「投資家」「株式投資」と聞くと、なんとなくネガティブなイメージがある人も多いのではないでしょうか。
「株」や「投資家」がニュースになるときは、たいていあまり良くない話ばかり。株価が暴落しただとか、インサイダー取引や粉飾決済で逮捕されただとか、それからたとえば、「リーマンショックは、投資家たちの過剰な住宅ローンへの投機に端を発した」だとか。
このような話ばかり聞くと「投資」=金の亡者たちによるハイリスクハイリターンのゲームのような印象を持ってしまいがちです。しかし多くの成功する投資家は、徹底的なリサーチによるリスクヘッジに基づいて投資を行い、バブルに乗じたハイリスクな博打のような投資はあまり行いません。
そしてその知識と研究は、実は株式投資以外の多くの場面でも役に立ちます。今回の記事では、そんな投資のための企業分析スキルの中から、スキルとして身に着けたい戦略的な思考法を紹介していきます。
そもそも株式投資って?
当然ですが、投資を行う際に誰もが行うことは、「投資する企業を選択すること」。株を選ぶということは、株価が上昇すると推定される銘柄を選ぶということで、そのために投資家は日夜多くの経済情報を収集しています。この、銘柄を選ぶというプロセスにおいて必要とされるのが、「投資家的視点」です。求められる能力は主に3つ。「仮説を立てる能力」「批判的な視点で分析する能力」「損を受け入れる勇気」です。
それぞれの能力について見ていきましょう。
自ら仮説を立て検証する能力
企業を分析する際に有力な手がかりとなるものの一つが、有価証券報告書などの公開情報。売り上げや原価率の推移を分析し、企業が今後どう動いていくのかについての仮説を立て、さらに詳しい調査によって確認していきます。
株価が上昇するには、何かの理由によってその商品の需要が爆発的に高まった、あるいはM&Aによってシェアを大きく拡大した、など、多くの要因があります。しかしこのような情報は、ただ経済情報誌や新聞をめくっていっても見つけることはできません。情報が広まっている段階では、もう株価に結果が反映されてしまっているからです。
では、自分で株価の上昇につながる事実を見出すにはどうしたらいいのでしょう。重要になるのが、世界情勢や業界動向をしっかりと把握して仮説を立てることです。仮説が正しいかどうかを調べるために徹底的な調査を重ね、仮説の妥当性を検証します。もし仮説が間違っていたりあらたな情報が加わったりした場合には、また一から検証をし直す必要がでてきます。
このように多くの情報の中から取捨選択をし、論理的な仮説を積み重ね、多角的に検証していくという能力は様々なビジネスシーンで活用できることでしょう。
批判的分析能力
テレビで経済専門家が日々色々な情報を発していますが、人によって言うことが違ったり的外れだったりすることも多々あります。業績の下方修正が毎年話題になるように、情報誌や企業が開示する業績予想や計画は、必ずしも正しいとは言えません。そこで求められるのは、批判的に情報を分析すること。
計画はどのような根拠に基づいているのか。同じことに手を出している同業他社は世界中に存在しないのか。どこかで計画外の大幅な赤字が出る恐れはないのか。実際の有価証券報告書や業界の小さな動きなどから検証します。もちろん、調べ上げて株の購入に至っても、結果として失敗するケースも少なくありません。その失敗は、さらなる研究の題材となるでしょう。
与えられた情報を鵜呑みにするのではなく、様々な角度から調べ、考え、分析する「手間」は、投資だけではなく新規事業や営業拡大などのマーケティング的視点でも大変役に立つのではないでしょうか。
どこで見切るか、「損切り」の勇気
企業をいざ分析してみると、株価が上昇する根拠が見つからなかったり、あるいは、株を買ったは良いものの予想外にズルズル値を下げていくことももちろんあります。そこで重要とされるのが「損切りの勇気」です。結局株に勝ち続ける人は「損切りできる人」だと言われますが、自分が労力をかけて調べた情報や既に出してしまった損に執着することなく、「手放す」覚悟も必要です。
ビジネスに置き換えれば、傷が広がりすぎて修復出来なくなる前に手を打つ覚悟。新たなビジネスをいくつも立ち上げたり、たくさんの起業家を輩出したりすることで有名なリクルートは、新規事業の存続や廃止を短いスパンで決めます。「労力をかけたからどうにか頑張ろう」という視点はありません。このスクラップ&ビルトが、いつまでも新しいものを生み出す企業風土や会社の新陳代謝を高めているのです。
*** 投資を成功させるための思考や分析は、合理的な判断をするためのエッセンスを多分に含んでいます。株式に限らず、目の前の問題を多角的に分析してみることは非常に重要です。
(参考) 瀧本哲史著(2011),『僕は君たちに武器を配りたい』,講談社. ティモシー・オールセン著,浜田陽二・宮川修子・林康史訳(2006),『13歳からの投資のすすめ』,東洋経済新報社.