営業利益193%増・累積損失一掃——エスコンフィールドが「野球場」の概念を破壊した方法【新人さんのためのマーケティング講座 Season8 vol.13】

エスコンフィールドFビレッジの体験型ビジネスモデル:勝敗に依存しない野球場革新

📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season8

Season7では「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を20社の事例で深掘りしました。
Season8でも引き続き、現代のマーケティングの本質を事例で解き明かしていきます。

まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
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2026年3月、官報に掲載されたひとつの決算公告が話題を呼びました。株式会社ファイターズ スポーツ&エンターテイメント(FSE)の2025年12月期決算——売上高277億円・営業利益70億8,000万円(前期比193%増)・累積損失の完全一掃。*1

プロ野球球団の運営会社が、チームの成績に関係なく、これほどの利益を生み出す——日本のスポーツビジネスの常識を根本から書き換えた「北海道ボールパークFビレッジ」の構造を解剖します。

「勝敗」というコントロールできない変数に頼らない——年間459万人を集める体験型不動産ビジネス

従来のプロ野球ビジネスの弱点は、収益が「チームの勝敗」という自分たちではコントロールできない変数に依存していることでした。チームが強ければ客が入り、弱ければガラガラになる——これではビジネスとして設計できません。

日ハムが2023年3月に北広島市で開業したエスコンフィールドHOKKAIDOは、この構造を根本から変えました。*2

2025年の年間来場者数は459万1,357人(前年比10%増)。*2 その内訳を見ると、試合以外のイベントでの来場者が235万8,993人——試合来場者の223万2,364人を上回っています。「野球を見に来た人」より「野球以外の目的で来た人」が多いという逆転現象です。

これを実現した鍵は「球場を野球を見る場所と定義しなかった」ことです。*3 世界初のフィールドが一望できるクラフトビール醸造レストラン・球場内温泉(サウナ付き)・グランピング施設・ドッグラン——「野球にはそこまで興味がないけれど、あの最高の空間でサウナに入りビールを飲みたい」というライト層が年間を通じて通い続ける仕組みが設計されています。平均滞在時間は4時間52分と、試合時間の3時間12分を1時間以上上回っています。*2

項目 従来の球団(依存型) 日本ハム・Fビレッジ(自立型)
収益の主軸 チケット代・親会社からの広告宣伝費 飲食・グッズの完全直販・周辺の不動産開発利益
非試合日の稼働 完全にゼロ(シャッター街化) サウナ・ホテル・商業施設として365日稼働
ビジネスのKPI チームの「勝率」・観客動員数 Fビレッジ全体の「年間総来場者数」とLTV
2026年の価値 親会社の「お荷物」になりがち 営業利益70億円を稼ぐ地域の経済インフラ

100%内製化による飲食・グッズ・不動産収益:FSEのエリアデベロッパー戦略

FSEという法人が握る「100%内製化」——飲食から不動産まで、中抜きなしで利益を独占する

Fビレッジの収益構造のもうひとつの核心は「自前で運営権・全財産を握る」ことです。

従来の球団は「借りた球場」で試合をします。その場合、球場内の飲食・グッズ・広告収入の多くが球場運営会社に流れ、球団の取り分は限定的です。日ハムは自前で球場を建設し、FSEという法人が全施設の運営権を握ることで、グッズ・飲食・広告・駐車場の売上を中抜きなしで100%自社の利益にする構造を作りました。*3

さらに視野は球場の外にも広がります。総敷地面積32ヘクタールのうち球場が占めるのは約5ヘクタール。残りの27ヘクタールに周辺マンション・ホテル・シニア向け住宅が誘致・建設されることで、「球場があることで土地の価値が上がる」というエリアデベロッパーとしての利益も内製化します。*3

2028年にはJR北広島駅に隣接した新駅が開業予定で、年間700万人の来場を目標に掲げています。*2 球場を核とした「街」が育つほど、FSEが握る不動産・商業の価値も上がっていく——この複利の構造こそが、累積損失を一掃した後の本当の「勝ち筋」です。

コントロール変数の事業設計:エコシステムと複利の力

「コントロールできない変数」に依存するビジネスを疑え——エコシステムが生む複利の力

Fビレッジの事例から学べる最も重要な問いは、「自分のビジネスの成果は、コントロールできる変数に依存しているか」というものです。

天候・景気・競合の動向・他人の勝敗——これらに業績が左右されることを「仕方がない」と受け入れていないでしょうか。日ハムが証明したのは、「コントロールできない変数(チームの勝敗)」に依存するビジネス構造そのものを再設計できる、ということです。

サービスのスペックではなく、それを包み込む「空間(インフラ)の体験価値」をデザインできれば、どんな逆境下でも顧客が自ら通い詰めるコミュニティを作れます。試合に勝っても負けても459万人が来る場所——それは「野球場」ではなく「街」です。

2026年のマーケティングは、目の前の商品を売ることではありません。その周りに「人が集まり、住みたくなる生態系(エコシステム)」を丸ごとハックすること——Fビレッジの営業利益70億8,000万円という数字が、その証明です。

エスコンフィールドの完璧なビジネスモデル:年間700万人来場のエコシステム

 

【本記事のまとめ】

1. 「勝敗」に依存しない設計——試合以外来場者が試合来場者を上回る逆転現象
2025年の年間来場者459万人のうち試合以外が235万人と試合来場者を上回る。世界初の球場内サウナ・クラフトビール醸造所・グランピングなどが「野球に興味がないライト層」を年間を通じて集客する。平均滞在時間4時間52分が示す通り来場者は試合前後を含めた「空間体験」に来ている。

2. FSEが握る飲食・グッズ・不動産の「100%内製化」——中抜きなしの利益独占構造
自前の球場建設によりFSEが全施設の運営権を握り飲食・グッズ・広告・駐車場を100%自社利益化。32ヘクタールの総敷地のうち球場外27ヘクタールに周辺マンション・ホテルを誘致し「球場があることで地価が上がる」エリアデベロッパーとしての利益も内製化した。

3. 「コントロールできない変数」への依存を断ち切れ——エコシステムが生む複利の力
チームの勝敗という外部変数に業績を左右されるビジネス構造を再設計することで営業利益193%増・累積損失一掃を達成。2028年JR新駅開業後の年間700万人目標が示すように球場を核とした「街」が育つほど利益の複利が加速する。

よくある質問(FAQ)

チームが弱いと来場者は減りませんか?

Fビレッジのデータが示す通り、試合以外の来場者が試合来場者を上回っているため、チームの成績への依存度は従来の球場より大幅に低くなっています。ただしチームが強ければ試合来場者が増え収益が上積みされる構造であることも事実です。重要なのはチームが弱い年でも「黒字を維持できる収益の床(底値)を設計している」という点です。2025年のファイターズはリーグ3位でしたが来場者は前年比10%増でした。スポーツ成績とは独立した収益基盤の設計こそがFビレッジの本質的な強みです。

「体験価値をデザインする」という考え方は、他の業種でも応用できますか?

応用できます。飲食店なら「料理を売る場所」ではなく「その空間で過ごす時間を売る場所」として設計する、ジムなら「トレーニング機器を使う場所」ではなく「健康的な仲間と出会うコミュニティ」として定義し直す——これらがすべて「コントロールできない変数(景気・競合)」への依存を減らし「コントロールできる変数(空間・体験・コミュニティ)」への依存を高める戦略です。Fビレッジが「野球」という軸から「暮らしの一部」という軸に移動したように、自社サービスの定義をどこに置くかがビジネスの耐久力を決めます。

北広島市という郊外立地は弱点にならないのですか?

むしろ強みに転換されています。郊外であるため敷地が広く(32ヘクタール)、球場外の施設開発・駐車場収益・周辺マンション建設が可能です。都市中心部の球場では土地代が高く、このような周辺開発は困難です。また2028年にJR北広島駅に隣接した新駅が開業予定であり、交通アクセスの課題は解消される方向です。「郊外×新駅×巨大複合施設」という組み合わせは、むしろ都市部の地価を動かす力さえ持ちつつあります。

(参考)

*1|gamebiz「ファイターズ スポーツ&エンターテイメント、25年12月期決算は営業利益193%増の70億円と大幅増益 累積損失も一掃」(2026年3月16日)。2025年12月期(第7期)売上高277億3,300万円・営業利益70億8,000万円(前期比193.0%増)・経常利益69億1,800万円・当期純利益49億2,300万円・累積損失の一掃を確認
*2|ファイターズ スポーツ&エンターテイメント公式「HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGE ANNUAL REPORT 2025」(2026年1月27日)。2025年年間来場者数459万1,357人(前年比10%増)・試合来場者223万2,364人・試合以外イベント来場者235万8,993人・平均滞在時間4時間52分(試合時間3時間12分超)・3年連続非試合日来場者過去最多・2028年JR新駅開業後年間700万人目標・累積来場者1,000万人突破(2025年7月13日)を確認
*3|たびよみ(読売旅行)「北海道の新たなシンボル!『エスコンフィールド』&『Fビレッジ』の見どころガイド」。総敷地面積約32ヘクタール(うち球場約5ヘクタール)・収容人数3万5,000人・日本初の開閉式屋根付き天然芝球場・世界初の球場内温泉(サウナ付き)・世界初のフィールドが一望できるクラフトビール醸造レストラン・グランピング施設・ドッグランなど多彩な施設の併設・FSE(ファイターズ スポーツ&エンターテイメント)が全施設運営権を握る構造・周辺エリア開発(ホテル・マンション等)によるエリアデベロッパーとしての戦略を確認

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【プロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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