「覚えなければいけないことが多すぎる」
「内容が難しすぎて、理解が追いつかない」
日々の業務や資格勉強のなかで、こうした「情報の飽和状態」に直面した経験がある方も多いのではないでしょうか。
そんなとき、「もう限界だ」と手を止める前に試していただきたいのが、「情報の整理法」を見直すというアプローチです。
キーワードは「チャンク化」。
これは脳の認知特性に基づいて情報を意味のある単位(チャンク)にまとめる手法のことで、理解力・記憶力の向上が見込めます。
本記事では、筆者が実際に資格試験の学習においてチャンク化を取り入れた事例とともに、ビジネスパーソンに応用可能なノウハウをご紹介します。
チャンク化とはなにか?―脳のための情報整理術
チャンク化とは、「大きな情報を小さなかたまり(チャンク)に分けていく記憶術」のこと。*1
チャンク化と聞くと専門的なテクニックのように思われるかもしれませんが、たとえば次のような身近な工夫もチャンク化の一例です。
身近なチャンク化の例
- 11桁の電話番号を「3桁-4桁-4桁」にわけて記憶する
- 長い文章を、書籍のように章立てで構成し直して理解する
- 料理レシピを「材料」「下準備」「調理手順」にわけて理解する
- プレゼンの資料内容を「導入」「本論」「結論」に構成して記憶する
このように、情報に「構造」をもたせることで、理解や記憶のハードルを下げることができるのです。
その理由のひとつに、イメージで覚えやすくなるからということが挙げられます。*1
チャンク化することで、「情報を視覚的なイメージとして、記憶・操作する機能」である「視空間スケッチパッド」を活用しやすくなるのです。*2
「視空間スケッチパッド」とは視覚的・空間的なイメージを活用することで、たとえば以下のような例が挙げられます。
- 「ノートの左上に、赤ペンでメモしたはず」と、位置や色のイメージで記憶を想起できる
- 「あのページの右下に図が載っていた」と、位置や図のイメージで記憶を想起できる
こうした視覚イメージと紐づけることで、記憶の定着と想起がスムーズになります。
ただし、チャンク化すれば無制限に情報を扱えるわけではありません。
2001年にミズーリ大学コロンビア校の心理学教授ネルソン・コーワン氏が発表した論文によれば、ワーキングメモリで一度に処理できるチャンクは4つ程度とされています。*3
つまり、効果的に記憶するには、情報を4つ程度に整理することがポイントなのです。
実際にチャンク化してみた
筆者は現在、著作権に関する資格取得を目指して学習しています。
「著作権の制限」に関する3つのテーマについて、それぞれ4つのチャンクに分類して整理してみました。
分類の観点としては、次の3要素を軸にしています。
- 具体例や例外を含むポイント
- 背景・理由
- 注意点
それぞれのカテゴリごとに、学んだ内容をまとめたのがこちら。
※実践画像はすべて筆者が作成した
それぞれのテーマをこの構成でチャンクごとにノートに整理した結果、情報が視覚的に明確になり、理解が深まった実感があります。
感じた効果と注意点
実践してみて、3つの効果を実感しました。
効果1. 情報の取捨選択が進み、学習効率が向上
情報を4つのチャンクにわけるという意識をもつことで、自然と「どの情報が重要か」「どこを要約すべきか」といった視点が生まれます。
これにより、テキストを読み流すのではなく、意味の構造を意識した読解が可能になりました。
たとえば、「すでに理解済みの事例は読み飛ばす」「理由部分に集中する」といった判断が即座にでき、学習のスピードが向上します。
それにより、単なる読み進めではなく、「意味を整理しながら読む」という能動的な読み方に変わってきます。
このような取捨選択ができるようになると、学習全体にスピード感が出るのだと実感しました。
効果2. アウトプットによる理解の定着
情報を4つのチャンクに整理する過程では、要点の言い換えや要約が欠かせません。
これは単なるまとめ作業ではなく、「本当に理解しているか」を問う理解度チェックでもあります。
もしテキストを丸写ししようとしていたら、それは理解できていないサインです。
その場合、再度テキストに戻って再確認したり、図解などを加えて理解を再構築したりする必要があります。
このプロセスが加わることで、ただ読む・書くといった学習ではなく「理解 → 表現 → 点検」という循環が生まれるため、単なるまとめ作業ではない理解の深まりにつながったと感じました。
効果3. 振り返りが容易になり、記憶の再生率が向上
情報を4つのチャンクに整理したノートは、あとから見返した際の視認性に優れており、「どこに何を書いたか」がイメージとともに再現されます。
たとえば、「左上に主要ポイント、右下に注意点」といったように、情報が配置とともに記憶に紐づいているため、短時間で要点を思い出すことができます。
これが視空間スケッチパッドを活用した記憶の効果なのだと実感しました。
また、情報が4つの枠に整理されていると全体をざっくりとイメージでき、そこから枝分かれする情報を順に思い出せます。
このように、ノートが「情報の引き出し」として機能するのは、チャンク化によって構造的に整理されているからだと感じました。
ただし、ひとつ注意したいのが「細かく分けすぎない」ことです。
あまり細かく分けすぎると枝葉末節にとらわれ、全体像が見えにくくなる可能性があるからです。
ポイントは、「なんのために分けるのか?」という目的をはっきりさせておくこと。
たとえば、「重要事項をざっくり整理して全体像をつかみたい」のか、「具体的な違いを比較したい」のかで、情報の分け方が変わってくるはずです。
あくまでチャンク化は手段であり、目的は理解と記憶の質を高めること。
形式的に「4つに分ける」ことにこだわりすぎず、「3つに分けるのでもOK」と柔軟に取り組むといいでしょう。
***
学習がうまく進まない原因は、必ずしも「記憶力の不足」や「理解力の問題」ではなく、情報の扱い方にあるのかもしれません。
本記事で紹介した「チャンク化」を取り入れ情報に構造を与えることで、理解が深まり記憶にも残りやすくなります。
「覚えきれない」「内容が複雑で頭に入らない」と感じたときこそ、情報を4つのまとまりに整理してみるだけで、知識の見え方が大きく変わってくるはずです。
勉強の負担を少しでも軽くしたいと考えている方は、ぜひチャンク化という視点を取り入れてみてください。
※引用の太字は編集部が施した
*1 Indeed|チャンク化とは?記憶力アップの方法とヒント
*2 速読ナビ|【情報処理能力の土台】ワーキングメモリを鍛える方法
*3 Agenda note|一度に処理できる情報は4つまで。短期記憶の”容量”からマーケティングを考えよう
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。