英語で“話す”のはなぜ難しい?|ビジネス英語の鬼が語る、話すための「脳の使い方」

「プレゼンの質疑応答セッションで頭が真っ白になって、英語で論理的に答えられない……」
「会議での即興的な発言で、いつもの英語力が出せない……」

海外クライアントとの商談や、グローバル企業での会議。プレゼン本編は準備できても、その後の質疑応答でつまずいてしまう。そんな経験はありませんか?

じつは、これは単なる英語力の問題ではありません。即興で英語を話す場面で論理が飛んでしまう原因は、脳の仕組みと深く関係しています。たとえば、TOEIC900点以上の方でも、Q&Aセッションになると急に詰まってしまうことが少なくないのはこのためです。

前回の記事("ビジネス英語"が苦手な人が知らない『説得の型』とは?)では、『英文法の鬼100則』の著者として、また ENGLISH COMPANY のシニアリサーチャーとして培った経験から、英語での説得に必要な論理フレームについてお話ししました。

第2弾となる本記事では、なぜ即興的な英語でのロジカルな発信が難しくなるのか、そして「どうすれば効率的に説得力のある英語が話せるようになるのか」を、認知科学的な観点をを交えながら解説していきます。

日本語ではできることが、なぜ英語になるとできないのか

ビジネスにおいて、会議やプレゼンテーションの主な目的は、相手に納得してもらうことです。そして、相手の理解と同意を得るためには、論理的な説明が必須となります。これは、日本語でも英語でも変わらない、ビジネスコミュニケーションの基本です。

しかし、この当たり前のことが、英語となると途端に難しくなります。日本語なら筋道立てて説明できる内容でも、英語になると論理が飛んでしまうことは珍しくありません。

前回の記事「"ビジネス英語"が苦手な人が知らない『説得の型』とは?」では、英語での説得に「型」という論理フレームが不可欠だとお伝えしました。では、そもそもなぜ英語では日本語のように論理的に話せないのでしょうか?

その答えは、私たちの脳の働きにあります。英語が第二言語である私たちが、論理的な英語を即興で話せるようになるには、まず脳の仕組みを理解する必要があるのです。

「母語」「第二言語」って?
言語学の世界ではいわゆる「外国語」のことを「第二言語」と呼びます。これは、国と言語は必ずしも結びついていないから。同様に「母国語」のことも「母語」と呼びます。3つめの言葉でも4つめの言葉でも、「第二言語」と呼び、第三言語、第四言語とはいいません

なぜ英語で論理的アウトプットが難しくなるのか —— 脳の仕組みを知ろう

日本語で話す時と英語で話す時で異なる脳の動き

私たちが母語である日本語を使うとき、脳内では実にシンプルなプロセスが働いています。

  1. 考えを組み立てる(概念化)
  2. 口に出す

一方、英語のような第二言語では、このプロセスに新たなステップが加わります。

  1. 考えを組み立てる(概念化)
  2. 英語に変換する(言語化)
  3. 正しい発音を意識しながら口に出す(調音)

このステップの追加が、私たちの脳に大きな負担をかけます。その鍵となるのがワーキングメモリーです。ワーキングメモリーとは、情報を一時的に保持しながら処理する脳の働きを指します。しかし、その処理能力には限界があります。英語への変換や発音に意識を取られることで、論理的思考のためのリソースが制限されてしまうのです。

英語の場合、英語でどう言うか(言語化)とどう発音するか(調音)にリソースが割かれるため、考えを組み立てる(概念化)ことに使えるリソースが制限される。

ワーキングメモリーが圧迫され、ロジックが弱くなる

「これを英語でなんと言うんだっけ」「この発音、あっているかな」。こうした不安が頭をめぐるあいだも、脳は貴重なリソースを消費し続けています。その結果、ビジネスの本質である「論理的な説明」や「説得」に充てられる脳のリソースが不足してしまいます。

一般的に、英語力を向上させるためには、語彙やフレーズを増やしたり、文法を学んだり、準備した内容を素早く英語に変換する練習をしたりします。もちろん、これらは重要な要素です。

しかし、ワーキングメモリーの仕組みを考えれば、それだけでは十分とは言えません。上記の整理のように、考えを整理する部分(概念化)のリソースは確実に制限されるのですから、その制限の中でどのように考えを整理するのかを工夫する必要があるのです。そしてその答えは、「型」の効果的な活用にあります。

 “型” は思考整理を省力化するフレームワーク

●コンサル流の「フレームワーク」と同じ発想

ビジネスパーソンは、複雑な情報を整理し、説得力のある形で提示するために、さまざまなフレームワークを活用しています。「3C分析」や「SWOT分析」といった戦略フレームワークは、その代表例です。これらは、情報を系統的に整理し、抜け漏れを防ぐための"型"と言えます。

たとえば前回の記事でもご紹介した「説明の型」General→Specific)は、プレゼンや説明の場面で非常に役立つシンプルな“型”です。具体的には以下のように進めます。

General(全体像):
「これは生産性向上のためのタスク管理アプリケーションです」

Specific(具体的な特徴):
「自動リマインド機能があり、既存カレンダーと同期できます」
「締切管理の精度が80%上がります」

「360度評価」を例に見てみよう

たとえば、人事評価システムの定番のひとつ「360度評価」を説明する場合を考えてみましょう。日本語で、まず次のように整理します。

General(全体像):
「これは、人事評価システムのひとつで、社員を多角的に評価する仕組みです。」

Specific(具体的特徴):
「上司だけでなく、同僚や部下など複数の視点からフィードバックを得られます」
「一面的な評価に偏らず、公平性の高い評価が期待できます」
「社員自身も自分の強みや改善点を、多面的に理解できます」

このように整理できれば、あとはこれを英語に置き換えるだけです。

General:
“This is one type of HR evaluation system that assesses employees from multiple perspectives.”

Specific:
“Feedback is gathered not only from supervisors but also from peers and subordinates.”
“It avoids one-sided assessments, ensuring a fairer evaluation process.”
“Employees can gain a multi-dimensional understanding of their strengths and areas for improvement.”

なぜこれが効果的なのか。それは、論理の骨格が"あらかじめ用意されている"からです。英語表現の選択や発音への意識により、論理構築のためのリソースは制限されます。その小さくなったリソース(認知資源)の中で考えを整理するための便利な道具として「型」が機能するのです。

 質疑応答こそ“型” が生きる —— 即興で論理を組み立てる場面

事前準備なしは負荷が大きすぎる

プレゼンや商談であれば、ある程度話す内容を事前に用意できます。しかし質疑応答はそうはいきません。相手の質問を理解し、それに対して回答を論理的にまとめ、英語に変換し、正しい発音で伝える。これらを瞬時にこなす必要があります。

英語が母語でない私たちにとって、これは非常に難易度が高い作業です。もし「考えを組み立てる」プロセスを毎回ゼロから始めると、ワーキングメモリーはすぐにオーバーフローを起こしてしまいます。

 “型” が自動化されていれば瞬発力が高まる

しかし、「General→Specific」のような型が頭の中に定着している状態なら、相手の質問を聞いた瞬間に「Generalに当たる主張は何か」「Specificに当たる具体例や根拠は何か」と素早く振り分けることができます。あとは、それを英語に変換して口に出すだけ。

たとえば「新商品のリリース予定はあるのか?」という質問なら、

General:
"Yes, we plan to release a new version of our application next quarter."

Specific:
"It features an AI-driven reminder system"
"Full integration with existing work platforms"

という形でテンポよく回答可能。論理整理の時間がぐんと縮まるので、“論理を組み立てた英語”を即興で出しやすくなるのです。

 DOJOで“型”を定着させ、英語アウトプットを加速させる

このように型を使えば、即興の英語でも論理的な説明が可能になります。しかし、そのためには型を完全に「自分のもの」にする必要があります。その実践の場として、このたび「時吉秀弥のビジネス英語DOJO」をリリースしました。

一般的な英語研修との違い

多くの英語研修や英会話レッスンでは、文法や発音、そして「便利なフレーズ」といった言語面に比重が置かれがちです。もちろんそれらは重要な要素ですが、ビジネスの現場で求められるのは、それだけではありません。相手を納得させるための論理的な説明力、そしてそれを即興で「組み立てる」能力が必要なのです。

そこでこのプログラムでは、説得のための「型」の定着を最重要課題として位置づけました。海外拠点の講師による添削指導、実際のビジネスシーンを想定した動画教材を通じて、論理フレームの組み立てを実践的に体得していきます。

10か月の集中トレーニングで即興アウトプットに対応できるように

ビジネス英語DOJOのプログラムは10か月。この10か月で、説得のためのさまざまな型」を学び、それを利用して、英語で「考えを組み立てられるようにする」ことを目指します。「何から話せばいいのか」を考える負荷が減ることで、突発的な質問が来ても落ち着いて対応できるようになるはずです。

従来の「暗記学習」とは異なるアプローチで、ビジネス英語を一気に伸ばすことを目的としています。

 “型” があなたの英語に説得力を与える —— いまこそ始めよう

英語で論理的に話せない原因は、決して「あなたが英語に向いていないから」ではありません。母語とは違うプロセスが脳を圧迫して、思考の構築に回せるリソースが不足してしまうのが最大の理由です。

だからこそ、「考えを組み立てる」部分を型(フレームワーク)の自動化で省力化し、英語に振り向けるリソースを増やす必要があります。これができれば、質疑応答や商談など即興性が求められる場面でも、無理なく論理的に話せるのです。

「時吉秀弥のビジネス英語DOJO」では、文法や発音の習得に加え、本当に役立つ“型”の演習を通じて「英語で説得する力」を育てます。「英語は苦手だし……」と敬遠してきた方にこそ、“型”という新しい武器を手にしてほしいと思います。

englishcompany.jp

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*海外拠点の状況で新規お申し込みを制限させていただくことがあります。

【プロフィール】
時吉秀弥

英語教育者・研究者。神戸市外国語大学卒、米チューレン大学留学。予備校講師として20年以上の指導経験を持つ。日本の認知言語学界の第一人者である西村義樹東京大学教授の下で長年研究し、東京言語研究所にて2010年に理論言語学賞を受賞。現在は(株)スタディーハッカーのシニアリサーチャー兼YouTubeチャンネル「時吉秀弥のイングリッシュカンパニーch」出演。著書に『英文法の鬼100則』『英語脳スイッチ!』(ちくま新書)他多数。自称「英語職人」。

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    「STUDY SMART」をコンセプトに、学びをもっと合理的でクールなものにできるよう活動する教育ベンチャー。当サイトをはじめ、英語のパーソナルトレーニング「ENGLISH COMPANY」や、英語の自習型コーチングサービス「STRAIL」を運営。
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