英語学習において多くの人が抱える永遠の疑問、「いつになったら英語ができるようになるのか」。じつは「英語ができる」という状態は人それぞれで、自分に合ったゴールを明確にすることこそが上達の鍵です。英語教育のスペシャリストである時吉秀弥氏と高橋秀和氏の対談から、「英語ができる」の本質と効果的な学習法を解説します。この記事を読めば、あなた自身の「英語ができる」の定義が明確になり、最短ルートで英語力を高める方法が見えてくるでしょう。
- 「英語ができる」という曖昧な定義
- 具体的なゴール設定の重要性
- 「日常会話」の罠
- 限定された場面での「ペラペラ」体験
- 英語学習の「骨格と筋肉」
- 4技能を「ぐるぐる回す」学習法
- 極端な偏りを避けるバランス学習
- 英語力の社会的意義
- 自己理解としての英語学習
- まとめ:あなたにとっての「英語ができる」を定義しよう
- 動画を見る
「英語ができる」という曖昧な定義
高橋: 英語を教えていて、よく「先生はどうやって英語ができるようになったんですか?」という質問を受けます。この質問は実は恐ろしいんです。なぜなら「英語ができる」という定義自体が曖昧だからです。
時吉:何をもって英語ができたことになるのか、そこが問題なんですよね。
高橋: 私にとっての「英語ができる」と、あなたにとっての「英語ができる」は本当に人それぞれ違いますよね。たとえば、TOEIC何点だとか、英検何級だとか、そういったジェネラルな目安はありますが、それだけでは不十分です。
時吉: そうですね。たとえば私たちが普段使う日本語と、新聞記者が使う日本語は違います。考えてみれば、居酒屋で友達と話すときの日本語と、ビジネス文書を書くときの日本語も違いますよね。同様に、私が必要とする英語と、航空宇宙パイロットが必要とする英語も全く異なるのです。
正直言って、いつまでたっても英語が「できた」という気はしないんです。英語教師である我々でさえそう感じるのですから、皆さんも完璧を目指すよりも、自分に必要な英語のゴールをしっかり定めることが大切なのです。
具体的なゴール設定の重要性
時吉: ゴールを限定すればするほど上達は早いです。これは断言できます。たとえば「旅行で英語を使いたい」という場合、ホテルのチェックインやレストランでの注文、交通機関の利用など、その場面に必要なやり取りができれば、その人にとっては「英語ができる」状態になっています。
高橋: 生徒さんと接するときも、まず「どういう場面で英語を使うのか」を聞くようにしています。会議で聞くだけなのか、発言しなければならないのか、電話会議に参加するのかなど。目的が明確になると、必要な学習内容も自然と絞られてきます。
たとえば英語でのメールのやり取りだけが必要な方もいれば、「メールは翻訳ツールでやるから、スピーキングだけ鍛えたい」という方もいます。
時吉:それぞれの仕事や目的によって、必要な英語力は大きく異なるんです。
効果的なゴール設定の例
具体的な場面を設定
「海外旅行で困らない」「ビジネス会議で発言できる」「外国人の同僚と仕事の愚痴が話せる」など
必要なスキルを特定
「会議の内容を理解できる」「メールの返信ができる」「電話での応対ができる」など
「日常会話」の罠
時吉: 生徒さんからよく「日常会話ができるようになりたいです」という要望を聞きます。この「日常会話」という言葉が実は非常に曖昧で危険なんです。
高橋: その通りですね。「日常会話レベルができればいいです」って言われますよね。「そんな難しい英語は必要ないんです。日常会話ができたらいいんです」という発言が怖いです。
時吉: 「日常会話」という定義があいまいすぎて、総合格闘技のようにあらゆる技術が必要になってしまうんです。パンチも蹴りも投げ技も寝技もできないといけないような。そんなのカバーしきれません。
「日常会話」と言われたときは、もっと具体的に「海外旅行で困らないようにしたい」のか「外国人の同僚と仕事の愚痴が話したい」のか、具体化していくことが大切です。そうすれば学習計画も立てやすくなります。
「日常会話」を具体化する
曖昧な目標の問題点
「日常会話ができるようになりたい」という目標は範囲が広すぎて、効率的な学習が難しくなる
目標の具体化
「海外旅行で困らない」「外国人の同僚と仕事の愚痴が話せる」など、具体的な状況を想定することが大切
限定された場面での「ペラペラ」体験
時吉: 自慢話っぽくて恐縮ですが、私は4カ国語話すことができます。日本語、英語、中国語、ポルトガル語です。たとえばブラジルに2〜3ヶ月滞在したときの経験ですが、基本的な自己紹介や簡単な質問への返答のフレーズだけをマスターしただけで、現地の人には「ポルトガル語がペラペラ」と思われました。
実際にはいつも会話で話すことって同じだったんです。「あなたは何人ですか?」「日本人です」「ブラジルの日系人ではないの?」「いいえ、日本から来ました」「何しに来たの?」「友達に会いに来ました」というように。同じフレーズを毎回使うから身についてスムーズに出てくる。すると「ペラペラだ」と思われるんです。
高橋: 私もホテルで働いていたとき、同じような経験がありました。ある同僚の英語力自体はそれほど高くなかったのですが、ゲストへの案内で必要なフレーズを笑顔で流暢に使っていたので、「あの人は英語ができる」と他部署の人に思われていたんです。要するに、限られた状況で必要なフレーズを完璧にこなせていたということですね。
英語学習の「骨格と筋肉」
時吉: 英語学習において重要な概念として「骨格と筋肉」があります。これは何かというと、英語の骨格と筋肉に当たるのは「読む力」と「聞く力」なんです。
たとえば日本語ネイティブである私たちでも、映画を観て内容は完璧に理解できても、映画のような素敵なセリフを自分で話せるわけではありませんよね。小説を読んで内容はわかっても、小説のような美しい文章が書けるわけではない。理解できても発信できることには限りがあるんです。
高橋: なるほど、インプットとアウトプットの関係ですね。
時吉: そうです。日本語ネイティブスピーカーでも、母語である日本語を聞く・読む力が7割だとすると、実際に話せる・書ける力は3割くらいしかないと思います。英語学習も同じなんです。だからインプットの量と質を高めることが、アウトプットの向上にもつながるんです。
4技能を「ぐるぐる回す」学習法
時吉: 効果的な英語学習のために4技能(読む・聞く・書く・話す)をぐるぐる回していくことが大切です。最初は簡単なフレーズを覚え、それができるようになったら少し長い文を読む。そこから便利なフレーズを拾って会話で使い、さらに複雑な文を読んでいく。自分の語学力を次のレベルに持っていくために、リーディングを中心としたインプットは欠かせません。4技能をスパイラルのように上へ上へと回し、発展しながら高めていくのが理想です。
問題は、学校教育ではリーディングばかりに偏りがちだということ。どれかに偏って勉強を続けていくと、バランスが崩れてしまいます。日本の英語教育で良くないのは、バランスの崩れた状態のままずっと突っ走ってしまうことです。
高橋: けれどもバランスを保つとなると、結構やることが多いですね。時間配分が難しそうです。
時吉: たしかに難しいところです。4技能を満遍なくやろうとしたら、それぞれのゴールは少し低く設定する必要があります。たとえば大学受験のためにリーディングだけに集中すれば、かなり高度な英文も読めるようになります。でも、ほかの技能も伸ばそうとすれば、リーディングのレベルは相対的に下がります。何をゴールに設定するかによって、どの技能にどれだけ時間を割くかも変わってくるんです。
4技能のスパイラル学習法
循環的な学習
4技能(読む・聞く・書く・話す)をぐるぐる回しながら、スパイラル状に上へ発展させる
バランスの重要性
学校教育ではリーディングに偏りがちだが、4技能をバランスよく学ぶことが効果的
極端な偏りを避けるバランス学習
時吉: 学習において、極端な振り方は避けるべきです。「スピーキングが大事だから」とリーディングや文法をおろそかにしたり、逆に文法だけを深く掘り下げすぎたりするのはよくありません。勉強の時間は限られているからこそ、バランスよくぐるぐる回していくことが重要なのです。
高橋: スピーキングだけでもダメ、コミュニケーションだけでもダメということですね。
時吉: そうです。コミュニケーションをしながらも、そこに隠されている構造にも目を向け、文法も理解する。リーディングで複雑な文を読んでいくことと並行して、それを書いたり話したりする力に結びつけていく。これがバランスのとれた学習方法です。
パターンプラクティスについても触れておきましょう。最初は単純な文からスタートし、少しずつ複雑にしていきます。たとえば「I like this.」→「I like this, but he doesn’t like this.」→「I like this, but I don’t think he likes this.」というように段階的に進めていくんです。そして、それぞれのレベルに合った文章をたくさん読んで、理解を深めていきます。
英語力の社会的意義
時吉: これからの日本を考えると、単に英語ができるだけでなく、自身が信じるビジネスの価値を英語を使って海外に伝える力が必要です。日本の人口は減少していますから、海外にマーケットを広げていく必要があります。
たとえば北海道のニセコは海外のツアー客で潤っていますが、その価値を発見し開発したのは海外の投資家たちでした。しかし、海外の投資家は短期的な利益を重視するため、地元の持続可能な発展には繋がらないことも多いんです。
本当に必要なのは、地元の人が地元の価値を発見し、それを英語を使って海外に伝える力。「説得の英語」が大切になってきます。説得とは相手を責め伏せることではなく、「私たちの価値はこうです、それをあなたが受け取れば、こんないいことがありますよ」と伝えるための論理構築なのです。
自己理解としての英語学習
時吉: 英語というのは実は自分の外にある技能ではなく、自分の中身がそのまま出てくるものなんです。だから自分の中にある思考を明確化し、自分が何を伝えたいのかをちゃんと見つめることが大切です。
高橋: 言葉を学ぶことは、自分を見つめ直すことにもつながるということですね。
時吉: まさにその通りです。結論として、ジェネラルな英語能力はもちろん大切ですが、自分が何を伝えたいのかをしっかり見つめ、目的を限定することで上達も早くなります。
まとめ:あなたにとっての「英語ができる」を定義しよう
時吉氏と高橋氏の対談から見えてきたのは、「英語ができる」という状態は一人ひとり異なるということ。重要なのは次の3つのポイントです。
「英語ができる」を定義する3つの重要ポイント
具体的な目標設定
「日常会話」のような曖昧な目標ではなく、具体的な場面や状況を想定する
バランスのとれた学習
4技能をスパイラル状に循環させながら学習を深める
自己理解を深める
英語を通じて自分が何を伝えたいのかを見つめ直す
時吉氏は「ゴールを限定すればするほど上達は早い」と言います。自分が必要とする英語の範囲を明確にし、そこに集中することで効率的に上達できるのです。英語学習は単に言語を習得するだけでなく、自分自身の目標や価値観を明確にしていく旅でもあります。まずは自分にとっての「英語ができる」を定義することから始めてみましょう。
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この記事で紹介した内容は、以下の動画でより詳しく解説されています。時吉秀弥氏と高橋秀和氏による対談を通して、「英語ができる」とは何かについてさらに学んでみましょう。
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