
かつての「権威性」は薄れ、プレッシャーだけが大きくなる。人手不足はすでに顕在化し、それが激務に拍車をかける。
それでも、目の前の子どもたちのキラキラした姿や、成長を見る度にやりがいや強い責任感を感じる。
希望をもって「先生」の職を選んでも、この仕事を続けることが正しいのかという問いは、先生達の心のどこかにいつもあるのかもしれません。
1000人以上の先生のそんな相談を受けてきたのは、キャリアコーチング「クジラボ」代表の森實泰司さん。揺れたまま何年もたってしまう理由と、そこから抜け出す道筋を聞きました。
【プロフィール】
森實 泰司(もりざね・だいじ)
株式会社クジラボ 代表取締役。1986年、福岡生まれ。ソフトバンク、リクルートを経て、ITベンチャーのキュービックで人事責任者を務め、組織を3年で30名から300名へと拡大。2019年に学校法人の事業承継に携わり、教育の現場へ。2021年に株式会社クジラボを設立する。「支えるひとをささえる。」をビジョンに掲げ、先生・公務員・看護・介護・保育など、誰かを支える仕事に就く人のためのキャリアコーチングを手がける。
揺れているのは、あなただけではない
相談に来た先生に、私はいつも「辞めると続けるは、いま何対何ですか」と聞きます。
「10対0で辞めます」と答える人は、ほとんどいません。「5対5です」「先週は6対4でした」「しんどいときは3対7になるけど、卒業式で戻りました」。こんな答えが大半です。
土日に地域のイベントに参加する、朝から遅くまで勤務する、得意でない校務分掌で疲弊する。保護者の刺すような一言に傷ついてしまう。そんな「やめたくなるような理由」も確かにある。
でもその一方で、たくさんの心を動かされる瞬間もあると先生達は語ってくれます。
問題を抱えていた子が変わっていく、学校に来られないと悩んでいた子が来られるようになる、卒業式の日に「ありがとうございました」とまっすぐに言われる。卒業生が「あのときのおかげでいまも上手くやれている」と連絡をくれる。
やっていて良かった、と満たされる瞬間も無数にあり、その度ににもう少しやってみようと思う。
先生達の、「5対5」は、そんな「つらさや疲れ」と「喜びと誇り」の間でいつも揺れています。人の気持ちが理解できる人ほど先生に向いていて、でもそれは同時に傷つきやすさでもある。うれしさとつらさが同じところからでているからこそ、きれいに割り切れないのは当然とも言えます。

相談に来た先生の6割は「残る」を選んでいる
キャリアコーチングと聞くと、なんとなく「転職」を前提としたサービスをイメージされる方が多いかもしれません。「キャリア」と名がつくのだから転職関連だろう、と思うのかもしれません。
でも、実際は私たちのプログラムを受けられた先生のおよそ60%は、先生の仕事を続けることを選択します。私たちは転職を勧めることも、引き止めることもしません。それでもこの数字になります。
実際に労働環境が変わったわけでも、仕事量が変わったわけでもないのに「続ける」と選択するのは、先生達それぞれがご自身の仕事に対する見え方が変わったから、というケースが多いのです。
相談では、なにを大切にしたいのか、なにが得意なのか、それを求めてくれる場所はどこか、を順番に言葉にしていきます。すると多くの先生が、「いまの仕事は、自分の大切にしていることと合っていたんだ」と気づきます。なんとなく合っている気がする、ではなく、確信としてわかるのです。
同じ「残る」でも、モヤモヤしたまま続けるのと、自分の理由で続けると決めるのとでは、毎日の意味が変わります。
逆の気づき方をする先生もいます。たとえば、子どもと関わる時間は楽しくないけれど、デスクワークは楽しいという先生が、まれにいます。私は、そういう方は辞めたほうが本人にとってもいいと思っています。事務の力がそのまま評価される仕事は、世の中にちゃんとあるからです。
授業や子どもとの関わりという中核が好きなら、残って工夫する余地があります。中核そのものが合っていないなら、離れることを考えていい。この見分けがつくだけでも、悩みはずいぶん軽くなるものです。

辞めなくても「残り方」は変えられる
残ると決めた先生とは、「残り方」まで一緒に考えます。鍵になりがちなのが、校務分掌のあり方です。
たとえば、教室で子どもたちに話すのは何ともないのに、全校の前に立って仕切るのは苦手、という先生が体育主任を任される。運動会では朝礼台に立ち、全校児童と教職員、保護者までを動かす立場になる。本人にとっては相当つらいことですが、まわりには苦手だと気づかれていないことがよくあります。
おもしろいのは、体育主任が向いている先生も普通にいることです。つまり、誰にとってもつらい業務があるのではなく、人によって当たりと外れが違うだけなのです。自分はなにが外れなのかがわかれば、解決策も見えてきます。
見落とされがちですが「管理職に伝えてみる」というのもひとつの手段。
「去年この業務を担当して、正直、辞めようかと思うほどつらかった。来年度の校務分掌で考慮してもらえないか」。
「ここまで言っていいのか」と思うかもしれませんが、実際には、こうした申し出をしない先生のほうが多いのです。苦手なことでも「私やっておきますね」と引き受けてしまう責任感のある先生ほど、合わない業務を抱え込み、それを苦手だとまわりに気づいてもらえないまま消耗していきます。
しかも、いまはどの学校も、辞められたら困る状況です。筋道立てて伝えれば、通ることは決して少なくないのです。
私たちが大事にしているのは、「理想的な自己決定」です。周囲の期待や「もったいない」の声、家族の意見。キャリアの決断には、いろいろな他者の声が入り込んできます。だからこそ、最後は自分で考えて自分で決められたという経験そのものに、大きな意味があるのです。
今夜、ノートに書き出してみてください。いまの自分は何対何か。仕事のなにが好きで、なにがつらいのか。揺れを言葉にすることが、抜け出す最初の一歩になります。

【先生のキャリア実践編 連載】
- 第1回 やりがいと、業務過多の狭間で。学校の先生たちは「仕事」とどう向き合うのか(本記事)
- 第2回 迷ったまま、また4月を迎えないために。教員の転職・キャリアの整理は「いつ」始めるのがいいのか
- 第3回 教員の転職と転職エージェント。エージェントに話をする前に、強く勧めたい「自己分析」について
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社 代表取締役。
1977年生まれ、福岡県出身。2010年に株式会社恵学社(現・株式会社イングリッシュカンパニー)を創業。2014年に学習メディア「STUDY HACKER」を立ち上げ、編集長を通算10年以上務める。
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