英語学習において、多くの人が苦手意識を持つ「文法」。単なる暗記ではなく、ネイティブが持つ言語感覚から理解する「認知文法」というアプローチが注目されています。「認知文法で文法暗記から卒業できる!?ネイティブの「気持ち」から考える英文法」というテーマで、「時吉秀弥のイングリッシュカンパニーch」にて公開された動画の内容をまとめました。
この動画では、スタディハッカー シニアリサーチャーの時吉秀弥氏とスタディーハッカー社が運営する英語コーチング「STRAIL」の英語コンサルタント高橋秀和氏が、英語と日本語の根本的な違いや、文法を身体感覚で理解する方法について語り合っています。認知文法の魅力と具体的な活用法をご紹介します。
- 「ルールだから覚えなさい」からの卒業
- 日本語と英語の「視点」の違い
- 身体感覚で理解する文型
- ネイティブの直感を養う
- 日本語と英語の時間感覚の違い
- 認知文法で現在完了形を理解する
- 認知文法の可能性
- 動画を見る
「ルールだから覚えなさい」からの卒業
時吉: 英語を勉強していて一番困るのは、覚えなければならないことが多いということですよね。特に文法は「ルールだから覚えなさい」と言われても、なぜそうなるのかわからないまま暗記するのは苦痛です。
高橋: そうですね。文法というと暗記しなければならない、ルールだから覚えなければならないという固定観念があります。でも認知文法を使うと、ネイティブの持っている感覚から理解できるので、「あ、そういう意味だったんだ!」と納得できるんです。これが受講生の方々にとって大きな助けになっています。
時吉: 認知言語学が一番言いたいことは、単語や熟語に意味があるように、文法にも意味があるということです。「dog」を覚えるときに「ドッグ」という音だけ覚えて「犬」という意味を覚えないことはないでしょう。同じように、文法にもちゃんと意味や意図があるんです。ただのルールではなく、その文法は何を表そうとしているのか、どういう映像(意味)を表そうとしているのかを理解することが大切なんです。
日本語と英語の「視点」の違い
時吉: 日本語と英語で物の見方の違いを説明するとき、いつも例に出すのが「ここはどこ?」と「Where am I?」の違いです。
高橋: なるほど、それはわかりやすいですね。
時吉: 日本語では自分がカメラになって外を見るように場所を映しているので「ここはどこ?」と言いますが、英語では外から地図上をうろうろしている自分を眺めて「私は今この地図上のどこにいるんだろう」という感じで外から自分を眺めるんです。
この視点の違いはほかの表現にも表れます。たとえば「友達をつくる」というとき、日本人は「make a friend with 〜」と言いがちですが、実際の英語では「make friends with〜」が自然です。日本語では自分がカメラになって目の前に友達になる相手が1人いるので「make a friend」と考えますが、英語では外から自分を眺めるので、自分ともう1人の相手がいて、2人を外から眺めて「make friends」となるんです。
高橋: その説明は受講生の方にもすごく響くようです。文法のルールをただ覚えるのではなく、「なぜそうなるのか」という理由がわかると理解が深まりますね。
日本語と英語の視点の違い
日本語の視点
「自分がカメラ」になって外の世界を見る
例:「ここはどこ?」
英語の視点
「もう1人の自分」が外から自分を眺めている
例:「Where am I?」(私はどこにいる?)
身体感覚で理解する文型
時吉: 学校で習う文型(第1文型SV、第2文型SVC、第3文型SVO)も、形だけ覚えても使えるようにはなりません。第1文型は自動詞、第3文型は他動詞と言われても、そこから先に進めない人が多いんです。
高橋: そうですね。自動詞と他動詞の区別が難しい方も多いです。
時吉: そこで身体感覚を使って説明すると理解しやすくなります。「風呂が湧く」と「風呂を沸かす」ではどちらが自分で勝手にそうなっている感じがして、どちらが他者に働きかけている感じがするでしょうか?
高橋: 「風呂が湧く」は勝手にそうなる感じで、「風呂を沸かす」は自分から働きかけている感じがしますね。
時吉: そうです! 自分が自分で勝手に動作をする「風呂が湧く」のようなものを自動詞と言い、この自動詞の文型が第1文型です。「I stand」(私は立っています)、「I sleep」(私は寝ます)、「I walk」(私は歩きます)など、自分が自分でする動きです。
他方、「風呂を沸かす」のように自分が他者に対して力を働きかけるのが他動詞で、第3文型はこの他動詞の文型です。「I open the door」(私はドアを開けます)、「I close the gate」(私は門を閉めます)など、他者に力をぶつけていくんです。だから力をぶつける相手である目的語が必要になり、SVOの「O」が必要になるんです。
高橋: その身体感覚的な説明は、特に文法が苦手な方に響きますね。従来の「目的語があるから第3文型」という判別法ではなく、なぜ目的語が必要なのか、その理由から理解できるのは大きな違いです。
文型の身体感覚的理解
第1文型(SV)- 自動詞
身体感覚:「自分が自分で勝手に」行なう動作
日本語例:「風呂が湧く」
英語例:I stand. / I sleep. / I walk.
第3文型(SVO)- 他動詞
身体感覚:「自分が他者に力を」働きかける動作
日本語例:「風呂を沸かす」
英語例:I open the door. / I close the gate.
ポイント:力をぶつける対象(目的語)が必要になるため、SVOの「O」が必要
ネイティブの直感を養う
時吉: 中学や高校では「動詞の後ろを見て目的語がなければ第1文型、名詞があれば第3文型」と教わりましたが、これは単なる判別方法です。逆に考えると、「自分が寝ている」という行為は自分だけで完結するので働きかける相手はいません。だから目的語は不要なんです。もし目的語があったら不自然です。
高橋: そうですね。自動詞の文に目的語をつけようとすると違和感があり、他動詞の文から目的語を取り除くと違和感があるという感覚を身につけることが重要だと思います。文型の判別ではなく、こうした言語の自然な感覚を養うことが大切ですね。
時吉: ネイティブが持つ「これは自然だけどこれは不自然だ」という直感を養うことが、言語習得の本質なんです。形式から入るのではなく、意味と感覚から理解することで、自然な英語が身につくというわけです。
日本語と英語の時間感覚の違い
時吉: 時間の表現も日本語と英語では大きく異なります。たとえば「桜が咲いた」と言ったとき、それはいまも咲いているという意味ですか?
高橋: はい、いまも咲いていると普通は解釈します。
時吉: そうですね。「冷蔵庫が壊れちゃった」と言ったら、いまも壊れていますよね。これが完了なんです。つまり、いまそうなったあとの状態を抱えているということです。しかし「2年前、冷蔵庫が壊れたときは...」と言ったら、その冷蔵庫は今壊れているとは限りません。
日本語では同じ「〜した」という表現が、文脈によって現在完了にも過去にもなるんです。日本語は現在完了も過去も同じ形で表せるため、区別があいまいなんです。
高橋: だから逆に言えば、現在完了と過去形を区別しなければいけない英語に日本人学習者は戸惑うんですね?
時吉: そうなんです。西洋の言語と東洋の言語の大きな違いのひとつは時間の見方にあります。西洋の言語は現在・過去・未来という時間区分を重視しますが、東洋の言語は変化が起きたかどうかということに注目するんです。
日本語の「〜した」は本来、過去ではなく完了(変化したあとの状態)を表す表現としてはじまり、のちに過去も表すようになったと言われています。中国語を習い始めた学習者が「過去形」だと誤解することの多い中国語の「了(le)」も過去ではなく「状態の変化」を表します。この見方の違いがあるため、私たちが英語を勉強した時に現在完了形と過去形の区別がわかりにくく感じるんです。
日本語と英語の時間感覚の違い
東洋の言語(日本語など)
「変化が起きたかどうか」に注目
「〜した」はもともと完了(変化後の状態)を表す表現
西洋の言語(英語など)
「現在・過去・未来」という時間区分を重視
過去と現在完了を明確に区別する
日本語の特徴:同じ「〜した」が文脈によって現在完了にも過去にもなる
・「冷蔵庫が壊れちゃった」→今も壊れている(現在完了)
・「2年前、冷蔵庫が壊れたときは…」→今は壊れていないかも(過去)
認知文法で現在完了形を理解する
高橋: 現在完了形を教えるとき、従来の方法では完了・経験・結果・継続の4つの用法を区別して教えますよね。でも認知文法ではどう教えるのですか?
時吉: 認知文法では、現在完了形の根本的な意味は「こうなっちゃった状態をいま抱えている」ということです。細かい用法の区別にこだわるより、この基本的な意味を掴むことが重要です。そこがわかってから各用法を覚えていくべきです。
歴史の年号を無感情に暗記するのと、歴史を人間ドラマとして理解するのとでは面白さが全く違いますよね。同じように、文法も単なるルールとしてではなく、意味と結びつけて理解することで、英語学習がずっと楽しくなるんです。
高橋: たしかに、受講生の方々も納得感を得られると、学習のモチベーションが上がりますね。特に短期間で成果を出したい社会人の方にとっては、効率的な学習方法として認知文法は非常に役立っています。
認知文法の可能性
時吉: 認知言語学の究極のゴールは、言葉を通して人間が何を考えているのか、どういう風に世界を見ているのかを解き明かすことです。言語を通して「人間とは何か」を考えていくんです。
高橋: 英語学習という実用的な目的だけでなく、そうした深い理解につながる点も認知文法の魅力ですね。
時吉: そうですね。私が新刊「英語秒速アウトプットトレーニング」で目指したのもそこです。便利な英語のフレーズを文法項目別に分け、自動詞や他動詞、文型、助動詞や時制など、さまざまな英文法の感覚を理解しやすい説明とイラストで伝えています。単なる暗記ではなく、理解に基づいた学習を提供したいんです。
高橋: 仕事で急に英語が必要になった方々にとって、短期間で習得するには単なる暗記ではなく、こうした深い理解が必要ですね。
時吉: まさにその通りです。英語は「なぜそうなるのか」という理由を理解することで、ずっと身につきやすくなります。認知文法はそのための強力なアプローチなんです。
スタディハッカー シニアリサーチャー・時吉秀弥氏の新刊「英語秒速アウトプットトレーニング」(Gakken)は3月3日発売。認知文法の考え方を取り入れた英語フレーズ集で、Amazon「ほしいものランキング」では英語の各部門で1位を独占中。ENGLISH COMPANYでは、この認知文法の考え方を取り入れた効果的な英語学習を提供しています。
動画を見る
この記事で紹介した内容は、以下の動画でより詳しく解説されています。時吉秀弥氏と高橋秀和氏による対談を通して、認知文法の考え方を学んでみましょう。
より多くの英語学習のヒントを得たい方は、時吉秀弥のイングリッシュカンパニーchをチェックしてみてください。
STUDY HACKER 編集部
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