なぜあの人は感情的にならないのか? 「冷静な人」は知っている ”5つの感情管理術”

疲れている女性

「あの会議でもっと強く主張すべきだった。でも感情的になって逆効果だったかも…」
「プレゼン直前なのに、緊張で頭が真っ白になりそう…」

仕事の現場で、こんな場面に遭遇したことはありませんか?

ビジネスパーソンの多くが「感情のコントロール」に悩んでいます。締切のプレッシャー、予期せぬトラブル、人間関係の軋轢——。感情の波に飲まれてしまうと、生産性の低下はもちろん、キャリアにも影響を及ぼしかねません。

しかし、感情は「コントロールできない」わけではありません。適切な方法を知り、実践することで、感情をより良い方向にマネジメントすることは可能なのです。

今回は「感情管理のメソッド」を5つご紹介します。短時間で始められるものから、継続的な取り組みで大きな効果がでるものまで。あなたに合った方法が、きっと見つかるはずです。

 

「ジャーナリング」 ——心の内をそのまま書き出す

感情を管理するためには、たまったストレスを心から解放することが大切です。そのためには、感情を書く「ジャーナリング」が適切でしょう。

通常の日記では、一日に起こった出来事を振り返りノートに書き留めますが、ジャーナリングは思い浮かぶ雑念や感情を、誤字や文法を気にせず、一心に執筆します。書くことに集中し、瞑想状態に似ていることから「書く瞑想」とも呼ばれます。

一般社団法人マインドフルネス瞑想協会代表理事の吉田昌生氏は、ジャーナリングの大きなメリットは「メンタルが整う」ことだと述べます。*1

  • 不安や悩みを言語化する→抱えている不安や悩みを認識できる
  • 不安や悩みを頭のなかから出す→自分と切り離し、客観視できる *1

ストレスのデトックス効果と、俯瞰して自分を見つめるメタ認知の働き——この両方が期待できるのです。

そのため、ジャーナリングを継続すれば、自分の思考のクセや、どの場面でイライラや不安を感じやすいのか、自分の感情をより理解できるようになります。この能力はいわゆる「感情をうまく感じ取ってコントロールする能力」「EQ(=Emotional Intelligence Quotient)」を高めることにつながります。

ジャーナリングのやり方は以下のとおり。

    • ノートとペンを用意する
    • 頭のなかに浮かんできたことを思いつくまま書き出す *1
実践例:プレゼン前のジャーナリング
明日の営業戦略プレゼン、どうしよう。緊張する。数字の根拠をつっこまれそうで不安。去年の第3四半期の解釈が甘いのかも。でもそれは業界全体の傾向を見ても正しいはず。先週の部長との打ち合わせでも大丈夫って言ってもらえた。 あと質疑応答。前回プレゼンのとき、想定外の質問でとまどった。あのときは結局なんとか答えられたけど。むしろ質問してもらえたことで議論が深まった。そういえばA社の田中さんが言ってくれた「このデータ面白いですね」って反応、確かに。 資料は3回見直した。想定質問リストも作った。スライドの数字の見せ方、グラフの使い方、去年より工夫できてる。大丈夫、準備はできてる。落ち着いて、いつも通りやればいい。
↑このように、頭に浮かんだ考えや感情をそのまま書き出すことで、漠然とした不安が整理され、自分の準備状況も客観的に見えてきます。完璧な文章である必要はありません。思いついた順に、思いのまま書いていきましょう。

ポイントはひたすらアウトプットに没頭することです。頭に渦巻いている考えを紙に書き出して読み返せば、新たな気づきを得られるでしょう。

ジャーナリングの実践紙面

(画像引用元:STUDY HACKER|感情を「書いて」成功する。EQを高める”ジャーナリング”実践ガイド

「マインドフル瞑想」 ——呼吸に意識を向ける

脳の疲れは心の乱れと連動しています。呼吸に意識を向ける「マインドフルネス瞑想」で、脳の中をクリアにしましょう。

精神科医・禅僧である川野泰周氏は、脳疲労の原因のひとつは嫌なことや悩みなどのストレスと語ります。ネガティブな感情を抱くと、脳のなかでは次のような状態に。*2

【1】ネガティブ感情で感情に関わる「扁桃体」が活発化

【2】脳の理性をつかさどる「内側前頭前野」が扁桃体を抑えようとする

【3】「内側前頭前野」のエネルギーが消耗し、脳が疲れやすくなる

ストレスが重なれば重なるほど、脳のエネルギーは消耗してしまうのです。そこで負の連鎖を断ち切るのに、マインドフルネス瞑想が有効です。

マインドフルネスとは、川野氏いわく「いまここで感じている体験に注意を向け、あるがままに受け入れる」こと。*2 私たちはストレスがたまるとネガティブな雑念にとらわれがちですが、マインドフルネス瞑想では身体感覚、心の状態に目を向けてストレスから距離をとるのですね。

川野氏はマインドフルネス瞑想を継続すると、扁桃体の活動が穏やかになり、感情をコントロールしやすくなる、と述べます。*2 マインドフルネスの状態を覚えさせるには、継続していくことが大切です。そこでマインドフルネス瞑想を「1分」から始めてみましょう。

前出の吉田氏が紹介する「1分瞑想」のやり方は次のとおり。*3

1 あぐらなどラクな姿勢をとり、背すじを伸ばす。椅子の場合は浅く腰かけ、背すじを伸ばす
2 鼻から息を吸い、倍の時間をかけて鼻からゆっくりと吐く(考え事が頭に浮かんだときは、再び呼吸へ意識を戻す!)
3 3~4回呼吸を繰り返すと、ちょうど1分!

これなら、自宅ではなくとも通勤中や仕事の小休憩にも取り入れやすいですね。1分の瞑想に集中できるようになったら、少しずつ時間を伸ばしてみてみましょう。

瞑想する女性

「アファメーション 」——自分を励ます言葉を唱える

気分や感情は誰かからの言葉で左右されやすいものです。そのため、自分にかける言葉も同じ影響力があります。言葉で自分を肯定する「アファメーション」で感情を安定させましょう。

医療専門家であり研究者のブリンドゥサ・ヴァンタ博士によれば、ポジティブなアファメーションは、自信の低さや失敗への恐れなど否定的な思考パターンを中断させるのだそうです。そのため、ネガティブ思考の悪循環を断ち切り、健全な思考が生まれるのです。*4

アファメーションのポイントは、「繰り返し行なう」こと。ヴァンタ博士によれば、最近の研究で「一度だけ聞いた情報よりも、繰り返し聞いた情報のほうが真実だと錯覚する」と判明しているそうです。*4 何度もポジティブな言葉を繰り返せば、心の底へ刷り込ませることができるわけですね。

アファメーションを行なう場合、次の点を意識してみてください。*4

  • 成長したい/改善したい分野を選ぶ
  • 肯定的な表現をする
  • 具体的かつ信頼できるものにする 

たとえば……

<私は去年より営業成績を30%上げるため、毎日コミュニケーション術を学びます>

<私が習得したスキルで顧客の信頼を得て、より仕事に対し自信を持てるようになります>

感情と言葉は密接に関連しているため、ポジティブな言葉はあなたの心によい変化をもたらしてくれます。ポジティブな言葉で仕事に対する気持ちも高めましょう。

アファメーションする男性

「ムードトラッカー」 ——日々の気分を記録する

感情をコントロールするには、気分の波を把握することが大切です。その日の気分を記録する「ムードトラッカー」が役に立つでしょう。

「ムードトラッカー」とは、一日の気分や感情を記録しておくツールです。気分を記録することで、どういう状況や環境で感情に変化があるのかを確認することができます。つまり、感情の波を記録することで、ストレスが発生するパターンを見つけるのです。

ニューヨーク大学医学部精神科の臨床助教授、公認心理学者のレイチェル・ゴールドマン博士は、ムードトラッカーの効果について以下のようにまとめています。*5

  • 気分の変化を引き起こすトリガーを見つけられる
  • 睡眠、食事、日常の活動などの要因が気分にもたらす影響を知る
  • ネガティブな気分、行動に対処する方法を見つけられる
  • 気分が変化するパターンを知り、改善策を考えられる

つまり、その日の気分を記録すれば、ネガティブになる状況や環境のパターンを知り、行動の改善・対処ができるのです。

ムードトラッカーを実際に手帳で活用してみると、次のようなイメージになります。

ムードトラッカーの実践画像

気分を記録すると、仕事でストレスを感じやすい状況、ストレスを解消できるプライベートの過ごし方……などが明確にわかるようになります。

納期前に気分が下がるなら、タイムマネジメントを徹底化する。芸術に触れると気持ちが高まるのなら、事前にその時間をスケジュールに入れる。自分の機嫌を自分でとるためのツールとして活用してみてくださいね。

「アンガーマネジメント」 ——怒りと6秒の距離を置く

仕事をするうえで一番厄介な感情は「怒り」です。怒りを失くすことはできませんが、6秒ルールで怒りを手なずけることはできます。

アンガーマネジメントコンサルタントの安藤俊介氏によれば、アンガーマネジメントとは、怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングのことです。怒りは主に自分が大事にしてきた「価値観や理想を裏切られた」場面で湧き上がる感情だと、安藤氏は述べます。*6

たとえば、タイムマネジメントを大事にしているのなら、効率的に働いていない部下のことは許せないかもしれません。ですが、頭ごなしに部下を叱ったとしても、かえって萎縮させるだけで業務効率改善を促すことはできないでしょう。

怒りは完全に消せませんが、時間を置けば理性を取り戻すことはできます。そのため、アンガ―マネジメントでは「6秒ルール」という方法があります。

6秒ルールとは、怒りを感じたときに反射的に怒りを相手にぶつけるのではなく、「6秒」時間を置くことです。安藤氏によれば、「人間の怒りのピークは長くても6秒」。怒りのピークにあるときは、感情的な言動をとりやすいため、怒りがやや緩やかになるときまで待つのです。*6

安藤氏いわく、6秒の間に——

  • 1、2、3……とカウントする
  • 大丈夫と言い聞かせる
  • 深呼吸をする

などの方法をとるのが好ましいと言います。6秒さえ乗り越えられれば、理性が働くようになります。

前述の「タイムマネジメント」の例で考えてみましょう。重要なプロジェクトの締切直前に、関係のない業務に時間を割いている部下を見かけたとします。頭ごなしに叱りつければ、部下は萎縮するだけで根本的な改善は望めないもの。その代わりに、深呼吸をしながら6秒数えます。冷静さを取り戻したあと、「仕事の進め方について話し合おう」と声をかけることで、建設的な対話が生まれ、業務改善につながるでしょう。

「すぐに怒らない」習慣が身につけば、感情をコントロールでき、業務も円滑に進むはずです。

感情管理5つのメソッド 1. ジャーナリング 思考を書き出してデトックス&メタ認知 2. マインドフル瞑想 呼吸に集中し、脳の疲れを解消 3. アファメーション 言葉で自分を肯定し、ポジティブ思考を育む 4. ムードトラッカー 気分の変化を記録し、パターンを把握 5. アンガーマネジメント 6秒ルールで怒りをコントロール

***
感情をマネジメントすれば、仕事で必要以上に疲れることはありません。理性的でいれば、あなたの評価もきっと上がるはずですよ。

【ライタープロフィール】
青野透子

大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。

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