あなたの学びに「補助線」を——あえて他分野を学ぶ効果と、オススメの組み合わせ。

学んだはずの知識が出てこない男性

毎日コツコツ勉強している。資格の参考書も、ビジネス書も、英語アプリも続けている。勉強はもう習慣になっている。それなのに、会議で意見を求められた瞬間、学んだはずの知識がすっと出てこない。そんな心当たりはありませんか。

こんなとき、つい「もっと勉強しよう」と考えがちです。けれど、ある程度やっても手応えがないなら、足りないのは勉強の「量」ではなく、知識の「見方」かもしれません。

いま学んでいることを捨てる必要はありません。そこに、いつもと違う角度を1本だけ足してみる。それだけで、眠っていた知識が動きだすことがあるのです。

なぜ、量を足しても使えないのか

知識が仕事で使えるようになるのは、覚えたことをそのまま口に出せたときではありません。「あ、これ、あの場面と同じかもしれない」と気づいたときです。

心理学では、学んだことを別の場面で使うことを「転移」と呼びます。

ところが、この転移は、研究の世界でもそう簡単には起きないとされています。*1

理由のひとつは、ひとつの分野を掘り続けるほど、その分野の言葉でしか物事を確かめられなくなることです。

だから、手応えがないときに量を足しても、同じ道を先に進むだけで、景色は変わりません。効くのは、いちど別の場所から自分の分野を眺めてみることです。

別の角度で考える女性

では、別ジャンルのモノサシを1本持つと、何が変わるのでしょうか。

まず、「問いの立て方」が変わります。

会計の数字を見て「なぜこの数字になったんだろう」と人の心理から考えられる人と、数字を数字のまま見る人。同じ資料からでも、引き出せるものはまるで違ってきます。

別ジャンルは、いつもの仕事に新しい問いを持ち込んでくれるのです。

次に、よその分野の考え方を「借りて」こられるようになります。

ある問題に詰まったとき、まったく違う世界で見た解き方が、そのまま補助線になることがある。学び方の研究でも、似た問題ばかり続けて解くより、違う種類の例を混ぜたほうが、共通点と違いに気づきやすいと言われています。*2

違うものを並べるからこそ、形が見えてくるのです。

しかも、これは一部の器用な人だけの話ではありません。

いろんな分野を学んできた人ほど、変化の激しい問題に強い、という指摘もあります。*3 みんなが同じ本を読んで同じ答えを出すなかで、少し離れた棚から持ってきた1本のモノサシが、あなたを「代わりのきく一人」から抜け出させてくれます。

別ジャンルは、気晴らしではありません。今の分野を、別の角度から照らすライトです。

覚えたばかりの知識は、まだ“材料”のまま。別ジャンルのモノサシを通したとき、はじめて“道具”に変わっていきます。

どのジャンルを1冊足すか

では、何を選べばいいのか。ポイントは、すぐ役立ちそうな本を選びすぎないことです。マーケティングの人がさらに広告運用の本を読むのは「深掘り」で、モノサシとしては近すぎます。少し遠いジャンルを選ぶからこそ、いつもの対象を別の角度から見られるようになります。

代表的な組み合わせを、入門の1冊とあわせて挙げます。専門書ではなく、まず視点をもらうための本です。

会計・簿記 × 行動経済学

会計は「数字が合っているか」を追う仕事ですが、その数字を動かすのは人の心理です。損失回避や現在バイアスといったレンズが入ると、「なぜこの数字になるのか」まで読めるようになります。

📕 大竹文雄『行動経済学の使い方』(岩波新書)

第3章「仕事のなかの行動経済学」で、理論を実際の意思決定にどう使うかまで踏み込みます。

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英語 × 歴史

単語や文法を積んでも、なぜ英語がこの形なのかは見えてきません。英語の歴史を1冊入れると、日常語はゲルマン系、格式ばった語はラテン・フランス系という語彙の地層や、綴りと発音がずれる理由が腑に落ち、単語やニュアンスを丸暗記ではなく体系で捉え直せます。

📕 堀田隆一『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』(研究社)

「なぜ name は『ネイム』と読むのか」といった素朴な疑問から、英語の来歴をたどれます。

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マーケティング × 文化人類学

マーケティングは「どう売るか」に寄りがちですが、人類学は「人がどう生きているか」を丸ごと見ます。消費者を数字上の「ターゲット」ではなく、暮らしの文脈で選ぶ「生活者」として捉え直せます。

📕 松村圭一郎『うしろめたさの人類学』(ミシマ社)

市場や贈与といった「当たり前」を問い直し、行動の意味を状況ごと読む視点をくれます。

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プログラミング × 組織論

コードの構造は、それを作るチームの構造と地続きです。「システムは組織のコミュニケーション構造を映す」というコンウェイの法則が知られるように、組織論を1冊入れると、設計やレビューの詰まりを、技術ではなく人と構造の問題として捉え直せるようになります。

📕 沼上幹『組織戦略の考え方』(ちくま新書)

組織の設計と「腐り方」を、身近なケースで解き明かす読みやすい一冊です。

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大事なのは、極めようと気負わないことです。目的は専門家になることではなく、今の勉強を見るモノサシを増やすこと。全部を理解しようとせず、「今の仕事に似ているかも」と感じた箇所に付箋を1か所貼れれば十分です。

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使えない原因は、量不足ではなく視点不足かもしれません。今日できるのは、書店でいつもの棚に直行する前に、まったく違う棚を3分だけ眺めること。本棚に1冊、違うジャンルを加えるだけで、積み上げた知識は使える形に変わっていきます。

新たな視点で物事を見る女性

よくある質問(FAQ)

Q. 専門分野の勉強はやめたほうがいいのですか?
やめる必要はありません。中心に置く勉強はそのまま続けてください。提案しているのは、そこに月1冊だけ別ジャンルの本を足すことです。専門の深掘りと、別ジャンルによる視点の追加は、対立するものではなく補い合うものです。
Q. 別ジャンルの本も、しっかり勉強しないと意味がないのでしょうか?
その必要はありません。目的はその分野の専門家になることではなく、今の勉強を見るためのモノサシを増やすことです。全部を理解しようとせず、「今の勉強や仕事に似ているかも」と感じた箇所に付箋を1か所貼れれば十分です。
Q. 忙しくて月1冊も読めません。今日からできることはありますか?
まずは「違う棚を眺める」ことから始められます。書店や図書館で、いつもの棚に行く前に、まったく違う棚を3分だけ見てみる。1冊手に取って目次を眺め、「これは今の勉強にどうつながるだろう」と問うだけでも、見方は少しずつ変わります。

【ライタープロフィール】
橋本麻理香

大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。