最近どうも頭がうまく回らない…、あるいは仕事が捗らない……、と感じたら、脳の神経細胞を増やす習慣を取り入れてみてはいかがでしょう。大人の脳内で新たな神経細胞が誕生する現象「神経新生」を探り、そのカギとなる行動や食事をご紹介します。
生まれつづける神経細胞
神経細胞は、私たちの脳を構成している特殊な細胞。ニューロン(神経単位)とも呼ばれています。その数は、脳全体で千数百億個にもなるのだとか。また、神経細胞から伸びている枝のようなものを全てつなげると、100万kmもの長さになるそうです。この、巨大な神経細胞のネットワークを電気信号が駆けめぐり、認知・学習・記憶・運動・感情といった高度な情報処理を行っています。
以前、神経細胞は大人になると生成されなくなり、減り続ける一方だと考えられていました。米マサチューセッツ工科大学のアルトマン博士が、1960年代始めに「成体脳のニューロン新生」を発見していたにもかかわらず、この発見はほとんど無視されていたのです。しかし、1990年代後半になってこの考え方は完全に否定され、実際には神経新生(Neurogenesis)という現象で、大人になってからも神経細胞が新たに生まれてくることが分かりました。
その現象が起きているのは、脳の海馬という部分。カロリンスカ研究所で働くヨナス・フライセン氏によると、「人間は、1日当たり700個の新しい神経細胞を海馬で生成している」と推測しているそうです(2015年時点)。
しかも、神経新生は、私たちの行動でコントロールすることが可能なのだとか。
神経細胞を増やすには
キングス・カレッジ・ロンドンの神経科学者であるサンドリン・チュレ氏や、日本の研究グループによれば、神経細胞を増やしていく行動や食事は次のとおりです。
<神経新生を活性化する行動>
・学習 ・ランニングなど
<神経新生を活性化する食事>
・20~30%程度カロリーを制限する ・食事を一定間隔にする(間食を控え、食事と食事の間の空腹時間をつくる。断続的な断食) ・ダークチョコレートなどに含まれるフラボノイドを摂取する ・青魚や緑黄色野菜、豆類などに含まれるオメガ3脂肪酸を摂取 ・ブドウ、ブルーベリー、クランベリーやワインなどに含まれる「レスベラトロル」(※1)を摂取 ・咀嚼が必要なものを食べる(やわらか過ぎないもの)
(※1)ポリフェノールの一種。新しく生まれた神経細胞の生存期間を長くする効果がある。
神経新生を「不」活性化する行動と食事
逆に、神経新生が活性化されない、マイナスの行動と食事は以下のとおりです。
・ストレス ・睡眠不足 ・やわらかい食事(咀嚼をあまり必要としない食べもの) ・食品添加物エタノール(酒精)を摂取 ・飽和脂肪酸( 脂身のついた肉、ひき肉、鶏肉の皮、バター、ラード、ココナッツオイル、生クリーム、卵など)を大量に摂取
ただし、肉や卵に含まれるアラキドン酸は神経細胞の増殖を促進するので、極端に食べ控えてしまうのは逆効果です。東北大学大学院医学系研究科教授の大隅典子氏は、「(メタボを気にして)肉や卵をほとんど食べない生活を続けていると、アラキドン酸(ARA)の摂取量が極端に少なくなり、神経細胞が増えにくくなる」と述べています。
手軽にできる神経細胞を育てる運動
なお、神経細胞を育てる運動とはいえ、人によって「ランニング」は少しハードルが高いかもしれません。実は筆者も走ることが大の苦手……。笹川スポーツ財団(東京)の調査によれば、2016年に年1回以上ジョギングやランニングをした推計人口は893万人だったそうですが、この数はピークの2012年から100万人以上減っているのだとか。
そこで、神経細胞は増やしたいが走るのは苦手という方のために、とっておきの方法をご紹介します。それは、通勤時、ショッピング時、旅行時などに、エレベーターやエスカレーターを使わずに、階段を使うこと。
日本体育協会スポーツ科学委員会によれば、階段の上り下りはジョギングとほぼ変わらない運動強度があるそうですよ。もちろんジョギングより速めに走るランニングほどの運動強度はないかもしれませんが、苦手だからと何もしないより効果を得られるのは明確です。要は、血のめぐりを良くして、脳に新鮮な空気と血液が運ばれることが重要なのです。ぜひ取り入れてみてくださいね。
*** 子供たちの食事パターンを変え「集中力、注意力、短期記憶力」を測る研究を行った結果、「食物繊維が多く血糖値が上がりにくい食事」をとった子供が、30分後に行った試験でも、2時間後に行った試験でも1番成績が良かったそうです。食物繊維が少なく、血糖値が急激に上がる食事をとるとインスリンが活発化するため、一気に血糖値を下げてしまいます。その結果、血糖値が下がりすぎて頭がボーっとしやすくなるわけです。
食物繊維が豊富な野菜や穀物は、しっかりとした咀嚼も必要なので、神経細胞を育てることにも役立ちます。一石二鳥ですね!
(参考) 理化学研究所 脳科学総合研究センター(理研BSI)|ニューロン 脳について tokyomed-histology-neuroanatomy ページ!|大山 恭司の研究 日本動脈硬化学会-公式サイト-|コレステロール摂取に関するQ&A NIKKEI STYLE|太りにくく、頭もさえる「ベストな朝食」の条件とは ブレインヘルスニュース|No.25 大人でも増え続ける脳の神経細胞 エキサイトニュース|マドンナも実践!運動強度はジョギングと同等「階段昇降」エクササイズの効果 日本経済新聞|ランナー人口、4年で100万人減 笹川スポーツ財団調査