
AIの台頭によりビジネスシーンが大きく変わるいま、求められる人材像もまた変化していくと予測されます。その点について、現在、戦略コンサルタント会社を創業経営し、自身も戦略コンサルタント・データサイエンティストとしても活躍する山本大平さんはどう見ているのでしょうか。その答えは、「π型人材になれ」というものです。そう語るわけ、そしてπ型人材になるためのヒントを解説してもらいます。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
山本大平(やまもと・だいへい)
戦略コンサルタント/データサイエンティスト。F6 Design 代表取締役。トヨタ自動車に入社後、TBSテレビ、アクセンチュアなどを経て、2018年に経営コンサルティング会社F6 Designを設立。トヨタ式問題解決手法をさらに改善しデータサイエンスを駆使した独自のマーケティングメソッドを開発。企業/事業の新規プロデュース、リブランディング、AI活用といった領域でのコンサルティングを得意としている。近年では組織マネジメントや人材育成といった人事領域にも注力。
まわりが真似できないオリジナルの専門性を得る
「これからの時代に “食いっぱぐれない人材” になるには、どうすればいいですか?」ーーAIを仕事で本格的に使うようになってから、よく聞かれる質問です。
この問いに対して、いまの私はこう答えています。「T型人材から、π(パイ)型人材になりましょう」と。
昔のビジネス書には、T型人材という言葉がよく出てきました。縦棒が “専門性の深さ”、横棒が “知識の幅”。「ひとつ深い専門をもちながら、まわりのことも広くわかっている人材になりなさい」という意味です。
じつはこれ、私もトヨタ自動車の新人研修で言われた言葉でもあります。「君たちはT型人材を目指せ」と。その当時は「なるほど」と素直にメモしていました。ところが、その前提をガラッと変えてしまったのがAIです。
- 膨大なデータの分析
- 株式の売買判断
- レポートのたたき台づくり
ここ数年で、こうした「頭脳労働」の一部を、AIが普通にこなすようになりました。
ある世界的金融機関では、かつてウォール街にぎっしりいたトレーダーの数が、AI導入後は大きく減った、とも聞きます。つまり、「専門がひとつだけ」のT型人材は、そのたった1本の縦棒ごとAIに置き換えられるリスクがあるということです。
そこで出てくるのが、π型人材です。πは、縦棒が2本ありますよね。ふたつ以上の専門分野をもつ人材──これが、π型人材です。ちなみに、πの文字が示すように、縦棒はTより短くてもかまいません。時間は有限ですからね。
・財務 × オペレーション
・データサイエンス × 人事
こうした「掛け算のキャリア」をつくっておくと、ひとつの業界がAIで激変しても、もう一方の専門で生き残れる可能性が一気に上がります。そして、π型人材の本当の強みは「生き残り」だけではありません。複数の専門を掛け合わせることで、まわりが真似できない “オリジナルの専門性” が生まれることです。
たとえば、「データサイエンス × マーケティング」。日本のマーケターは文系出身が多いので、「数式アレルギー」がある人も少なくありません。そこに、統計や機械学習がわかる “理系頭” をもったマーケターが入ってくるとどうなるか。
⭕️「なんとなく良さそう」ではなく、勝ち筋を数字で示せる
こうした価値は、AIがどれだけ進化しても、そう簡単にはコピーされません。「T型」でも十分立派ですが、AI時代はそれだけでは心もとない。
今後は「専門の棒をもう1本、2本と増やしていく」ーー縦線は、Tほど長くなくてもかまいません。AIがありますから。ここに、キャリアとしての市場価値に大きな差が出てくると、私は考えています。

「π型人材」の受け入れがイノベーションを生む
次に、企業側の視点で見てみましょう。「なぜうちの会社からは、なかなかイノベーションが生まれないんだろう?」そう嘆く経営者・管理職の方は多いのですが、話を聞いてみると、採用している人材のタイプが驚くほど似通っていることが多いです。
- 同じ大学、同じ学部
- 同じ業界からの転職者ばかり
- 同じようなキャリアパス
これでは、出てくるアイデアもだいたい似てきます。イノベーションがもたらすのは、「ちょっとした改善」ではなく、会社を一段ジャンプさせるような飛躍です。
言い換えれば、「いままでの延長線上にはない発想」が必要になります。そのとき鍵になるのが、π型人材。そして、もう少し乱暴な言い方をすると「ちょっと変なやつ」をどれだけ受け入れられるかが重要になってきます。
ここで言う「ちょっと変なやつ」とは、単に個性的な人という意味ではありません。以下のような、「複数の専門性」をもった、常識(固定観念)のない人たちです。
・人事なのに、Pythonを書いてダッシュボードをつくっている
・マーケターなのに、製造現場での改善が趣味
いわば、職場に小さな「文化摩擦」を起こしてくれる存在とも言えるでしょう。一方、自社で一から育てた人だけで組織を固めるとどうなると思いますか?
同じ評価制度、同じ研修、同じ価値観ーー気づけば、思考のパターンまで均一化されていきます。似たような人が、似たような会議をして、似たような結論にたどり着く。それで大きなブレイクスルーを起こせ、というのは無理があるはずです。
私がこれまで見てきた、伸びている企業には共通点があります。
・変わった経歴の人が社内に何人もいる
・「ちょっと変わった経歴」をおもしろがる空気がある
こうした会社は、必然的にπ型人材の割合も高くなります。そして、その「ちょっと変な人たち」の組み合わせから、新しいサービスやビジネスモデルが生まれているケースを何度も見てきました。
要するに、イノベーションは「優秀なT型人材をきれいに並べた結果」から生まれるわけではありません。専門領域が2本3本ある人間同士が、意見を言い合うなかで、思わぬ化学反応が起きる。「その土壌を用意できるかどうかが企業の勝負どころ」だと感じています。

自分が避けてきた人たちと会って、自分の「サードドア」を見つける
では、そんなπ型人材に自分が近づいていくには、何から始めればいいのか。私がおすすめしているのは、まず「自分の業界の外の人に会いに行くこと」。たとえば、次のような行動です。
・人事の人が、データサイエンスのコミュニティをのぞいてみる
・マーケターが、医療や教育系のイベントに顔を出してみる
おそらく、抵抗や怖さを感じる方が多いでしょう。他業界の人は、文化も考え方も180度違うかもしれません。でも、その “場違い感” こそがチャンスです。そこで飛び交っている言葉や、当たり前の前提が、自分の世界とまったく違うーー。
そこで生まれるのが、「こんなおもしろそうな分野があったのか」「その考え方、うちの業界に持ち込んだらめちゃくちゃ効きそう」という、いわば “第二領域のタネ” です。
ここで、ひとつ好きな概念を紹介させてください。「サードドア【第3の扉】」という言葉があります。アメリカの作家、アレックス・バナヤンが提唱した考え方です。彼は、ビジネスにおける成功を「人気クラブに入ること」にたとえました。
・セカンドドアは【VIP専用の裏口】→特別なコネがある人だけがスッと入れるルート
そして、多くの人が気づいていない、もうひとつの入り口がある。それが「サードドア」です。厨房の裏口かもしれないし、ちょっと開いた窓かもしれない。つまり、「常識や既存ルールを疑い、自分なりの抜け道を見つけることで、ゴールにたどり着く」という考え方です。
さらにおもしろいのは、サードドアって、一度知ってしまえばその人にとっては「あたりまえの入り口」になることです。知っている人からすると、「いや、みんな普通にこのルート通ってるよ?」という感覚です。
でも、知らない人から見ると、「ずるい! そんな入り口があったの?」と思わず叫びたくなるような差になります。この「ずるい!」と感じる発見こそ、他業界の人との交流から生まれるサードドアなのです。
「ずるい! そんなやり方で営業してるの?」
「ずるい! そんな仕組みでコスト下げてるの?」
「ずるい! そんなキャリアの積み方があったの?」
そう感じたら、チャンス。それは、自分のサードドアの存在を嗅ぎつけたサインかもしれません。その「ずるい!」を、自分の業界に持ち帰り、じっくり咀嚼して、自分の専門と掛け合わせていく。
このプロセスが、T型からπ型へと変化していく最初の一歩です。気づいたら、あなた自身が周囲からこう言われるようになるはずです。
「ずるいな、そのポジション」「なんでそんな組み合わせのキャリアになってるの?」
誰かにそう言われたとき、あなたはもう立派な「時代に求められるπ型人材」になっているのだと思います。

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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
