「昇進試験を受けるよう上司から打診されたけど、自信がない性格だし、失敗しそうで不安……」
「資格を取得できれば昇給も見込めるが、自分は面倒くさがりだから、いまから頑張ったところできっと無理だろう」
このように、勉強する前から「できない」と考えるせいで、自己成長のチャンスを逃してしまっている人はいませんか?
勉強する前から「できない」と考えてしまうのは、じつはあなたの性格が原因ではありません。脳のある癖が、過剰に反応しているせいなのです。そこで今回は、すぐに「できない」と考えてしまう脳をコントロールして、意欲的に勉強へ取り組める3つの方法をご紹介しましょう。
「できない」とすぐ諦めるのは脳の「自己保存」のせい
私たちの脳は、すぐに「できない」と考えてしまいがち。というのも、脳には “生きたい” という本能に根差した「自己保存」という仕組みがあるから――。そう述べるのは、脳神経外科医の林成之氏です。
自己保存とは、意欲をつかさどる視床下部や、危機感をつかさどる扁桃核、情報を理解・判断する前頭前野など複数の脳組織に由来して起こる、自分を守るための反応のこと。過剰に働きやすい性質があるそうです。
たとえば、「自分にはできなさそうなので昇進試験を受けない」という選択をするのは、じつは自己保存によるもの。試験に落ちたときの他者の反応から、自分を守ろうとしているのです。
こうした自己保存の仕組みは後天的に備わったものなので、「できない」と過剰反応している状況は自分で変えることができると林氏は言います。では、どのようにすれば「できない」から「できる!」へ変えられるのでしょうか? 具体的な方法を3つご説明しましょう。
【対策1】なぜ難しいと考えるのか、正直な気持ちを書き出してみる
「自分にはできない」と考えてしまったときは、まず「なぜできないと感じるのか」をじっくり掘り下げてみましょう。
なぜなら、林氏いわく、自己保存の仕組みが過剰に働いている状態では「できないと判断したのは正しかった」と自己正当化してしまうから。
たとえば、「自分には難しいからできない」と考えて上司からの昇進試験の打診を断ったあと、「これでいい、いまの待遇で充分だ」と自分に言い聞かせるといったようなこと。しかしこうした「できないことを正当化したがる現状」を打破することが、脳をコントロールして「できる!」へ変える第一歩だと林氏は言います。
できない理由を掘り下げる際は、『ゼロ秒思考』著者・赤羽雄二氏考案の「思考のスピードと質を高めるメモ術」を取り入れてみてください。用意するのはペンとA4用紙(コピー用紙の裏面でOK)だけ。あとは、気持ちを箇条書きで紙に書き出してみましょう。
先の「昇進試験」の例であれば、次のようになります。
テーマ:なぜ昇進試験を受けるのが難しいと考えるのか?
- 試験勉強をする時間がない
- 文章作成が苦手なので、小論文を書くなんて無理
- 面接できっと落とされる
気持ちを書き出したら、林氏のアドバイスに従い、各項目について、本当に難しいかどうかを考えてみましょう。具体的には、主観が正しいと証明できるだけの根拠があるのか、客観的視点からも考えてみるとよいとのこと。自分で答えを出せない場合は、過去に試験に合格した上司に相談するなど、外部の視点を得るのもひとつの手です。
「試験勉強をする時間がない」と思っている場合……
- この主観は本当に正しいのか、考える:
「スキマ時間は1日あたり何分ある?」
「本当に勉強時間は捻出できないのか?」 - 他人の経験も参考にする:
「上司がかつて試験に合格した際、勉強した期間は1か月だけだったらしい」
「通勤時間と帰宅後にそれぞれ15分ずつ勉強したそうだ」
→ならば、自分にも勉強できるかも?
こうした客観視によって、思ったよりも難しくないと感じられる情報が得られれば、自己保存による脳の癖をコントロールし「できない」から「できる!」に認識を変えられるはずです。
【対策2】目標を明確にもち、ひとつひとつの行動のハードルを下げる
「できない」から一歩前へ進むには、「これくらいなら自分にもできる」と思えるくらいまで目標を細分化する必要があります。
というのも、グロービス経営大学院経営研究科副研究科長の村尾佳子氏いわく、達成に至るまでのプロセスがわからない漠然とした目標だと「できない」と考えてしまいやすいから。
また、やる気に関わるドーパミンは、目標を達成したことで得られる報酬に対する期待値の大きさに応じて、脳内で分泌されるとカリフォルニア大学ロサンゼルス校准教授のショーン・ヤング氏。報酬のひとつに挙げられるのが、目標実現による達成感です。たとえば「ファイナンシャルプランナーの資格がとりたい」という目標を漠然と立てても、それを達成できる気がしなければ、「やっぱり自分には無理かもしれない」と勉強する前に諦めてしまうのです。
そこでヤング氏は、次の4段階で「夢」から逆算して「短期目標」と「ステップ」を明確にすることをすすめています。ここでは、合格に3~5か月の勉強が必要だとされる「2級FP技能士」の試験を受けるか迷っているケースで考えてみます。
- 「夢」:達成に3か月以上かかること
2級FP技能士の試験に合格する。 - 「長期目標」:達成に1~3か月かかること
A~Fの全6科目のうち、1か月めで「A~C科目」、2か月めに「D~F科目」を勉強。3か月めは模試や実技対策を中心に勉強する。 - 「短期目標」:達成に1週間かかること
1日10ページテキストを読み、勉強する習慣を身につける。 - 「ステップ」:短期目標達成のために、2日未満でできること
- 評判がいい教材をインターネットで探す。
- 本屋でテキストと過去問題集を入手する。
最初から「2級FP技能士の試験に合格する」という夢を目指すと、先の道のりが長く感じられ、途中で夢を諦めてしまう可能性も。一方で「本屋でテキストと過去問題集を入手する」という小さなステップを目指してそれを実現することから始めれば、報酬として達成感を簡単に得られるので、勉強を続けたくなるはずです。
このように、報酬を期待できるようになるまで細分化すれば、すぐに「できない」と考えてしまう脳の癖をコントロールして「できる!」と思えるようになりますよ。
【対策3】できたことを毎日記録する
五輪メダリストらを指導するメンタルコーチの飯山晄朗氏は、こう説明しています。
――過去の失敗が強烈な記憶として脳に残っていると、すぐに「できない」と考えてしまいやすい。しかし、脳の記憶は上書き可能。「できた」という経験を繰り返すことで、「できない」と考える癖をなくすことができる――
そこでおすすめするのが、人材育成プログラムを数多く手がける永谷研一氏が考案した「できたことノート」。書き方はいたってシンプル、就寝前に1日を振り返って、その日できたことを3つ書き出すだけです。
2級FP技能士の試験に挑戦する場合を例に挙げましょう。
- 早起きして、カフェでの朝勉強に挑戦できた。
- 「ファイナンシャル・プランニングと倫理」をマスターできた。
- 章末テストを解いたら、前回より20点アップできた。
「できたこと」といっても、大きな成果である必要はありません。脳神経外科医の菅原道仁氏いわく、小さな成果のほうが、持続的にドーパミンを分泌させられるのでモチベーション維持には効果的とのこと。たとえば、量は問わず「勉強できた」と書くだけでもOKです。
さらに日曜日の夜に1週間分の記録を見返して「ベストできたこと」を決め、次の4項目で詳細を記録すると、より効果的に記憶へ残すことができるそうです。
【例】ベストできたこと:早起きして、カフェでの朝勉強に挑戦できた。
- 詳しい事実:1時間早い電車に乗り、オフィス近くのカフェで勉強。
- 原因の分析(なぜやることになったのか):夜は家族との時間を大事にしたいから。
- 本音の感情:朝が苦手だったけど「やればできる」と嬉しい気持ち。
- 次なる行動:通勤時間にもFP講座の動画で勉強しよう。
このように、自己保存による「できない」という気持ちを「できたことノート」で上書きして、脳の癖をコントロールしましょう。そうすれば、勉強へ意欲的に取り組み続けられるはずですよ。
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勉強する前から「できない」と考えてしまうのは、脳の癖によるものです。しかし、ちょっとした工夫さえすれば「できる!」に変えられます。さっそく、3つの方法を実践してみましょう。
(参考)
林成之 (2015), 『図解 脳に悪い7つの習慣』, 幻冬舎.
プレジデントオンライン|何にも長続きしなかった原因はこれだ!
株式会社日立ソリューションズ|第4回 真のリーダーになるために、脳の功罪を知る
グロービスキャリアノート|行動力がある人に共通する特徴と高める方法
東洋経済オンライン|「夢に向かって頑張る」が科学的にアウトな理由
日本FP協会|2級 試験範囲
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STUDY HACKER|1日3分×3週間の「できたことノート」習慣で、自己肯定感とやる気がぐんと高まった話
菅原道仁 (2018), 『なぜ、脳はそれを嫌がるのか? 』, サンマーク出版.
菅原道仁 (2017), 『「めんどくさい」がなくなる100の科学的な方法』, 大和書房.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。