
「なるべく早くお願いします」と頼んだ資料が、翌週になって届いた。相手に悪気はなさそうで、本人はむしろ急いで仕上げたつもりでいる。同じ相手とこういうことが何度か続くと、「この人とは、どうも話がかみ合わない」と感じはじめるものです。
話がかみ合わない相手とのやりとりが続くと、疲れてしまいます。性格が合わないのだとしたら、相手を変えることはできないし、自分が我慢するしかない。そう考えて、もうあきらめている人もいるかもしれません。
ただ、こうしたすれ違いは、多くの場合、性格の相性が原因で起きているわけではありません。本当の原因は別にあり、それは自分から確かめることができます。
- 話がかみ合わない相手を、つい「性格が合わない」と片づけてしまう理由
- 同じ言葉を、相手はまったく違う意味で使っている
- 定義がずれやすいのは、程度や評価を表す言葉
- 角を立てずに、相手の言葉の定義を確かめる聞き方
- よくある質問(FAQ)
話がかみ合わない相手を、つい「性格が合わない」と片づけてしまう理由
頼んだ資料が遅れて届くと、つい「この人はいい加減だな」と思ってしまいます。本当は、ほかの急ぎの仕事が入ったのかもしれませんし、締め切りを聞き違えていたのかもしれません。それでも私たちは、まず相手の性格のせいにしがちです。
人は、他人の行動を見ると、その人が置かれた状況よりも、性格や考えのほうに理由を求めやすいことが知られています。*1 心理学では、これに「根本的な帰属の誤り」という名前がついています。*2
すれ違いを性格のせいにしてしまうと、もうひとつの原因を見落としてしまいます。それは、同じ言葉を相手と違う意味で使っていることです。

同じ言葉を、相手はまったく違う意味で使っている
冒頭の例に戻ると、頼んだ側は「なるべく早く」を今日か明日のことだと考えていました。一方で、頼まれた側は「今週中なら早いほう」と受け取っていたのかもしれません。同じ言葉を使っていても、思い浮かべている中身がずれていたわけです。
こうしたずれは、報告書を書く専門家のあいだでも起きます。1951年、アメリカのCIAがまとめた報告書に、ソ連がユーゴスラビアを攻撃する「深刻な可能性」がある、という一文がありました。
報告書づくりに関わった歴史学者のシャーマン・ケントは、この表現を65%くらいの確率だと受け取っていました。ところが、同じ報告書をまとめた同僚たちに聞いてみると、思い浮かべていた確率は20%から80%までばらばらだったそうです。*3
その「可能性」、何%のこと?
同じ報告書をまとめた仲間なのに、20%から80%までばらばら!!
同僚A・Bは、答えの幅の両端を示したもの。Mauboussin & Mauboussin(2018)で紹介されたエピソードをもとに作成。
2018年には、一般の人を対象にした調査の結果も報告されています。それによれば、「おそらく」や「ありうる」のような日常的な言葉が何%くらいを指すのか、人によって答えが大きく分かれました。*3 たとえば「現実的な可能性がある」という表現は、ある人には20%、別の人には80%を意味していたのです。
職場でも、似たずれは起きています。STUDY HACKERの記事でも、「頑張る」という言葉が、上司世代には時間をかけて量で示すことを、若い世代には効率よく成果を出すことを意味しやすい、と紹介されています。*4 定時で帰る部下を見て上司が「頑張っていない」と感じるとき、部下の側は自分の基準で精いっぱい頑張っている、ということもありうるわけです。
つまり、話がかみ合わない原因の多くは、性格よりも、同じ言葉に込めている意味のずれにあると考えられます。では、どんな言葉でずれが起きやすいのでしょうか。

定義がずれやすいのは、程度や評価を表す言葉
「なるべく早く」「ちゃんと」「丁寧に」「少しだけ」「頑張る」。こうした程度や評価を表す言葉は、どれくらいなら「早い」のか、どこまでやれば「ちゃんと」なのかという基準が、使う人によって違います。
その基準は、これまでの経験でつくられます。締め切りの厳しい職場で働いてきた人の「早く」と、じっくり仕上げることを求められてきた人の「早く」は、同じにはなりません。本人にとっては当たり前の基準なので、相手も同じ意味で受け取っていると思い込みやすいのです。
一方で、「3時までに」「A4で1枚」のように数字や日時で言い表せる言葉は、ずれが起きにくくなります。すれ違いが起きやすいのは、数字に置き換えずに使っている程度や評価の言葉です。
自分がふだんどんな言葉を使っているのか、一度確かめてみてください。
ちょっとやってみよう
□ 職場や家庭で、人に何かを頼むときによく使う程度や評価の言葉を3つ書き出す
□ それぞれの言葉を、自分はどのくらいの意味で使っているか、数字や具体的な状態で書き添える
書き添えた中身が、相手の受け取り方と同じとは限りません。
角を立てずに、相手の言葉の定義を確かめる聞き方
相手の言葉の意味を確かめるといっても、「それはどういう意味ですか?」とそのまま聞くと、問い詰めているように聞こえることがあります。ここでは、相手に負担をかけずに確かめる聞き方を3つ紹介します。
聞き方1 程度の言葉を、数字や日時に置き換えてもらう
いちばん手軽なのは、相手が使った程度の言葉を、答えやすい数字や日時の質問に変えることです。職場でも家庭でも使えます。
「なるべく早く」→「承知しました。明日の夕方までにお渡しできれば間に合いますか?」
「ちゃんと片づけて」→「わかった。机の上と、床に置いてあるものも片づけておけばいいかな?」
どちらも、相手は期限や範囲を答えるだけですむので、確認されていると感じにくくなります。
聞き方2 自分の受け取り方を先に伝えてから聞く
いきなり相手の定義を聞くより、先に自分がどう受け取っているかを見せたほうが、相手も答えやすくなります。
「承知しました。今日中にお渡しするつもりで進めますね。もう少し先でも大丈夫なようでしたら、教えてください」
自分の基準を先に出しておけば、相手は「いや、今週中で大丈夫」のように、違うところだけを答えればすみます。
聞き方3 かみ合わないと感じたら、その場で言葉の意味を聞き直す
話しているうちに、なんとなく話がかみ合っていない気がすることがあります。そう感じたときは、そのままにせず、気になった言葉の意味をその場で聞き直してみてください。
「ありがとうございます。『丁寧に』というのは、見た目の仕上がりのことでしょうか。それとも、確認の手順のことでしょうか?」
相手の言葉をそのまま使って聞くのがコツです。ずれが小さいうちに確かめておけば、あとで「そんなつもりじゃなかった」と行き違うことが減ります。
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話がかみ合わない相手のことを、性格が合わないと思ってしまう気持ちはよくわかります。ただ、そう決めてしまう前に、相手がその言葉をどんな意味で使っていたのかを一度確かめてみる価値はあります。
書き出した3つの言葉のうち、ひとつだけでかまいません。明日の会話で、相手の受け取り方を確かめてみませんか?
*1 Jones, E. E. & Harris, V. A. (1967), "The attribution of attitudes," Journal of Experimental Social Psychology, Vol.3, No.1, pp.1-24.
*2 Ross, L. (1977), "The intuitive psychologist and his shortcomings: Distortions in the attribution process," Advances in Experimental Social Psychology, Vol.10, pp.173-220.
*3 Mauboussin, A. & Mauboussin, M. J. (2018), "If You Say Something Is 'Likely,' How Likely Do People Think It Is?," Harvard Business Review.
*4 STUDY HACKER|部下との対話はまずこの3つの型から。信頼され、成果をあげるリーダーに手にしてほしい「対話力」という武器
よくある質問(FAQ)
Q. 相手の言葉の意味を何度も確かめると、面倒な人だと思われませんか?
Q. 上司や取引先など、目上の相手にも言葉の意味を確かめてかまいませんか?
Q. 言葉の意味を確かめれば、性格が合わないと感じる相手ともうまくいきますか?
STUDY HACKER 編集部
「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。