伝わる話し方に「テクニック」はいらない——コミュニケーションにもっとも大切な土台「アンテナ力」とは

山本大平さんインタビュー第2回・伝え方を支える土台と口2耳8・1分だけいいですかの型を語るコンサルタントの記事アイキャッチ

エレベーターで上司と2人きり。気まずさに耐えかねて、意味もなく階数表示を見上げてしまう……。「人間関係が大事」とわかってはいても、具体的になにをすればいいのかは、案外わからないものです。『もしガリレオの伝え方がうまかったら』(かんき出版)の著者で、戦略コンサルタントの山本大平さんに聞くインタビュー第2回のテーマは、伝え方を支える「土台」と、誰でも使える「型」。業種も文化も異なる会社を渡り歩き、いまは戦略コンサルタントとして数多くの企業を見てきた山本さんが「どこでも通用する不動の法則」と言い切る方法は、驚くほどシンプルでした(全3回)。

取材・文/STUDY HACKER編集部

【プロフィール】
山本大平(やまもと・だいへい)
戦略コンサルタント。F6 Design株式会社CEO。京都大学大学院エネルギー科学研究科を修了後、新卒でトヨタ自動車に入社し、新型車の開発業務に携わる。トヨタ全グループで開催されるデータサイエンスの大会での優勝経験をもつほか、常務役員表彰・副社長表彰を受賞。その後、TBSテレビに転職し、「半沢直樹」「レコード大賞」「SASUKE」など看板番組のプロモーションやマーケティング戦略を数多く手がける。さらにアクセンチュアで経営コンサルタントの経験を積み、2018年に戦略コンサルティング会社F6 Design株式会社を創業。初著書『トヨタの会議は30分』(すばる舎)は10万部を超えるベストセラーに。最新刊は『もしガリレオの伝え方がうまかったら』(かんき出版)。

伝え方の全体像を示す「伝え方のピラミッド」

前回、人間の感情や本能を無視して正しい言葉をぶつけると、かえって人間関係が壊れてしまうというお話をしました(第1回参照)。この「感情への配慮」や「関係性」といったテクニック以前のベースとなる土台部分を、私は「伝え方のピラミッド」という図で説明しています。一番上に「テクニック」、その下に「人間関係構築力」と「アンテナ力」が置かれた構造です。

人間関係構築力とは、話を聞いてもらえる信頼関係を築く力。アンテナ力とは、周囲や聞き手の状況を敏感に察知する力です。私なりに言い換えれば、人間関係構築力の本質は「能動性」、アンテナ力の本質は「受信」。アンテナで情報を受信し、能動的に動き、そのうえでテクニックを使う。この順番です。

極端に言えば「一番上のテクニックはなくてもいい」とすら思っています。私はトヨタ、TBS、アクセンチュアと、まったく文化の異なる会社を渡り歩き、いまは戦略コンサルタントとして数多くの企業の現場を見ています。業種が変われば、文化も不文律もまるで違う。それでも、この2つの土台だけは、どこでも変わらず通用する不動の法則でした。逆に、どれだけ正しい改善案やアイデアも、土台がなければ採用されません。相手が気分よく受け取れる形で自分の考えを伝えられるか。この感覚がないと、成果にはつながらないのです。

伝え方のピラミッド・テクニックの土台となる人間関係構築力とアンテナ力がどこでも通用する不動の法則を示すイメージ

人間関係の築き方は「自分から話しかける」だけ

「信頼関係を築くために、一番重要なことはなにか?」。講演などでこう質問すると、「常に有言実行であること」「相手を絶対に否定しないこと」といった答えが返ってきます。どれも立派ですが、正直、しんどくないですか。出会うすべての人にそれを続けるのは、無理もあります。

私の答えはもっとシンプルです。能動的なコミュニケーションを取る。つまり、自分から話しかける。たったこれだけです。

たとえば、エレベーターで初対面の人と2人きりになったとき。ほとんどの人はなにも話さずに降りていきますが、それは非常にもったいない。ここは人間関係を構築できるチャンスです。もしその人が松葉杖をついていたら、「大丈夫ですか?」と声をかけてみる。なんなら、その人が降りる階まで一緒に降りて、肩を貸す。仕事の話はひとつもしていませんが、確実に関係は前へ進んでいきます。

もし後日、その人と会議で対立する議論をぶつけなければならなくなったとしても、話は聞いてもらえるはずです。「肩を貸してくれたあいつの言うことなら、聞いてあげたい」。人間関係って、そういうものだと思うんです。

トイレでばったり会った、明日の会議で初対面になる相手に「明日、お願いします」と挨拶するだけでもいい。こうした一言が、「私はあなたの敵ではないですよ」というメッセージになります。やらなければ、損なのです。

自分から話しかける能動的コミュニケーション・エレベーターの一言が信頼関係の土台になるという人間関係構築力のイメージ

「口2耳8」のスタンスで。

では、勇気を出して話しかけたあと、どう会話を続ければいいのか。実は、自分から「なにを話すか」は重要ではありません。ここで効いてくるのが、「口2耳8」というスタンスです。自分が話すのは2割、残りの8割は相手の話を聞く。

というのも、コミュニケーションの主役は相手だからです。相手の話を聞かないかぎり、相手の状況も関心もわからず、寄り添いようがありません。たとえば、銀座のホステスさんで、自分の話ばかりする人がいるでしょうか。相手が心地よくなるように話を返してくれる、伝え方のプロフェッショナルです。一方、成績が伸び悩んでいる営業マンほど、聞かれてもいない自社の説明を圧強めで話してきたりしますが(笑)。

さらに、耳から拾った情報は、あとで生きてきます。上司との食事中に愛犬の話を聞いたとします。そこですかさず「この人は犬を飼っていて、犬の話が好きだ」と記憶に留めておく。そうすれば、後日にエレベーターで一緒になったとき、「そういえば、ワンちゃんお元気ですか?」と自然に話しかけられます。相手の話を聞くから、自分の話も聞いてもらえる。大切なのはこの順番なのです。

「結論から話せ」は大間違い?

土台の話をしたので、「型」の話もしましょう。ビジネス書の定番に「結論から話せ」がありますが、私はこれも少し違うように思っています。正確に言えば、前提を共有していない相手には、結論から話しても何も伝わりません。

想像してみてください。突然デスクにやってきた部下に、いきなり「1000万円で買っておきます」と言われたら。「えっ、なんの話なの?」となるはずです。

だから、結論の前に、まず「何の話か」を伝える。「”あの件”なんですけど、結論はこうしたいと思います。理由はこうです。以上です」。これでいいのです。話が難しくなるほど、この順番が効いてきます。ここでもやはり「相手の状態」を慮るアンテナ力や人間関係構築力といった「相手への配慮の心」が根本にあります。

では、それでも話が伝わらなかったときはどうするか。多くの人は説明を増やそうとします。でも、これは逆効果です。説明下手の原因は「説明不足」ではなく「説明過多」にあります。言葉を足されるほど、聞き手は聞く気を失っていきます。

そもそも、伝えることのイメージが間違っているのだと思います。コミュニケーションはサッカーのPKではなく、テニスのラリーです。一方的にボールを蹴り込んでゴールを決めるのではなく、打って、返ってきて、また打つ。そのやり取りです。

プレゼンの際も同じです。うまくいかない人ほどPK(一方的)です。そんな人のパワーポイントのスライドには、メモ欄に話すセリフが一言一句書き込まれていたりします。一方でプレゼンの上手い人はほとんど用意をしていません。せいぜい1スライドに1キーワードぐらいの用意でしょうか。言いたいことのツボだけ用意して、あとはラリー。わからないところがあれば、聞き手のほうから聞いてもらう、そんなスタンスです。

ただし、唯一準備しておくべきものがあります。それは「たとえば」の引き出しです。相手がピンと来てないなら、「たとえば、こういうことです」と例を出すと、スッと相手の腹に落ちる。でも、この「たとえば」だけはその場ではなかなか浮かびませんよね。プロの芸人さんなら即興でいけるのでしょうが。なので、普段の日常会話で「たとえば」を練習しておかないといけません。

結論から話すは大間違い・説明過多を減らしてラリーで伝えるコミュニケーションはPKではなくラリーという型のイメージ

話しかける勇気が出ないなら「1分だけいいですか?」

ここまで読んで、「そもそも自分から話しかけるのが苦手」という人もいるでしょう。特別なセリフを用意する必要はありません。お決まりの「1分だけいいですか?」、これで十分ですし、これが最強です。

海外の会社と仕事をしてても"Got a minute?"はよく出てくるフレーズなので万国共通の切り込み方なのでしょうか。「1分」という入り口の短さが、直感的に相手の感情的な負担を消してくれるのでしょうか。

もちろん、実際は1分で終わりません(笑)。でも、「少しだけ時間をください」「いいですよ」という合意が最初に取れさえすれば、コミュニケーションは気持ちよく進んでいきます。前回お話しした「金曜のランチ前」のようなタイミングと組み合わせれば、効果はさらに上がるでしょう。

ここまで、土台と型の話をしてきました。次回はいよいよ、書名の謎解きです。「もしガリレオの伝え方がうまかったら」地動説をどう伝えていたのか?そして、論理ベースの話し方はなぜ頼りにならないのか。それについてお話しできればと思います。

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【ライタープロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

株式会社新恵社 代表取締役/株式会社スタディーハッカー創業者。1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
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