考えすぎるから決められない?――ベゾスが教える「迷いを断つ思考法」

赤字で「decisions」と書かれた表現

「考えすぎて、結局動けない」

「慎重になりすぎて、時間だけが過ぎていく」

そんなふうに立ち止まってしまった経験、誰しも一度はあるはず。

でも、人生もビジネスも、慎重さだけでは前に進めません。

Amazon創業者ジェフ・ベゾスは、数々のビジネス判断を驚くほどシンプルな思考法で乗り越えてきました。

その名も、「ツーウェイドア」という意思決定法です。*1

今回の記事では、「頑張って考えすぎないこと」が、むしろ最良の意思決定につながることを、3つの科学的アプローチから掘り下げます。

いままさに何かに迷っている人は、読み終えたときに「そんなに悩まなくてもよかったのかも」と、少し肩の力が抜けているかもしれません。

エフォートレス思考が証明する「努力の逆効果」

Amazon創業者のジェフ・ベゾスは、意思決定を「ワンウェイドア」「ツーウェイドア」のふたつに分けて、スピーディな意思決定を促す文化を築いてきました。

アマゾンジャパン合同会社が学生向けに行なった講演では、以下のように語られています。

「ビジネスにおいて、取り消しが効かない重要な決定が『ワンウェイ ドア』(一方通行の意思決定)だとしたら、Amazonでは『ツーウェイ ドア』(双方向に行き来できる意思決定)のほうが望ましいと考えます。

変更できない意思決定をする企業は、時間をかけてリスクを検討した上でチャレンジを諦めてしまうことがある。

しかし私たちはある程度のリスクはつきものと考えた上で失敗を恐れず、チャレンジする姿勢を歓迎します。つまり、『ツーウェイ ドア』によってスピード感のあるビジネスが可能になるのです。(略)」 *1

このように、Amazonでは失敗をも前提とした意思決定が推奨されているのです。

光って見える扉

しかし多くのビジネスパーソンは、たとえ些細な選択でも「失敗できない」と構えてしまい、会議を重ね、頑張って考えすぎることで行動が遅れてしまいます。

この「頑張って考えすぎる」傾向が非効率であることを心理学の観点から裏づけるのが、2021年にビジネス戦略化のグレッグ・マキューン氏が提唱した「エフォートレス思考」です。

エフォートレス思考とは、努力を最小化して成果を最大化する思考法のこと。

マキューン氏は、「頑張らないからこそ結果が出せる」と指摘し、努力が空回りしないために「どうすればもっと楽になるだろう?」とやり方を見直してみるようにすすめています。*2

意思決定においても同じことが言えるでしょう。

複雑に考えて頭でっかちになるのではなく、「まず行動してから修正する」という柔軟な姿勢が大切なのです。

「Take action NOW」と書かれた表現

認知負荷理論が示す「思考の限界」

さらに、「頑張って考えること」がかえって思考の質を下げてしまうことは、認知心理学の「認知負荷理論」によっても明らかにされています。

この理論で言う「認知負荷」とは、脳のワーキングメモリにどれだけ負担がかかっているかということです。

オーストラリアの教育心理学者であるジョン・スウェラー氏の研究で、人間が脳で一度に処理できる量には限界があり、限界を超えるとワーキングメモリの働きがオーバーフローしてしまうことがわかりました。*3を参考にした

さらに、ミズーリ大学教授のネルソン・コーワン氏の研究では、ワーキングメモリで一度に処理できるのは4つ程度の情報のかたまりだとされています。*4を参考にした

つまり、ワーキングメモリの容量は私たちが思うよりはるかに少なく、思考、理解、学習、問題解決といった脳の処理能力を最大限に引き出すには、ワーキングメモリに負荷をかけすぎないことが大切だと言えるでしょう。

近年では、マーケティングや教育現場においても認知負荷理論が取り入れられています。

  • WEBページやパッケージ開発などで、情報を3〜4つのまとまりに整理する *4
  • スライドの教材において、不要なイラストや過度なアニメーションの使用を控える *5

ほかにも、認知負荷を考慮した身近な例はさまざまです。

  • 25分集中したら5分の休憩をはさむといったポモドーロテクニック
  • パワーポイントで、1枚のスライドに情報を詰め込みすぎない
  • 視覚的にわかりやすいように、図やグラフなどを活用した資料作成

こうした工夫は、みなさんも取り入れた経験があるのではないでしょうか。

意思決定においても同じように、シンプルな判断基準を設けることで認知負荷を軽減させ、思考の限界を超えないように工夫する必要があるでしょう。

意思決定においても「頑張りすぎない」ことは認知負荷対策となり、脳の働きを引き出すことにもつながるのです。

フロー理論が解明する「自然な集中状態」

ここまで、頑張りすぎない「エフォートレス思考」がいかに認知負荷を軽減するかについて述べてきました。

じつは、この「頑張りすぎない」という姿勢こそが、私たちが最高のパフォーマンスを発揮できる「フロー状態」へと導くための、非常に重要なカギとなります。

そして、このフロー状態での意思決定は、その質が飛躍的に向上することが多くの研究で示されています。

「フロー状態」とは心理学者ミハイ・チクセントミハイ氏が提唱した概念で、時間の感覚がなくなるほど作業に没頭して充実感を得ている精神状態のことです。*6

日常においても、私たちはあらゆる場面で「フロー状態」を経験しているはずです。

  • 趣味のギターを練習していたら、あっという間に日が暮れていた
  • 作業に没頭していて、昼休憩の時間になっていたことに気づかなかった

チクセントミハイ氏によると、私たちが情報処理できる量は約110ビット/秒(大体12文字ぐらい)なのだそう。

この事実をふまえて「他の情報処理に時間がとられないように、情報を遮断することも大事」だと分析します。*6

意思決定においても、複雑に考えすぎるとフロー状態を阻害し、かえって質の低い判断になってしまうと言えるでしょう。

つまり、「頑張りすぎない」姿勢がフロー状態へと導き、質の高い意思決定を下すためのカギとなるのです。

ノートパソコンがあるデスクでリラックスするビジネスパーソン

実践方法

では、どうすれば「頑張りすぎない」姿勢を身につけられるのでしょうか?

これまでの3つのポイントをふまえ、具体的な実践方法を提案いたします。

1. ワンウェイドア・ツーウェイドア分類法の導入

「これはあとで変更・中止できるか?」という判断基準をもとに、すべての意思決定をふたつに分類する習慣をつけましょう。

  • ワンウェイドア(後戻り不可): (例)結婚、転職、大型投資など → 慎重に検討
  • ツーウェイドア(後戻り可能): (例)日常業務の大半、新しい取り組み → 素早く決断

2. エフォートレスな決断環境の構築

脳の認知負荷を減らすために、エフォートレスな環境を次のように整えてみるのはいかがでしょうか。

  • 「やらないことリスト」を作成
  • ルーティン化できる決定は自動化(服装、食事、移動ルートなど)
  • 抱え過ぎないようスケジュール管理を徹底
  • 「完璧」より「充分」を基準にする(資料作成など)
  • 仕事を細分化し、それぞれをシングルタスクとして扱う

3. フロー状態を意図的に作り出す工夫

上記の1と2の効果をより高めてフロー状態に入りやすくするために、外部からの中断を排除する工夫も有効でしょう。

  • スマートフォンの通知を切る
  • 静かに作業できる環境に行く

フロー状態に入るのをただ待つのではなく、入りやすい状態を意図的につくっていく姿勢が大切です。

集中して作業するビジネスパーソン

***
考えすぎずに動く。それだけで、意思決定のスピードも成果も変わります。迷ったら「ベゾス式で言うツーウェイドアかどうか」を問い、まず一歩を踏み出してみましょう。行動を止める慎重さより、まずは動き出す柔軟さこそが成果への近道です。

※引用の太字は編集部が施した

【ライタープロフィール】
澤田みのり

大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。

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