人は努力が嫌いなのではない。"無駄な" 努力が嫌いなのだ。あなたの "怠けぐせ" は「意味の可視化」で克服できる

やる気のない男性社員

「また三日坊主で終わった」「自分には意志力がない」。そんなふうに自分を責めた経験はありませんか。

勉強を頑張ろうと思っても続かない。気づけばスマートフォンを眺めている。そんな自分を「怠け者だ」「努力が嫌いなんだ」と決めつけてしまう人は少なくありません。

けれど2026年に発表された論文は、人間はそもそも「努力嫌い」ではないと指摘しています。一体どういうことでしょうか。

「脳は怠け者」は本当じゃなかった。数十年来の定説をくつがえす指摘

これまでの心理学では、「最小努力の原則(Principle of Least Effort)」という考え方が知られてきました。人間だけでなく動物や、よく設計された機械でさえも、自然と労力の少ない道を選ぶ、という理論です。*1

  • 一夜漬けで丸暗記し、試験をなんとか乗りきる
  • 昨年の報告書をコピーして数字だけ変える

しかし2026年に『Neuroscience & Biobehavioral Reviews』誌で発表されたレビュー論文は、こうした "努力を回避する行動" を "戦略的なもの" として再解釈しました。著者らは、人は努力そのものが嫌いなのではなく、"無駄な努力" を嫌っているのだと主張しています。*2

ここで言う "無駄な努力" とは、取り組んでも前進が得られなかったり、費やしたコストに見合う効果が得られなかったりするような努力のことです。*2

  • 実務と乖離した、会社の意向だけで受けさせられる資格試験
  • 受講しても昇給も異動も見込めない、上司の指示による研修
  • 誰も読まないであろう報告書の作成

「無駄な努力を避けたいなんて、当たり前のことでは?」と思うかもしれません。

けれど、実際に自分を振り返ってみるとどうでしょうか。「気が乗らない」「なんとなく続かない」というだけで、「自分には無理」「甘えているだけ」と、ひとまとめにして否定していませんか。

無駄な努力

熱中できることと、できないことの違い

一方で、趣味のスポーツやゲームには、時間を忘れて没頭できることもあるでしょう。人が努力を嫌うのだとしたら、なぜ特定のことにはこれほど熱中できるのでしょうか。

先の例に挙げた「意味を見いだせない業務や勉強」にはなく、「没頭できる趣味や物事」にはあるもの。それは、「評価やステップアップにつながる」「喜びや満足感」といった "見返り" です。

つまり、一概に「人は努力が嫌い」というわけではなく、「努力に見合わない見返りしか感じられない」場合に、努力そのものが苦痛に感じられるのです。むしろ、自分の意思で主体的に取り組む努力には、快感すら覚えるものなのです。

努力を苦痛にするのは「量」ではなく「見返りの有無」。ここから、勉強や苦痛な業務を続けるための本質的なアプローチが見えてきます。それは、取り組むべきものを「意味あるものにする」ことです。

先述した論文の著者らも、学校や職場でタスクの負担を軽くしようとするよりも、取り組む人の目に意味あるもの、役立つものとして映るようにしてはどうかと問いかけています。*2

ここからは、この考え方を個人の学習習慣や業務の取り組み方に落とし込む視点を見ていきましょう。

「なぜ取り組むのか」を言語化する

意欲を引き出すうえで最も欠かせないのは、「評価に見合った報酬」と「目標の受容」の2つ。産業・組織心理学を専門とする角山剛氏(東京未来大学モチベーション行動科学部学部長)は、そう語ります。*3目標を掲げる男性

つまり、先ほどの「努力に見合う見返り」と「納得感のある目標」を明確にするのが大切なのです。

1. 英語を勉強したいとき

英語を勉強する

来年の海外出張に備えてビジネス英語を学ぶ。自分で交渉できれば、商談の場で通訳待ちのタイムロスがなくなる

2. 簿記を取りたいとき

簿記を取る

財務の基礎を身につけ、予算会議で自分の意見を数字で示せるようになる

3. マーケティングを勉強したいとき

マーケティングを勉強する

自分でデータ分析できるようになれば、企画の根拠を社内で説明できるようになり、提案が通りやすくなる

勉強や業務に取り組む目的を具体的かつ納得感のあるものにすると、見返りも明確になります。そうすれば、その努力を無駄とは感じにくくなるはずです。

「少し頑張れば届く」目標を段階的に置く

目標が遠すぎると、いま積んでいる努力が達成に結びつく感覚を持てません。「本当に届くのだろうか」「届かなかったら、ここまでの時間はどうなるのか」。手応えのないまま積み上げる努力は、先に見た "無駄な努力" と同じ姿をしています。

だからといって、簡単すぎる目標でも結果は変わりません。達成しても得るものが乏しければ、やはり払ったコストに見合う見返りがないからです。目標は高すぎても低すぎても、努力を「無駄」の側へ押しやってしまうのです。

そこで、「少し頑張れば届きそうな小さな目標」を、段階的に設定するのです。

前出の角山氏も、目標は「ギリギリ達成できるくらい」のレベルが最もモチベーションを高めると述べています。*3狙いを定める女性

さらに、最終的には届かなくても、途中の段階的な成功が評価される場合には、やる気の維持につながるとも指摘しています。*4

1. 読書量を増やしたいとき

今月中に本を3冊読む

ステップ1 通勤電車の往路で10分だけ読む

ステップ2 3週間で1冊読了する

2. プログラミングを学びたいとき

週末にプログラミングを集中学習する

ステップ1 平日夜、お風呂が沸くまでのあいだにひとつの関数を書いて理解する

ステップ2 理解した関数を使って、簡単なスクリプトを作成してみる

進み具合を目に見える形にする

目的を言語化し、届きそうな目標を刻んでも、「無駄かもしれない」という感覚は意外としぶとく残ります。進んだ分を自分で確かめる手立てがないからです。

「どの程度進んでいるのか」「どれだけ進歩したのか」が見えなければ、手応えは得られないままです。裏を返せば、進み具合が目に見えれば、それ自体が「前に進んでいる」という見返りになるということ。可視化とは、見返りの実感が乏しかった努力に、あとから意味を与える作業なのです。

たとえば、次のように努力の結果を可視化してみてはどうでしょうか。

可視化のしかた

  • 過去問を解いた際の点数をグラフ化し、推移を明確にする
  • 小さな目標を書き込んだタイムライン年表をつくり、達成するたびにチェックをつけていく

「確実に前へ進んでいる」「停滞しているから対策が必要だ」。そう自分で自分にフィードバックできれば、同じ努力でも意味の見え方が変わってきます。

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続かない自分を責める前に、その努力に見返りが用意されているかを確かめてみる。「この取り組みは、自分にとって何のためにあるのか」。そう問うことから始めてみませんか。

よくある質問(FAQ)

Q. なぜ人は「努力が嫌い」だと思い込んでしまうのですか?
従来の心理学では「最小努力の原則」により、人は本能的に労力を避けようとすると考えられてきました。しかし2026年に発表されたレビュー論文では、人が本当に避けているのは努力そのものではなく、意味を感じられない「無駄な努力」であると再解釈されています。
Q. 「無駄な努力」と「意味のある努力」は何が違うのですか?
取り組んでも前進が得られなかったり、費やしたコストに見合う効果が得られなかったりする努力は「無駄な努力」と位置づけられます。反対に、評価やステップアップにつながる、あるいは喜びや満足感という見返りを感じられる努力は、苦痛ではなく快感として経験されやすいとされています。
Q. 苦手な勉強や業務を「意味のあるもの」に変えるには、何から始めればよいですか?
まずは「なぜ取り組むのか」を具体的に言語化し、次に達成可能な範囲で目標を段階的に設定し、最後に取り組みの進捗を可視化することが有効です。この3つの視点を意識するだけでも、努力に対する感じ方が変わってきます。
Q. 目標はどのくらいの難易度に設定するとよいですか?
産業・組織心理学を専門とする角山剛氏によれば、「ギリギリ達成できるくらいの目標」が最もモチベーションを高めるとされています。加えて、途中経過も評価する仕組みを取り入れることが、やる気の維持に効果的だと指摘されています。
(参考)

*1: Wikipedia|Principle of least effort
*2: Neuroscience News|Humans Avoid Wasted Effort Rather Than Exertion
*3: リクルートマネジメントソリューションズ|目標と報酬のないところにモチベーションは起こらない
*4: 日立システムズ|【第1回】やる気を科学する

【ライタープロフィール】
澤田みのり

大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。