仕事のリモート化が進んだことで、メールやチャットでのやり取りが以前より格段に増えた人は多いことでしょう。しかし、「話す」コミュニケーションがなくなったわけではありません。
文字だけのやり取りでは意思疎通しづらい話題もありますし、込み入った案件ではやはり直接話すケースは多いもの。そんななか、「相手に伝わるよう適切に話すことがどうも苦手だ……」という人はいませんか?
一方で、話の中身がすっきりシャープで、説明がきわめてうまい人がいるのも事実。両者の違いはいったいなんなのでしょう。今回は、相手に向き合って説明する際に大切なことを5つご紹介します。
1. 説明する前に、紙に書き出す
戦略コンサルタントで『一番伝わる説明の順番』などの著者・田中耕比古氏によると、多くの場合、説明がうまくいかない人の問題点は「言いたいことがよくわかっていない」という点にあるのだそう。
田中氏いわく、言いたいことがなんなのかを決めるためには、口頭で説明する前に思考を言語化して、整理しておく必要があるとのこと。説明したいと考えている内容をまず書き出し、眺めて、並べ替える作業が大切だと言います。
- 説明する情報を紙やノートに思いつく限り書き出す。
時系列でも、箇条書きでも、フレームワークを使っても可。
例)顧客に自社商品の説明をする前に、商品の強みを100個書いてみる。 - 書き出した情報を眺めて、似た情報ごとにグループ分けする。
書き出したものを眺め、情報をまとめなおす。自分が伝えたいことだけでなく、相手が興味をもっていそうなことを意識して。
例)100個の強みを3グループに分けて比較するなかで、3大セールスポイントを見いだす。 - 説明に適した順番に並べ替える。
相手の興味に沿うように、または、理解しやすいように、説明順序を決める。
例)3大セールスポイントの順番を、相手が聞きたいであろう順番を想定して並び替える。
言いたいこと、言うべきことがよくわかっていない状態で話し出しても、うまくいきません。まずは、情報を紙やノートに書き出して、話の中身を整理することから始めましょう。
2.「○○についてご存じですか」と前提をそろえる
『一生モノの伝え方が身につく 説明の技術』の著者で、関西テレビ放送アナウンサーの石田一洋氏は、初対面の人を相手に説明するときは、前提条件がそろっていないことを意識して、慎重に言葉を選ぶことが大切だと言います。
ここで有効なのが「○○についてご存じですか」というフレーズです。新しい携帯電話について客に説明する場面で考えてみましょう。前提を合わせないと、このような説明になります。
「この機種は、デュアルSIMに対応していますので、トータルコストを安くすることができますよ。個人的には、持ち物を減らせるところがイチ押しです」
一方で、前提を合わせると、次のような説明ができます。
「この機種は、デュアルSIMに対応しています。デュアルSIMについては、ご存じですか? (知らなかった場合)簡単に言いますと、デュアルSIMに対応していれば、仕事用と個人用の携帯をひとつにまとめることができます。つまり、携帯を2台持ちする必要がなくなり、端末費用が抑えられ、手荷物も減ることになるのです」
「ご存じですか?」と確認する作業によって、相手がもつ知識の範囲や度合いを把握すれば、相手がわかる言葉を使って説明することが可能になります。
このちょっとした配慮を欠いたまま説明をしてしまえば、相手の頭には「?」が浮かぶことに……。説明上手になるために、相手が知っていること/知らないことを先に確認するようにしましょう。
3.「ここまでよろしいですか」と確認する
説明のうまさが成果に直結する仕事の代表例のひとつ、営業。『トップセールスが絶対言わない営業の言葉』などの著書をもつサイレントセールストレーナーの渡瀬謙氏は、売れないセールスパーソンと売れるセールスパーソンの違いを、こう説明しています。
- 売れないセールスパーソン:
一度説明を始めてしまうと、途中でやめられない。売れないセールスパーソンに限って、客に説明を聞いてもらうことをゴールにしている傾向がある。 - 売れるセールスパーソン:
「ここまでよろしいですよね」「だいたいお話ししましたが、いかがでしょうか」といった具合に、話の途中で問いかけをして、相手の理解度をチェックしている。
このように、説明がうまい人は、会話を交えながらの説明を心がけているのです。
伝える力【話す・書く】研究所所長で、『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』などの著者・山口拓朗氏も、人に何か伝えるときは、相手が理解したかどうかに意識を向ける必要があると言います。
「ここまでの説明で、ご不明点はありましたか?」「何か質問や疑問はありませんか?」などと聞くことは、相手に伝わらないリスクを減らすことにつながります。説明がうまくいかない……という事態を招かずにすみますよ。
4. 絵が浮かぶように話す
『相手の頭に「絵」が浮かぶように話しなさい 100%伝わる! 説明のコツ』などの著者で、TALK&トーク話し方教室を主宰する野口敏氏は、わかりやすい話というのは、映像化しやすい話だと言います。
野口氏いわく、じつは私たちは他人の話を聞くとき、言葉を映像に変換しながら聞いているとのこと。そのため、うまい説明をしたいなら、聞き手がラクに映像化できる話し方をすることが大切なのです。
ひとつ例を挙げてみましょう。以下の説明を聞いて、どんな映像が思い浮かびますか?
【×】私は、Iotのロボット掃除機の研究をしています。
【○】私は、「水拭きもできるルンバ」のような、お掃除ロボットの研究をしています。
前者は、よくわからない横文字が出てきて、なかなか映像が浮かびにくかったことでしょう。一方の後者は、ゴミを吸い取るだけではなく、水拭きまでしているルンバの映像が目に浮かんだのではないでしょうか。
ですので、説明をするときは、頭のなかから文字を追い出して、場面を描きながら話すのがポイントです。スピーチをする場合なら、骨組みと大事なキーワードだけ紙に数行書いておき、読み上げるためだけの原稿は用意しないほうがいいですね。あなたの頭に浮かんでいる映像をそのまま伝えるイメージで、説明してみてはいかがでしょうか。
5.「動作」レベルまで具体化する
「1枚」ワークス株式会社代表取締役の浅田すぐる氏は、著書『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』のなかで、うまく説明できない理由のひとつは、話が「動詞」どまりの抽象的なものになっているからだと述べています。わかりやすく伝えるには、表現を「動作」レベルにまで具体化することが大切なのだそう。
浅田氏によると、「動詞」と「動作」の違いは下記のとおり。
- 動詞:その言葉だけ見聞きしても「何をしたらいいか」がわからない表現
例)コンサルタントとして、プロ意識をもつことが大切です。 - 動作:その言葉を見聞きすれば「どう行動したらいいか」がわかる表現
例)コンサルタントとして、顧客の業界に関する本を最低10冊読むことが大切です。
「動詞」を使った説明は、中身が抽象的すぎて、相手に何をすべきだと伝えたいのかが見えてきません。一方、「動作」を使った説明は、意味を理解することはもちろん即座に行動に移すことができるほど、具体的でわかりやすいですよね。
あなたの説明は、「動作」レベルになっているでしょうか。「動詞」を「動作」に置き換えるだけで、あなたの説明は見違えるほどうまくなりますよ。もしも、どうやって「動詞」を「動作」にすればいいか迷ったときは、「自分だったらどうするか」を考えてみるといいでしょう。人に動いてほしい場面や指示をする場面では、特に心がけてみてください。
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よりわかりやすく説明するためのヒントを5つ紹介しました。もし1つでも納得できるものがありましたら、せひ仕事や日常生活で使ってみてくださいね。
(参考)
田中耕比古(2018),『一番伝わる説明の順番』, フォレスト出版.
石田一洋(2020),『一生モノの伝え方が身につく 説明の技術』, 総合法令出版.
BIGLOBE|スマホ2台持ちを卒業できる「デュアルSIM」とは?使い方や注意点まとめ
山口拓朗(2020),『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』, 日本実業出版社.
渡瀬謙(2017),『トップセールスが絶対言わない営業の言葉』, 日本実業出版社.
野口敏(2018),『相手の頭に「絵」が浮かぶように話しなさい 100%伝わる! 説明のコツ』, PHP研究所.
野口敏(2016),『結果が出る! 超一流の伝え方』, PHP研究所.
齋藤孝(2008),『人を10分ひきつける話す力』, 大和書房.
浅田すぐる(2017),『「いまの説明、わかりやすいね!」と言われるコツ』, サンマーク出版.
【ライタープロフィール】
SHOICHI
大学院修了後、一般企業に就職。現在は会社を辞め、執筆活動をしている。読書、音楽、YouTubeが好き。