳(2015),『ヒルガードの心理学 第16版』,金剛出版.