もしガリレオの伝え方がうまかったら——地動説は「罪」にならずに済んだのか

スマートフォンの地図アプリで店を探し、フードデリバリーで夕食を頼む。そんな何気ない日常の源流には、じつは「伝え方」に失敗したひとりの天才がいます。『もしガリレオの伝え方がうまかったら』(かんき出版)の著者で、戦略コンサルタントの山本大平さんに聞くインタビューの最終回は、書名の謎解きから。もしガリレオが「伝え方のうまい人」だったら、地動説をどう伝えていたのでしょうか。山本さんに「論理の限界」、そしてAI時代のコミュニケーション論まで、一気に伺いました(全3回)。

取材・文/STUDY HACKER編集部

【プロフィール】
山本大平(やまもと・だいへい)
戦略コンサルタント。F6 Design株式会社CEO。京都大学大学院エネルギー科学研究科を修了後、新卒でトヨタ自動車に入社し、新型車の開発業務に携わる。トヨタ全グループで開催されるデータサイエンスの大会での優勝経験をもつほか、常務役員表彰・副社長表彰を受賞。その後、TBSテレビに転職し、「半沢直樹」「レコード大賞」「SASUKE」など看板番組のプロモーションやマーケティング戦略を数多く手がける。さらにアクセンチュアで経営コンサルタントの経験を積み、2018年に戦略コンサルティング会社F6 Design株式会社を創業。初著書『トヨタの会議は30分』(すばる舎)は10万部を超えるベストセラーに。最新刊は『もしガリレオの伝え方がうまかったら』(かんき出版)。

ガリレオがいなければ、Uber Eatsは頼めない

今回の書籍にガリレオのことを書いたのは、私も一人の理系人としてガリレオを心からリスペクトしているからです。後世の科学を左右する偉業を成し遂げながら、「地球が回っている」と言ったがゆえに宗教裁判で有罪にされ、虐げられた。「正しいことを見つけたのに」です。

私たちがGoogleマップで店を探せるのも、Uber Eatsで食事を頼めるのも、GPSがあるからです。GPSは人工衛星の仕組みで、源流をたどれば地球が回っているという発見に行き着く。極論、ガリレオがいなければUber Eatsは頼めません!

それほどの人が、なぜあんな扱いを受けなければならなかったのか。ずっと疑問でした。ガリレオは「正しいけれど、適切ではなかった」のかもしれない。多くの人は「地動説を言った人」ぐらいに思っていそうですが、正しさだけでは世界に受け入れられないことを示す、歴史上最大の実例だと思っています。

伝え方のうまいガリレオなら「金星」から話し始める?

もしガリレオに前回お話した人間関係構築力とアンテナ力(第2回参照)があったなら、どう振る舞っていたのか?

もちろんすべて想像上の話ですが、私ならこう考えます。

まず、いきなり世紀の大発見を大々的に発表したりはしません。教会側の権力者である教皇か誰かと廊下ですれ違った際にでも、軽く当ててみるのです。

「すみません、1分だけいいですか?」

「なんとなくなんですけど、金星って、自分で回ってるみたいなんです・・・」

ここで「えっ、マジ?」と食いついてくれたらとてもラッキーです。さらに「それ、みんなにも話してもらってもいい?」という流れになればガッツポーズものです(笑)。

そして、みんなの前でも、「地球」とは一言も言いません。ガリレオが実際に観測した、金星の満ち欠けの話から入るのです。「どうやら、金星は回っているみたいなんです」。ここで周囲の反応を観ます。

さらに踏み込んでも良さそうなら、別の日に、「もしかしたら、金星以外の星も自分で回っているかもしれません」とまた反応をうかがう。そうやって外堀りを埋めていく。

この段階までで、万が一旗色が悪ければ、「ですよね。もう一回、私も調べてきます!」と潔く一時撤退します。

たとえば、「私も」の「も」も伝え方としてはポイントになってきます。この一言で、教会側と一緒に考えている構図にもなり、敵ではなく味方になってもらえる可能性が出てきます。理想を言えば、自分が確定的なことを言うのではなく、一番偉い人の口から「おい、地球も回ってるぞ!」とみんなの前で言ってもらいたい。

ガリレオが少し下手だったと思うのは、革新的なことを自分の口から言ってしまったことではないかと。「地球が回っている」とみんなに知ってもらうことが目的なのであれば、自分で言い切る必要性はなかったのかもしれません。

そして説明をする際にも、「みたいです」「ようです」という言い方に留め、断定的なニュアンスを丁寧に控えて話せば、反発されない方向に話が進んだのかもしれない、そう思えて仕方ありません。世紀の大発表として伝えるのではなく、一緒に考えてもらうスタンスに持ち込む伝え方もあったのではないか、と。

「ガリレオ、明日、俺ら(教会側)でも調査するから、お前も一緒に来てくれ。」の状態に持ち込めていたら罪人になることは避けられたのではないか、とも思うんです。

※これらはすべて、史実に基づくガリレオの実際の言動ではなく、あくまで伝え方のポイントを解説するためのフィクションです

伝え方のうまいガリレオなら地動説を金星の話から段階的に伝える・外堀を埋めながらラリーを重ねるコミュニケーション戦略のイメージ

ゴッホの絵はなぜ売れたのか?

生前は1枚しか絵が売れなかったゴッホが、死後になぜあんなに世界中で評価されたのか、不思議に思ったことはありませんか?

後世の専門家たちは「独創性が高い」とか「技法がすごい」とか、いろんなもっともらしい理由を語ります。でも、おそらく正解は、「そんなもん、誰にもわからない(笑)」ではないでしょうか。

天国のゴッホが一番びっくりしてますよ。「なんで俺の絵、こんなに売れてるの?」って。

なぜなら、絵画が人の心を惹きつける理由は、スペックのように理屈で説明できるものではなく、理屈抜きの「情緒や感情」だからです。

もちろん、ビジネスでは論理で説明できる「機能的価値」は重要です。車の「燃費がいい」といったスペックは不可欠でしょう。しかし、それだけでは人は動きません。最終的な決め手となるのは「このデザイン、なんか好き」という、理屈のない「情緒的価値」なのです。

私はかつて、機能的価値を極限まで追求する自動車メーカーにいました。その後、情緒ど真ん中のエンタメの世界であるテレビ局に移り、この残酷な真実を痛感しました。人間の「なんか好き」「なんかいやだ」という直感は、どんなに完璧な機能やロジックもあっさりと凌駕してしまうのです。

コミュニケーションという営みは、この情緒的価値の影響を非常に強く受けます。あなたの提案が通らないのは、決して論理的に否定されたのではなく、あのときのガリレオのように、相手に直感的に「なんかいや」と思われているだけかもしれない。

だとしたら、そこで必要なのは論理武装ではありません。「理屈じゃない部分で、人は動いている」という事実をリスペクトすることです。相手の理屈に合わない感情もそのまま受け入れ、それに合わせた伝え方を選ぶことができる。それが、AIにはできない、血の通った人間の「コミュ力」なのだと思います。

論理の限界と情緒的価値の重要性・ゴッホの絵が売れた理由と機能的価値では説明できないコミュニケーションの本質を示すイメージ

「感じのいいAI」が、伝え方の基準を変えていく

最後に、AIの話です。AIとやり取りする機会は、これからますます増えると思います。そしてAIは、かつての私の「ナンセンスですね」のようなカチンとくる返事をしません(笑)。

この「感じのいいやつ」との対話が当たり前になると、人間のコミュニケーションに対する基準点が上がります。これまで気にならなかった一言にもムカつくようになる。つまり、AI時代においてこそ、相手の感情に配慮する「適切な伝え方」の重要性はむしろ加速していく、と考えています。

そしてもう一つ。AI時代には「価値の生み出し方」も変わります。機能的価値や論理的な正解を出す勝負では、人間はAIにかないません。AIはデータの中央値を優先し異常値を切り捨てるため、そこから意外性のある新しいものは生まれにくい。人の心を動かす情緒的価値こそ、人間の「バグ」や「エラー」から生まれるのだと思います。

ゴッホもまさにそうです。生前は世間から見れば単なる「バグ」だったのが、後世になって世の中の価値観が彼に追いついたと考えると合点がいきます。

だからこそ、コミュニケーションに悩む人も、「こんなこと言ったらダメかな?」と臆せず、「自分の意見」や「自分そのもの」をゴッホのようにどんどん出していけばいい。完璧なロジックはAIに任せつつ、人間は自分の「情緒やバグ」を恐れずに出す。そしてそれを、ここまでお話ししてきた「適切な伝え方」で相手に届ける。それが、これからのAI時代における最も適切なコミュニケーションなのだと思います。

でも「ナンセンスですね」だけは絶対に言わないでくださいね(笑)。

【ライタープロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

株式会社新恵社 代表取締役/株式会社スタディーハッカー創業者。1977年生まれ、福岡出身。2014年、メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ。以後運営に携わる。
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