誰しもインパクトのあることは鮮明に記憶しているはずだ。
親しい人の死、目の前で起きた交通事故……。 大きな出来事、特に悪いものはなかなか忘れることはできない。
それは人間の脳が本能的に「不快だと感じる状況」を記憶、それを避けようとするからなんだとか。
自分の危機を察知し記憶する。我々の先祖が身につけた偉大な能力の一つだろう。今日ご紹介するのは、そんな人間の本能を利用した記憶法。
恐怖は記憶力を向上させる!?
こんな実験がある。 恐怖条件づけしたラットの脳波を測定すると、睡眠中に脳の記憶を司る「海馬」の脳波が活発になる。 「恐怖条件」というのは脳科学の実験でよく用いられる用語だ。例えば電気ショックと一緒にブザーをラットに聞かせると、ラットはブザーだけでも身をすくめるようになる。
これが恐怖条件付け。自分への危機と関連されたものは、強く記憶できるようになるのだ。
冒頭でも紹介したとおり、生物が危機を察知する能力は非常に優れているのだとか。
もし普通の勉強にも応用できれば、効率はグーンと向上するはず。今回はそれを可能にするアイデアを考えてみたいと思う。
飢餓と寒さ。生物の「二大危機」を味方にして記憶を強める方法。
とはいっても、英単語を一つおぼえるために電気ショックを流すわけにはいかない。強烈に記憶できても、痛いのはやっぱり嫌だ。
そこで、今回利用するのが「空腹と寒さ」。現代ではちょっと我慢すれば済むが、我々の先祖にとっては大問題だったはずだ。
獲物が獲れない冬。空腹に耐え、寒い洞窟の中で、震えながら身を寄せ合って夜を明かす。 そもそも人類はほとんどの時間をそうやって過ごしてきた。我々のDNAには、「空腹と寒さ」に対する恐怖が刷り込まれているのだ。
だったら、その強烈さを生かしてやればいい。 自らその「危機的環境」を作り出すのだ。
1、勉強前に飯は食うな!
眠くなってしまうから、食事前に勉強する。よく聞く話だが、食事前に勉強することは集中力が上がるだけではない。空腹という危機を脳は敏感に察知する。記憶力自体も相当アップしているのだ。
2、暖房を切れ!クーラーはつけろ!
冬、あたたかいこたつの中でぬくぬくと勉強してはいないだろうか。もし効率よく勉強したいのなら、こたつから出て、暖房を切るべきだ。夏だったら、クーラーはしっかりつけよう。気温が低い環境は、絶好のチャンス。寒い日も、ちょっとだけ我慢して勉強してみよう。
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いかがだろうか。自分を追いつめろ、というスローガンを聞いたことがある人も多いかもしれない。ただ、がむしゃらにやるのではダメ。具体的に、戦略的に自分を追い込んでみよう。まずは環境から。きっと一段階上の自分が見えてくるはずだ。
参考 黒石岳広, 辛島彰洋, 片山統裕, & 中尾光之. (2012). 恐怖学習後の睡眠時脳活動の計測と解析 (BCI/BMI とその周辺, 一般). 電子情報通信学会技術研究報告. MBE, ME とバイオサイバネティックス, 112(297), 53-57.
池谷裕二著「脳の仕組みと科学的勉強法」

