
資料を完璧に準備し、筋道を立てて説明した。間違ったことはなにひとつ言っていない。それなのに、会議で提案は通らなかった……。そんな「正しくて論理的なのに伝わらない」という悩みに正面から答える一冊、『もしガリレオの伝え方がうまかったら』(かんき出版)が刊行されました。著者は、トヨタ自動車、TBSテレビ、アクセンチュアを経て、現在は戦略コンサルタントとして活躍する山本大平さん。自分の話がなかなか伝わらないと感じている人に向けて、本書に込めた考えと、その裏側にある実体験をじっくり聞きました(全3回)。
取材・文/STUDY HACKER編集部
【プロフィール】
山本大平(やまもと・だいへい)
戦略コンサルタント。F6 Design株式会社CEO。京都大学大学院エネルギー科学研究科を修了後、新卒でトヨタ自動車に入社し、新型車の開発業務に携わる。トヨタ全グループで開催されるデータサイエンスの大会での優勝経験をもつほか、常務役員表彰・副社長表彰を受賞。その後、TBSテレビに転職し、「半沢直樹」「レコード大賞」「SASUKE」など看板番組のプロモーションやマーケティング戦略を数多く手がける。さらにアクセンチュアで経営コンサルタントの経験を積み、2018年に戦略コンサルティング会社F6 Design株式会社を創業。初著書『トヨタの会議は30分』(すばる舎)は10万部を超えるベストセラーに。最新刊は『もしガリレオの伝え方がうまかったら』(かんき出版)。
- 「話し方」は、伝え方のごく一部でしかない
- 「ナンセンスですね」の一言で、2ヶ月干された
- なぜ干されたのか。研究室と会社では「前提」が違った
- 「正しさ」より「適切さ」。ただし、忖度とは違う
- 承認を取るなら「金曜のランチ前」。100回の実験でわかったこと
「話し方」は、伝え方のごく一部でしかない
世の中には「伝え方」や「話し方」の本があふれ、「結論から話せ」「話し方が9割」と、そのほとんどが「どう話すか」に集約されています。私はそこに、ずっと違和感を抱いてきました。
というのも、話し方とは伝え方のごく一部でしかないからです。日ごろの行動や振る舞いといった動作もコミュニケーション(伝え方)のうちですし、相手との関係、相手が置かれた状況といった話す前の大前提によって、同じ言葉でも伝わり方はまったく変わります。
コミュニケーションが苦手な人ほど、その小手先のテクニックを磨こうとします。でも、それだけでは絶対にうまくいきません。
そもそも人間は、論理だけで判断する生き物ではなく、感情の動物です。私たちは自分たちのことを「論理的な生物」だと思い込みがちですが、私はむしろ、人間を「感情で動く動物」くらいに捉えてコミュニケーションを取ったほうがいいと思っています。どれだけ正しい論理も、相手が感情剥き出しの状態では、正しく受け取ってもらえないからです。
では、感情の動物である人間を動かすには何が必要なのか。少なくともそれは、小手先のテクニックや、無駄を削ぎ落とした完璧な話し方でもありません。人間の本能を理解せずそのような話し方をすると、的を射た一言が、人間関係を一瞬で破壊してしまうのです。

「ナンセンスですね」の一言で、2ヶ月干された
トヨタに入社して2年目のことです。ちょっとした打ち合わせの席で、他部署の上司から「この案、率直にどう思う?」と意見を求められました。その上司が考えた、クルマの機能改善についての対策案です。
ただ、私はその案を実行すれば別の不具合が生じることに気づいていました。データもあり、確信もありました。だから、無駄なことは言わず、聞かれたことへの結論だけをこう答えたのです。
「ナンセンスですね」
その瞬間、上司の顔がみるみる怒りの表情に変わっていきました。私としては、この一言で終えるつもりはなく、続けて「こうしたらどうですか」という提案につなげる考えでした。しかし、その隙もないまま上司は激怒し、会話は強制終了です。
それだけでは終わらず、その日を境に、社内の誰もが私に話しかけてくれなくなったのです。周囲の人たちも気を使って距離を置くようになり、誰とも仕事ができない。要するに、干されたわけです。その状態は2ヶ月続き、結局、別の上長が見かねて取りなしてくれるまで、私は職場で孤独に過ごすことになりました。
当時の私には、なにがいけなかったのか、さっぱりわかりませんでした。頭のなかにあったのは、「聞かれたから答えたのに・・・」という思いだけ。間違ったことを答えたつもりはなく、その上司は「ナンセンス」と考えた理由を聞いてくることすらありませんでした。
なぜ干されたのか。研究室と会社では「前提」が違った
干されてしばらく経って、ようやく気づきました。「ああ、社会は研究室とは違うんだ」と。
トヨタに入る前にいた大学の研究室では、誰もが遠慮なくストレートに意見を言うのが普通でした。科学の世界では、研究の再現性を立証していくために、むしろ事実ベースの情報をストレートに求められます。その前提のうえで議論が繰り広げられていきます。なので、批評的な意見や懐疑的な意見や可能性を、直球で言い合った方が良いという前提があります。
ところが、会社はそうではありませんでした。たとえば「いい車をつくりたい」「いいドラマをつくりたい」という思いをみなが同じ優先順位で共有しているとはかぎりませんし、極論を言えば、部下に越えられたくないというプライドやメンツを優先する人だっているし、出世したいを優先する人だっています。要は、社会は、前提が人によっては異なる世界だったのです。
あのとき、相手は他部署の上司でした。組織の構図として、私を守る理由がそもそもない相手です。そんな相手に、ほかの部下たちが見ている前で「ナンセンス」と答えてしまった。上司からすれば、恥をかかされた形になったわけです。
これが1対1の場や、冗談を言い合える関係だったら、笑い話で済んだかもしれません。いま思えば、まず「それもいいですね」と一度受け止めたうえで、自分の考えを伝えるべきだったのでしょう。当時の私は、そうした場の機微をまったく読めていませんでした。
「ストレートに意見を言っただけの部下を干すなんて、上司のほうが問題だ」と思う人もいるでしょう。でも、非は私のほうにあったと思います。
あの案がナンセンスだったこと、つまり私の意見そのものは、いまでも正しかったと思っています。でも、信頼関係もできていない相手に、聞き手への配慮もなく、正しいと思うことをストレートにぶつけてしまった。コミュニケーションとしては、大間違いでした。しかも、話し方のテクニック本に書いてあるような「無駄なく的確に」答えてしまったのです。

「正しさ」より「適切さ」。ただし、忖度とは違う
この経験から私がたどり着いたのが、人に何かを伝えるうえで大切なのは「正しさ」よりも「適切さ」だという結論です。
適切さとはなにか。一言で言えば、「相手が気分よく受け取れるかどうか」という観点が入っているかどうかです。正しいことは、もちろん言わなければなりません。でも、それだけでは足りない。「これを言ったら、相手はどう思うのか」を第一に考え、そのうえで正しいことを織り込んでいく。相手が心のシャッターを閉じてしまったら、どれだけ正しいことも届かないからです。
こう言うと、「それは忖度や迎合ではないか?」と思う人もいるでしょう。違います。たとえば車づくりで、上司の案のままでは故障につながるとわかっているのに、空気を読んで黙っている。これは迎合であり、担当者として絶対にやってはいけないことです。責任上、言わなければならないことは必ずあります。
ただ、その正しい意見ですら、相手を不機嫌にして受け入れられなかったら、結局お客さまに多大なご迷惑をかけてしまいます。仕事はひとりでは完結できません。正しさを仕事の真の成果につなげるためにこそ、その「適切さ」が必要なのです。相手の感情という土台があって、その上にはじめて正しさが乗る。「正しいことをしているのに認めてもらえない人」は、かつての私も含めて、逆に考えているのかもしれません。

承認を取るなら「金曜のランチ前」。100回の実験でわかったこと
適切さと深く関わるのが、「いつ話すか」というタイミングの問題です。私は、話の中身や順番よりも先に、まず「いつ話すか」を考えた方がよいと思っています。
サラリーマン時代、ちょっとした実験をしたことがあります。上司への承認を、月曜の夕方に取りに行くのか、金曜のランチ前に取りに行くのかで、結果がどう変わるかを比べたのです。機会はおよそ100回。
結果は歴然でした。月曜の夕方だと、ほとんどがネガティブな反応。ところが金曜のランチ前は、ほぼ「いいね、やってみて!」だったのです。
同じ金曜でも、雨の日より晴れの日のほうが圧倒的に通りやすい。科学的な検証まではしていませんが、週末を前にした解放感が影響しているかもしれません。
なぜ、これほどタイミングが結果を左右するのか。冒頭でお話ししたとおり、やはり人間は感情の動物だからなのでしょうか。たとえば、買ったばかりの愛車をうっかり擦ってしまって激しく落ち込んでいる人に、「修理費はこのくらいで済むから」とどれだけ正論を並べても、その言葉はまったく耳に届かないでしょう。
だから私は、実際に相手へなにかを伝えるときの感情と論理の配分は「感情8、論理2」くらいがちょうどいいと考えています。
私はこれまで、経営コンサルタントとして多くの企業を支援してきましたが、お客さまの悩みや課題を、突き詰めて振り返って考えると、9割は人間関係に行き着くような気がしています。「あの役員の主張は筋が通っていない」と論理の問題のように語られていても、要は他の経営陣に「ムカついている」だけ、ということが本当に多い。
実際のコンサルティングの現場でも、論理的に正しい提案を突き詰めるより、クライアントの役員同士の感情的なもつれを修復した方が、かえって業績がすんなり上がっていくケースを何度も経験しています。
正しくて論理的であることは、なにも間違っていません。しかし、それは『伝わる』ためのひとつの要素にすぎません。次回は、テクニックを支える「土台」と、誰でも使える「型」についてお話しします。
【山本大平さん ほかのインタビュー記事はこちら】
- 伝わる話し方に「テクニック」はいらない——コミュニケーションにもっとも大切な土台「アンテナ力」とは(※近日公開)
- もしガリレオの伝え方がうまかったら——地動説は「罪」にならずに済んだのか(※近日公開)
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社 代表取締役/株式会社スタディーハッカー創業者。1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
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/ 著書(amazon)
