「何から手をつければいい?」の答えはここにある——いまさら聞けない『4象限マトリックス』の本当の使い方

悩むビジネスパーソン

いろいろと決断しなければならないのに、なかなか決められない。何から始めて、どこに注力すればいいのか、いつも迷いながら仕事をしている……。

じつは、その解決策は「4象限マトリックス」という定番フレームワークにあります。とはいえ、「そんな当たり前の手法をいまさら?」と思われるかもしれません。でも、多くの人はこのマトリックスを単なる業務整理ツールと考え、「本当の使い方」までは理解していないのではないでしょうか。

実際に成果を出している人は、4象限マトリックスを単に分類に使うだけでなく、判断基準の明確化や次にとる行動を決めるための “思考ツール” として使いこなしています。

この記事では、「4象限マトリックス」の真価を掘り下げ、業務の整理から具体的なアクション決定までを迷わず進められる活用法をご紹介します。もう「どう決めればいいか」悩む必要はありません。

4象限マトリックス」で意思決定力が高まるワケ

ビジネスの現場では、限られた時間のなかで適切な判断を迫られるシーンが数多くあります。だからこそ、成果を積み重ねていくのは「意思決定力」が高い人。

しかし、昨今はビジネスシーンが複雑化し、選択肢が多すぎて、何を基準にどう決めるか迷うことばかり。起点を見失い、思考の迷宮に迷い込んでしまうこともあるでしょう。

そんなときに役立つのが、カオスと化した状況をスッキリと分類できるフレームワークの「4象限マトリックス」です。*1

ベストセラー『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社)の著作などで知られるビジネスコンサルタントの細谷功氏は、4象限マトリックスについて、混沌としたグレーゾーンを新たな視点で整理して、決断を助けるフレームワークと説明しています。*1

また、デロイト トーマツ コンサルティング合同会社のディレクター木部智之氏によれば、4象限マトリックスは、物事の位置づけを明確にして、それをもとに戦略を立てたいときに便利だと話します。*2

つまり、「4象限マトリックス」は、思考の整理から行動の優先順位づけまで、一貫した判断を導き出すために有効なフレームワーク。状況や課題を可視化しながら、次にとるべき具体的なアクションも明確にします。

このフレームワークの継続的な活用が、意思決定力を高めるのは言うまでもありません。

4象限マトリックス」の実践

では、実際に4象限マトリックスをやってみましょう。

基本系はこちらです。

4象限マトリックスの基本系

第1象限~第4象限の配置は、実践的に4象限マトリックスを使用しているこちらを参考にしました。⇒『川岸克己(2011),「『頑張る』における構造と変化」, 安田女子大学紀要, No.39, pp. 11-19.』

なお、通常は「重要性(物事の効果性や本質に関わるどうか)」と「緊急性(早急な対応が必要か)」を2軸に使うことが多いのですが――*3

今回は、「どこに時間と労力を投じるべきか」という投資対効果の判断を意識したいので、以下のタテ軸・ヨコ軸にしました。

  • タテ軸:成果の見込み(下→上/低い→高い)
  • ヨコ軸:労力(左→右/多い→少ない)

したがって、こうなります。

  • 第1象限:(右上・少ない労力で高いリターンが見込めるタスク):最優先
  • 第2象限:(左上・ 成果は大きいが、そのぶん工数も多いタスク):慎重に判断
  • 第3象限:(左下・成果も少ないのに時間もかかるコスパ最悪タスク):後回し or やらない
  • 第4象限:(右下・成果はあまり見込めないけれど、やるのに時間もかからない):やるなら手早く

「4象限マトリックス」のポジショニング

そして、今回は「営業職」を取り上げ、その業務を洗い出しました。

以下は、「とりあえず業務をすべて出して、まだ分類していない状態」です。

「目的別」(ファンクションベース)

【売上拡大系】:新規開拓、アップセル提案、休眠顧客掘り起こし
【関係構築系】:定期訪問、ネットワーキングイベント参加
【業務効率系】:顧客リスト更新、営業資料作成

「時間軸」(タイミングベース)

【即実行可能】:リピート促進連絡、フォローアップメール
【中長期的対応】:特別提案資料作成、大口案件開拓

「リソース消費度」(感覚的な労力)

【低労力】:一斉送信メール、簡単な訪問
【高労力】:大規模プロジェクト提案、特別資料作成

これらを、軽く実務的な内容にして、4象限マトリックスに当てはめていきます。

結果、このようになりました。

4象限マトリックスの実践

  • 【第1象限:最優先(少ない労力で高いリターン)】
    ┗既存顧客へのアップセル提案
    ┗休眠顧客へのリピート促進連絡
    ┗成約確度の高い見込み顧客へのアプローチ

  • 【第2象限:慎重に判断(多大な労力で高いリターン)】
    ┗大口案件の新規開拓プロジェクト
    ┗顧客ニーズに合わせた特別提案資料の作成
    ┗長期的な信頼構築を目的とした定期訪問

  • 【第3象限:後回し or やらない(多大な労力で低いリターン)】
    ┗決裁権のない担当者との雑談的な長時間ミーティング
    ┗反応が薄いリストへのテレアポ・飛び込み営業
    ┗個別性が薄い汎用的な営業イベントの開催

  • 【第4象限:やるなら手早く(少ない労力で低いリターン)】
    ┗顧客リストの簡易更新
    ┗見込みが薄い案件のフォローアップメール一斉送信
    ┗短時間のネットワーキングイベントへの参加

つまり、これが「洗い出した要素を分類・整理した状態」です。「営業活動のどこに時間と労力を集中すべきか」が、視覚的にひと目でわかるよう整理できました。

「4象限マトリックス」の実践で気がついたこと

今回、4象限マトリックスを実際にやってみて感じたのは、以下のとおり。

迷いなく進められること(最優先)、いったん忘れていいもの(後回し or やらない)、とりあえずサッとやってしまえば損がないもの(やるなら手早く)、リーターンは大きいが大変なこと(慎重に判断)がハッキリすると、どれを、いつ、どうしたらいいかと迷いにくくなり、心理的負担が減る

これは、意思決定において非常に重要なことだと感じました。

ただ、一方で以下の注意点もあります。

最初の洗い出しの段階で「これはどのくらい労力がかかるか? 成果はどのくらい見込めるか?」という主観的な判断が入るため、その精度が低いとマトリックスの意味が薄れてしまう可能性がある。

だからこそ、こうしたフレームワークの活用は習慣的に行ない、どんどん慣れていくべきではないでしょうか。

また、生成AIが台頭するいまの時代、4象限マトリックスのように自分の頭で考えながら使うフレームワークは、人間の「考える能力の維持」にも役立つはずです。

***
このフレームワークは、単なる整理術ではなく、「判断基準の可視化とその先の行動プランをどう描くか」がポイントです。

特に「第2象限」に分類された大きなチャンスは、「いつ・誰が・どのくらいのリソースで取り組むか」まで考えておくことで、先送りを防ぎ、成果につなげやすくなります。

ぜひ一度、お試しください。

【ライタープロフィール】
上川万葉

法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。

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