
上司のきつい一言が頭から離れない。不機嫌な人に振り回されて、仕事に集中できない。同期の活躍に、モヤモヤしてしまう……。職場の消耗の多くは、じつは論理ではなく「感情」から生まれています。『仕事ができる人の超整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者で、戦略コンサルタントの山本大平さんに聞くインタビュー第2回のテーマは、感情とエネルギーの整理。ムカつき、嫉妬、疲れ——やっかいな相手ほど、「整理」で扱えるようになります(全3回)。
取材・文/STUDY HACKER編集部
【プロフィール】
山本大平(やまもと・だいへい)
戦略コンサルタント。F6 Design株式会社CEO。京都大学大学院エネルギー科学研究科を修了後、新卒でトヨタ自動車に入社し、新型車の開発業務に携わる。トヨタ全グループで開催されるデータサイエンスの大会での優勝経験をもつほか、常務役員表彰・副社長表彰を受賞。その後、TBSテレビに転職し、「半沢直樹」「レコード大賞」「SASUKE」など看板番組のプロモーションやマーケティング戦略を数多く手がける。さらにアクセンチュアで経営コンサルタントの経験を積み、2018年に戦略コンサルティング会社F6 Design株式会社を創業。初著書『トヨタの会議は30分』(すばる舎)は10万部を超えるベストセラーに。最新刊は『仕事ができる人の超整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。
- 言われてムカついた言葉は、「丁寧語」に直して文字にする
- それでも納得できないなら、相手は「とある野生動物」である
- 嫉妬は、自分に足りないものを教えてくれるセンサー
- ポモドーロ・テクニックは、全員には当てはまらない
- 「うまくサボる」は立派な戦略である
言われてムカついた言葉は、「丁寧語」に直して文字にする
前回は、成果の土台となる「目的の整理」についてお話ししました(第1回参照)。今回のテーマは、目的が定まっていても私たちを消耗させてくる相手——「感情」の整理です。
人に言われて、結構ムカつくことってあるじゃないですか。厄介なのは、その一言がずっと頭に残ることです。仕事をしていても、その人の顔がちらついて、目の前のことに戻ってこられない。
そこで私が一度やってみたのが、言われた内容を文字にすることでした。すると、書くごとに、だんだんそのムカつきと距離を置けるようになっていったのです。頭のなかにあったものが、ポッと自分の外に出ていく感覚があって。最近ではもう、そこまでムカつくこと自体がなくなりましたが、この習慣の効果は大きかったと思います。
ミソは、書いてみると「俺、なんでこんなくだらないことにムカついてたんだろう」という自分が現れることです。たとえば、廊下ですれ違って挨拶したのに無視された。文字にしてみると、なんだか自分がちっちゃく見えてくる。逆に文字にしないと、その場面がずっとフラッシュバックします。若いころ、好きな子に挨拶を無視されたら、頭のなかがその子のことでいっぱいになったじゃないですか。あれと同じ構造で、脳が引っ張られ続けてしまうんです。「なんだ、そんな些細な出来事だったんだ」と思えれば、それでいい。
そして、文字にするときのポイントが「丁寧な言葉遣いに直す」ことです。実演してみましょう。たとえばこの本をつくっているとき、編集者に「ボリューム多いっすよ」と乱暴に言われたとします(実際の編集者はとても丁寧な方なので、あくまで例です)。これを丁寧語に直して書くと、こうなります。「編集部の〇〇さんに、『この本の分量が、通常は300ページのところ、今回このままだと400ページになってしまいそうです』と指摘された」。
どうでしょう。「そりゃそうだよな」と思えてきませんか。編集者の立場ならその指摘はもっともだと、客観的に見えてくる。人間は、内容ではなく「言い方」にムカついていることが、驚くほど多い。だからこそ、自分は何を言われてムカついてしまったのかを内省する。これも立派な整理です。

それでも納得できないなら、相手は「とある野生動物」である
とはいえ、丁寧語に直しても「これは納得できない」というケースはあります。他の本だって400ページあるじゃないか、向こうの言っていることのほうがおかしい、前提がずれている——そういうときもあるでしょう。
そこで本書で提案したのが、不機嫌な相手を「とある野生動物」と定義して、頭のなかで実況中継する方法です。そう思えれば、「あ、機嫌が悪かっただけか」「何かあったのかな」と許せるようになる。野生動物にいちいちムカついていたら、人間としてもったいないじゃないですか。
山で熊に襲われて、「何すんだよ」と熊に説教しても仕方ありません。こちらが逃げるだけです。インドに行って、手で食事をする文化を「汚い」と否定しても仕方ないし、逆に「お前はなんで手で食わないんだ」とツッコまれても困りますよね。つまり、相手の感情や不機嫌は、「介入不可能な変数」なのです。
相手を変えようと説教する人がいますが、あれで変わる人は、100人に100回やって1回いるかどうかだと思います。自分が持っている変数——関わり方、振る舞い、言葉の選び方、あるいは「もう接さない」という選択——でしか、人間関係は築けません。私はこれをTBS時代に深く学びました。番組の作り手が変えられるのは、自分たちがつくる内容だけ。視聴者に「おもしろいと思え」と言っても、無理なのです。
結局、感情の整理の行き着く先は、「自分以外は変えられない」に腹落ちすることだと思っています。これを言葉として知っているのと、理屈として本当にわかっているのとでは、大きな差があります。周りは変えられない。周りが設定された状況に、自分が置かれているだけ。この整理がいちばん楽だと、私は思うんです。

嫉妬は、自分に足りないものを教えてくれるセンサー
「変えられるのは自分だけ」という整理は、嫉妬というやっかいな感情にも効きます。
まず、「嫉妬してるわ」と自覚できれば、まだいいほうです。嫉妬しているかどうかを認めたくない、変なプライドのある自分がいて、それで八つ当たりしてしまうのは、だいぶ重症だと思ってください。
そのうえで、「なんで嫉妬してたんだっけ」という分析には、大きな意味があります。というのも、嫉妬は、「自分が欲しいのに、持っていないもの」しか映さないからです。自分ができることを相手ができないとき、人は嫉妬しません。相手ができて、自分ができない。だから羨ましい。ということは、「なぜ自分にはできないのか」「何を変えればできるようになるのか」を分析すれば、嫉妬は自分に足りないものを教えてくれる、精度の高いセンサーになる。それが努力で埋められる変数なのか、見た目のように変えられない変数なのかまで仕分けられれば、なおいいでしょう。
私にとっての原体験は、兄です。生まれてからずっと、兄に嫉妬してきました。自分より野球がうまくて、勉強ができて、モテて。生まれた瞬間から羨ましい対象で、ちっちゃいころからずっと追いつきたいと思っていました。
でも、分析してみたら、ある種吹っ切れる瞬間があったんです。無理だ、と。どれだけ時間があっても、あんなに足は速くならないし、顔もあれほどのイケメンにはなれない。じゃあ自分に何ができるのかと考えたら、努力しかできないことに気づいた。私自身は凡人です。ただ、野球を頑張っていると、「階段を一段乗り越えたな」「ボールが取りやすくなったな」と、努力すれば追いついていける実感が湧く瞬間があるんですよ。「あ、努力で差って補えるんだ」。そこに気づいてからは、できるようになるたびに、嫉妬がすっと消えていきました。いまでは、いろんな局面で「過去の嫉妬、ありがとう」と思えています。
嫉妬すること自体は必要だし、あったほうがいい。ただ、嫉妬したままだともったいない。「酸っぱい葡萄」だと自分に言い聞かせて逃げてしまう人も結構いますが、それは成長機会を失うことでもあります。精度の高いセンサーで嫉妬できるのは、逆に言えば才能です。「負けず嫌いなやつは伸びる」とよく言いますが、そういうことかもしれません。

ポモドーロ・テクニックは、全員には当てはまらない
感情と並んで整理したいのが、エネルギーです。ここでも「基準は自分」という考え方が軸になります。
世の中には「25分集中して少し休む」といったポモドーロ・テクニックや、「朝にやるべき」「夜が効率的」といった時間術があふれています。でも私は、全員に当てはまるわけがないと思っています。私は大学院までずっと分子生物学——DNAを研究で扱っていたのですが、朝型か夜型かは、遺伝的に分かれたりするものなんです。ちなみに私はどちらかというと夜型で、夕方以降にようやく頭が冴えてきます。25分がたまたま合う人はいるでしょうが、実験だって、参加者の遺伝情報まで揃えて行われてはいないはずです。エネルギーの使い方を設計するとき、基準にすべきは世の中の法則ではなく、「自分」です。自分のことは、自分にしかわかりません。今日明日はじめて会う医者よりも、何十年その体で生きてきた自分のほうが、自分をわかっているはずですから。
私の場合で言えば、頭のピークはお腹が減っている状態。逆にボトムは食後です。食べたら間違いなく眠くなる。だから、お客さまのところに行く前は、絶対にお腹に物を入れません。食べていいタイミングのほうを調整しているんです。私は空腹が基準ですが、日光を浴びたかどうかが効く人もいるでしょう。何の刺激が自分に影響するかは、人それぞれ。こういう「自分の取扱説明」を把握しておくことが、エネルギーの整理の第一歩です。
あわせて、仕事用アプリの通知はオフにして、メールやチャットを処理する時間は「1日3回」と決めてしまうことをおすすめします。回数は人それぞれでいいのですが、処理する時間を決めれば、脳がそれにセットされて慣れていきます。ただし1日0回は、溜まって流されてしまうのでダメ。1回は処理する時間をもつと決めることが先決です。
「うまくサボる」は立派な戦略である
海外のお客さまと仕事をしていて感じるのですが、日本人は真面目なのか、あまり休まない文化があるように思います。疲れきっていて、少し寝てから取り組んだほうが絶対にパフォーマンスがいいのに、会社は寝させてくれない。会社で寝ていたら怒られますから(笑)。
でも、効率で言えば、一度休んで頭をクリアにしてから取り組んだほうがいい場合は確実にあります。どんな人でも、脳が疲れていない状態で作業に向かったほうが集中力は高いからです。「戦略的に休む」を予定に入れておかないと、真面目な人ほど、休めないまま消耗していきます。
白状すると、私はトヨタでもTBSでもアクセンチュアでも、うまいことサボっていました。寝ないまでも、何も考えない時間を意図的につくっていたんです。どうしても休めない環境なら、疲れている時間帯を、経理処理やデータの移し替えといった、脳を使わない作業に振り替えればいい。逆に、カロリーの高い意思決定は、疲れているときにはやらないと決めておく。これも、疲れに飲み込まれないための立派な戦略です。
さて、ここまでで「目的」と「感情・エネルギー」を整理してきました。最終回のテーマは、「人」と「人生」の整理です。部下に任せられないあなたへ、そして——私が学生時代、バイク事故で一度死にかけた話まで。キャリアと人生の整理について、お話しします。

【山本大平さん ほかのインタビュー記事はこちら】
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社 代表取締役。
1977年生まれ、福岡県出身。2010年に株式会社恵学社(現・株式会社イングリッシュカンパニー)を創業。2014年に学習メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ、編集長を通算10年以上務める。
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