ミスをしたり、ちょっと注意されたりするだけで落ち込んでしまう人がいる一方、何があってもへこたれない人がいます。その違いは、「挫折に対する抗体」と「切り替えるテクニック」を持っているか否か。打たれ強くなりたいなら、その2つを手に入れましょう。
挫折がもたらすもの
「野球選手は調子がいいとボールがいつもより大きく見える」という話に興味を持った心理学者が、一般人の参加者を対象に、ある実験を行ったそうです。それは、アメフトのボールをゴールに向かってキックしてもらい、ゴールの幅とバーの高さを目測で答えてもらうというものでした。
すると、キックのチャレンジ前と後に、ある特徴的な違いが現れたそうです。ゴールに失敗した人は幅を1割ほど狭く、高さを1割ほど高く見積もったのに対し、ゴールに成功した人は幅を広く、高さを低く見積もったのだとか。チャレンジ前、この差はなかったそう。つまり、失敗した人ほどゴールが困難に見え、成功した人ほど容易に見えたということです。
心理学者のガイ・ウィンチ氏は、挫折が引き起こす症状として「自信喪失」「無力感・無気力」「不安」という3つを挙げています。上記の実験でゴールに失敗した人は、それらが始まった状態だと推察できるのではないでしょうか。ただし、大小あれど、この感情は誰にでも湧きあがるもの。大切なのはそのあとです。
そのまま負の感情に覆われてしまうことなく、気分と見方を変え、再びチャレンジしては、また挫折を繰り返し、抗体をつくっていくわけです。やがて失敗すべてをチャンスと捉えるようになり、挫折をエネルギーに変えていくようになります。それが冒頭で述べた、何があってもへこたれない人です。
へこたれない人は「挫折力」を身につけている
『挫折力 一流になれる59の思考・行動術』の著者で、株式会社経営共創基盤CEOの富山和彦氏は、へこたれない人が身につけているものを「挫折力」と表現しています。
挫折力がある人は、数多くの失敗をしている人だといえますが、それは大きな挑戦を繰り返している証だと富山氏はいいます。もしも失敗が怖ければ、失敗リスクが少ないほうへ、少ないほうへと進むでしょう。そうすれば挫折を味わうことなく、成功体験が増えていくかもしれません。しかし、前項の実験からも分かるように、成功が続けば物事をどんどん容易に考えていくようになります。それがいずれ大きな失敗をもたらす可能性は十分にあるわけです。
それに、ヘレン・ケラーが「安全とは迷信のようなもの」と伝えたように、そもそも挫折のない人生は、この地球上に存在しません。挫折に対する抗体をつくらないまま人生を歩んでいると、ちょっとした失敗にも免疫が働かず、ひどく落ち込んでしまうのです。それがひどくなれば、挫折が引き起こす症状も悪化の一途をたどるでしょう。どうせ何をやってもうまくいかない、きっと次も失敗すると思い込んでしまい、ついには本来の力を発揮できなくなってしまいます。
逆に、挫折に対する抗体があれば、冷静に原因を探って対策を講じ、何をすればいいのか明確にすることが可能になります。つまり、より多くの失敗をするということは、より多くの経験と知識と知恵と、そしてケーススタディと、方法論を得るということなのです。
挫折しても切り替えて再チャレンジする思考法
そうしたことから、失敗は決して恐れるべきものではありません。「予防注射でワクチンを接種するようなもの」と考えるといいでしょう。失敗するたびに「抗体が増えた」と思えばいいのです。
とはいえ、現時点で挫折に免疫がついていなければ、なかなかそう思うのは簡単ではありませんよね。そこで、心理学者のガイ・ウィンチ氏が紹介している「実行上手になるエクササイズ」が役立ちます。もしも何かに失敗したとき、失敗ではなく「やり方」に目を向ける切り替えテクニックです。
ステップ1:自分の失敗を書き出す
【例】: プレゼンテーションに失敗した
ステップ2:失敗の原因を書き出す
【例】: ・アプローチする内容がずれていた ・要点が分かりにくかった ・緊張した ・先方が急に方針を変えた ・(↑だから)時間がなくて新たな方針に沿い検証できなかった
ステップ3:自分で変えられること・自分で変えられないことを分類
【例】:変えられること――アプローチ・要点・緊張・検証 【例】:変えられないこと――先方が方針を変えたこと
ステップ4:「自分で変えられないこと」について検証
【検証結果の例】:(それが本当に自分では変えられないかどうか検証した結果) ・前もって再度方針を先方に確認することはできる ・方針が変わったのであれば、再検証の時間を踏まえた日に設定しなおすことも不可能ではない ・状況の変化があると想定し、いくつかプランを練っておくことができる
ステップ5:これまでの内容から新しい実行方針を決める
【例】: ・状況は常に変化すると心得ておく ・状況の変化に応じたスケジュールとプラン作成 ・プレゼンテーション前に先方に諸々確認する ・要点を絞る、アプローチが妥当か検証 ・緊張を和らげるようリハーサルを繰り返し慣れる
新しい実行方針を決めた時点で、落ち込んでいる時間がもったいなくなるはず。そして、そのときにはすでに挫折の抗体がひとつ増え、経験・知識・知恵・方法論なども蓄えられているでしょう。
挫折力を磨く4つのポイント
なお、富山和彦氏は「挫折力を磨くためのポイント」として以下の4つを挙げています。ぜひ参考にしてみてください。
ポイント1:早いうちから失敗による挫折を体験する
順風満帆な人生を送ったあと、歳を重ねてからの挫折は、非常にダメ―ジが大きい。身軽なときから挫折を体験しておくと、ストレス耐性ができる。そのためにも、リスクを厭わず何でも挑戦するべき。
ポイント2:成功と失敗は表裏一体のものと考える
成功者は、失敗を乗り越えたからこそ成功できた。不遇の部署、不遇の仕事についていると感じるなら、それはある意味チャンスといえる。逆境こそ、挫折力を鍛える学校である。
ポイント3:常に一歩引いて自分磨きに専念
周りと比較して悩んだり、理不尽なことにいちいち気を揉んだりせず、一歩引いて謙虚になること。そして、どう対処したらいいかを考え、対処するために自分の能力や個性を磨くことが大切。
ポイント4:どんな変化が起こっても冷静な判断と行動を
これからの社会は想定外のことがどんどん起こる。大きな変革が起これば起こるほど、挫折力を発揮するチャンスになると心得るべき。挫折力があれば右往左往して流されることなく、冷静に状況を判断して行動できる。
「挫折力」を身につけることは、答えのない時代を生き抜く強さに欠かせないと富山和彦氏は提言しています。
*** ぜひ失敗しても気持ちを切り替え、チャレンジを繰り返し、打たれ強い人になってください。長い人生において必ず糧になっていくはずです。
(参考) 株式会社日立ソリューションズ|冨山和彦の「挫折力」と強いリーダーの条件|第1回 リーダーは「挫折力」を身につけよ 東洋経済オンライン|失敗や挫折を乗り越える人の「具体的な方法」