「十分」と「充分」に違いはある? 意味&使い分けを徹底解説!

「十分」と「充分」に違いはある?

「じゅうぶん」という言葉には、十分・充分と書き方がふたつありますよね。「どっちで書けばいいんだろう?」と、つい迷ってしまうものです。

この記事では、十分と充分の意味&使い分けを徹底的に解説していきます。最後まで読めば、自信をもって十分&充分を使いこなせますよ。

「十分」と「充分」の意味

まずは、十分と充分の意味を辞書で確認しましょう。結論から言うと、十分&充分に意味の違いはありません。辞書では完全な同義語として扱われています。

「十分」の意味

『広辞苑 第6版』(岩波書店)だと、十分は「物事が満ち足りて、不足・欠点のないさま」と定義されています。掲載されている例文は以下のとおりです。

  • 十分な供給
  • それだけあれば十分だ
  • 十分間に合っている など

別の辞書も見てみましょう。『精選版 日本国語大辞典』(小学館)では、「気持や気分が満ちたりて何ひとつ不足のないこと。物事が充実し、完全であること」。『広辞苑』とは表現が多少違うものの、ほぼ同じですね。

「充分」の意味

次に「充分」を見ていきましょう。

『広辞苑』で「充分」を引くと、「十分に同じ」としか書かれていません。つまり、十分と充分は完全な同義語として扱われているのです。『日本国語大辞典』でも同じで、十分と充分は区別されていません。

「十分」と「充分」の意味は同じ。

つまり、十分&充分は漢字が異なるだけで、意味の違いはまったくありません。「十分と充分のどちらを使うべきなんだろう?」と神経質になる必要はないのです。

「十分」と「充分」の使い分け

十分と充分は同じ意味だとわかりましたね。すると、十分・充分を使い分ける必要はないということなのでしょうか? 十分・充分の使い分けについて考えてみたいと思います。

原則的に「十分」

「十分」と「充分」のどちらを使っても問題ありません。ただ、多くの辞書では「十分」が先に記載されており、「充分」は「十分」の別表記として扱われているため、「十分」とするのが無難です。

ちなみに、Googleで十分と充分をそれぞれ検索してみたところ、ヒット件数は以下のとおりでした。

十分:約10億1,000万件
充分:約3億9,600万件

十分のヒット件数は、充分の倍以上なのです。この事実からも、十分のほうが一般的だと考えられます。「どうしても充分にしたい」という特別な理由やこだわりがないかぎり、「十分」と書くのがおすすめです。

場合によって「充分」

基本的に「十分」と書くのがおすすめですが、以下のような場合なら「充分」が適しているかもしれません。

「10分」との混同を避ける

十分(じゅうぶん)と書いた場合、十分(じゅっぷん)と間違われてしまう恐れがあります。

十分時間がある。

この文だけでは、「時間はじゅうぶんにある」なのか「10分の時間がある」なのか判断できません。しかし、「充分時間がある」と書けば間違われないでしょう。

「十分に時間がある」と書いてもOKですが、時間に関する話題である以上、読み間違いの可能性はなくなりません。あなたも、「あれ、じゅうぶん? 10分?」と迷った経験があるのではないでしょうか。

「じゅっぷん」と読んでほしくないときは、「充分」と書くほうが親切ですね。

「充実」のニュアンスを強める

「充実した」「満たされた」というニュアンスを押し出したい場合も、「充分」表記が効果的です。以下の文を見比べてみてください。

  1. 十分に楽しんだ。
  2. 充分に楽しんだ。

充分には充実の「充」が含まれているぶん、満足感が伝わりやすいですね。同じく、

  • 充分に準備を重ねた。
  • 充分な予算を用意した。
  • 体調が充分に回復した。

のように、ポジティブさを強調したいなら「充分」のほうが適しています。ただし、あくまで印象の違いなので「十分」でもまったく問題ありません。

使い分けをめぐる俗説

一部のメディアやWebサイトは、十分と充分の違いを次のように説明しています。

  • 十分:客観的・物質的な満足感
  • 充分:主観的・精神的な満足感

あなたも見たことがあるかもしれませんね。しかし、これはあくまで俗説で、明確な根拠はありません

この記事で見たように、『広辞苑』など主な辞書は十分と充分を同義語としています。物質的な満足感を「充分」で、精神的な満足感を「十分」で表現してもOKなのです。

もちろん、「こういうときは十分より充分を使いたい!」とこだわってもいいのですが、その違いが相手に伝わるとは限らない、ということは覚えておいてください。

あえて「充分」を使うのは、10分と間違えてほしくないときと、満足感を強調したいとき。

「十分」と「充分」のどっちを使えばいい?

「十分」と「充分」はまったく同じ意味です。「十分」のほうが多く使われているので、迷ったら「十分」がおすすめ。「十分」を「じゅっぷん」と読まれたくない場合は「充分」と書きましょう。

Q.「十分」と「充分」のどちらを使うべき? A.同じ意味なので、どちらでもよい。「十分」のほうが一般的なので、迷ったら「十分」にする。

「お気持ちだけでじゅうぶん」の漢字は?

「お気持ちだけでじゅうぶんです」を漢字で書くときも、「十分」と「充分」のどちらでもかまいません。「十分」だとそっけないような気がするなら「充分」にするといいでしょう。

十分・充分の類義語・丁寧語

十分&充分の意味と使い分け方がわかりましたね。最後に、十分・充分の言い換え表現をご紹介します。仕事でメールを書いたり文書を作成したりするときに使ってみてください。

申し分ない

成果や実績が十分である」ことを表現したいなら「申し分ない」という言葉が使えます。「この予算があれば十分です」を「この予算で申し分ございません」と言い換えると、より丁寧な印象を与えられますね。

ほかには、「遺憾なく」「余すところなく」も同じように使えます。

◆文例

  • この予算があれば十分です。
    →この予算で申し分ございません
  • 今回のプロジェクトでは、十分な結果を出すことができました。
    →今回のプロジェクトでは、遺憾なき結果を出すことができました。
  • 緊張しましたが、十分に力を発揮できました。
    →緊張しましたが、余すところなく力を発揮できました。

手抜かりない

準備や段取りが十分である」というときなら「手抜かりない」が使えます。「十分に準備を重ねました」を「手抜かりなく準備を重ねました」と言い換えれば、完璧さを強調できますね。

ほかには「遺漏(いろう)なく」なども同様に使える表現です。

◆文例

  • この3ヵ月にわたり、十分に準備を重ねて参りました。
    →この3ヵ月にわたり、手抜かりなく準備を重ねて参りました。
  • 十分に調査をしたのち、後日ご連絡させていただきます。
    遺漏なく調査をしたのち、後日ご連絡させていただきます。

十二分

「十分」を特に強調したいなら「十二分」が便利です。十二分は、『日本国語大辞典』で「程度を超えて多いこと。十分すぎるほどたっぷりであること。非常に満足すること」と定義されています。

十分よりさらに程度の大きいのが「十二分」なのです。「十二分に対策した」と言えば、「十分に対策した」よりもさらに緻密な印象を伝えられます。

◆文例

  • 再発を防ぐため、十分に予防対策をいたしました。
    →再発を防ぐため、十二分に予防対策をいたしました。

「十分と充分のどっちを使おうかな?」と迷ったら、ご紹介したように、いっそ別の表現を選んでみてはいかがでしょうか。

***
十分&充分について理解を深められたでしょうか。覚えておいてほしいポイントは、次のふたつです。

  1. 十分と充分の意味は、辞書的に同じである
  2. 「十分」と書くのが無難である

次に「じゅうぶん」という言葉に出会ったら、この記事の内容を思い出してみてください。

(参考)
コトバンク|十分
文化庁|語形の「ゆれ」の問題
コトバンク|申分
コトバンク|遺憾なく
コトバンク|余すところなく
コトバンク|手抜かり
コトバンク|遺漏
コトバンク|十二分

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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