失敗は「チーズの穴」で説明できる。塞ぎやすい穴を見つけて、失敗しない人になる方法

穴の空いたチーズ失敗したら反省が大切。そんなことは、誰でも知っています。でも、そもそも「反省する」とは、具体的に何をすることなのか。パッと答えられる人は、じつは少ないはずです。

目を閉じて悔やむこと? 「次は気をつけよう」と心に決めること? どちらも、何かを "する" ことではありません。反省とは、行動の名前ではなく「後悔している」という気分の名前なのです。気分なので、どれだけ真面目にやっても何も変わりません。むしろ、自分を責めてつらくなるだけです。

だからこの記事では、反省という言葉を捨てて、「分析」に言い換えます。分析なら、やることがはっきりしています。失敗を切り分けて、「穴」を探すこと。じつは失敗の起き方には、医療や飛行機の世界で使われている有名な "チーズのたとえ" があり、それを知ると、分析は一行のメモで済むほど軽くなります。

失敗は「穴の開いたチーズ」で起きている?

では、何を分析するのか。まず、失敗がどうやって起きるのかから見てみましょう。穴の開いたチーズのスライスを、何枚も重ねたところを想像してみてください。

1枚1枚のスライスは、失敗を止めてくれる壁です。締切のある仕事なら、「余裕のある見積もり」「朝の優先順位決め」「集中できる環境」。どれかひとつでも働けば、締切には間に合います。ただし、どの壁にも穴が開いています。人間のやることに、完璧な壁はないからです。

ふだんは、どこかの壁が止めてくれます。失敗が起きるのは、すべての穴がたまたま一直線に揃って、突き抜けてしまった日だけ。これが「スイスチーズモデル」と呼ばれる、事故の起き方の考え方です(イギリスの心理学者ジェームズ・リーズン氏による)。*1

穴の空いたスライスチーズ

医療や航空の現場では、実際に安全対策の土台として使われています。*2

締切に間に合わなかった日を、この形で見るとこうなります。

「締切に間に合わなかった日」のチーズ

壁1 余裕のある見積もり

→ 穴 「なんとかなる」と甘く見積もった

壁2 朝の優先順位決め

→ 穴 決めないまま仕事を始めた

壁3 集中できる環境

→ 穴 チャット通知が鳴りっぱなしだった

▼ 3つの穴を全部すり抜けた日に、締切アウト

「見積もりが甘かった」だけが犯人ではなかったわけです。穴が3つ揃った日にだけ、失敗は起きていました。

塞ぐ穴は、ひとつでいい

この見方には、うれしい裏返しがあります。穴が全部揃わないと失敗しないのなら、どれかひとつ塞げば、同じ失敗はもう起きないのです。

見積もりの甘さを直せなくても、朝に優先順位を決めるだけで、あの日の失敗は止まっていました。全部の穴を塞ぐ必要は、最初からありません。余裕があれば2つ塞ぐと、保険がついてさらに安心です。

ただし、ここにひとつだけ条件があります。どこに穴が開いていたかに気づけないと、ひとつも塞げないということです。

だから、穴の場所を探す作業だけは要ります。これが、この記事でいう「分析」です。悔やむ必要も、自分を責める必要もありません。切り分けて、探すだけ。それをいちばん軽くやる方法が、次の一行メモです。

分析

穴を見つける「5要素の一行メモ」

用意するのはメモ帳ひとつ。失敗したら、その日のうちに失敗を5つの要素に分けて「一行だけで」メモする。やることはこれだけです。

【締切に間に合わなかった失敗例】

  1. 内容 重要案件が締切に間に合わなかった
  2. 原因 緊急案件ばかり対応した(直接のきっかけ)
  3. 背景 優先順位を決めないまま仕事を始めた(きっかけの手前にあった事情)
  4. 環境 チャット通知が絶えなかった(まわりの様子)
  5. 防げたポイント 朝5分だけ優先順位を決める(塞げそうな穴の候補)

一行メモの3つのコツ

1. 書くのは事実だけ(「自分が甘かった」のような感想は書かない)

2. 「原因」で手を止めない(背景・環境まで書くと、穴が複数見えてくる)

3. 全部埋めなくていい(埋まった行だけで構わない。3分で切り上げる)

事実だけを書けば、それは後悔ではなく分析になります。自分を責める必要はありません。

余力がある日は、要素を線でつないだ簡単な絵にしてみてください。

失敗の「内容・原因・背景・環境・防げたポイント」を線でつないで関係を整理した、手描きの図式メモの例

走り書きで十分です。どの穴とどの穴が重なって失敗まで突き抜けたのか、文字だけよりずっと見えやすくなります。

塞ぎやすい穴から、ひとつかふたつ

穴が見えたら、最後の仕上げです。いちばん塞ぎやすい穴をひとつ選んで、明日からの「行動」に変える。これが「マイルール」です。

【マイルール】 仕事前に「緊急案件」ではなく「最重要案件」をひとつ書き出す

【余裕があれば】 集中したい1時間だけ、チャット通知を切る

コツは、「もっと気をつける」ではなく、「朝いちばんに一行書く」のような、やったかどうかがはっきりわかる行動にすることです。

そして、増やしすぎないこと。じつは筆者も、始めたころは「あれも原因だった」「これも関係していた」と分析ばかりが増え、肝心の対策がぼやけてしまいました。塞ぐ穴は、多くても2つまで。それ以上は、せっかく軽くした分析がまた重くなって続かなくなります。

最後に、ひとつ種明かしを。この記事で伝えたかったことを、そのまま一行メモにするとこうなります。

「失敗を繰り返した」の一行メモ

1. 内容 同じ失敗を繰り返した

2. 原因 反省という名の後悔だけをして、分析していなかった

3. 背景 失敗をただ嫌なことと捉えた。自分を責めるとつらいので、蓋をした

4. 環境 「反省」という言葉に実態がないことを知らなかった

5. 防げたポイント 反省を「分析」に言い換えて、穴をひとつ塞ぐ

「失敗を繰り返す」という失敗も、じつはこの5行でできていました。防げたポイントは、もうあなたの手のなかにあります。

***

反省が続かないのは、あなたが弱いからではありません。反省という言葉に、やることが書かれていないからです。

だから、言葉から変えてしまいましょう。反省ではなく、分析。一行書いて、穴をひとつ塞ぐ。「今後は気をつけよう」と心に決めるより、ずっと確実に前へ進めます。

よくある質問(FAQ)

Q. 「反省」と「分析」は、何が違うのですか?
反省は「後悔している」という気分の名前で、具体的に何をするかが決まっていません。一方の分析は行動の名前です。失敗を内容・原因・背景・環境・防げたポイントに切り分けて、穴を探すこと。やることが決まっているので、気分に関係なく進められますし、自分を責めずに済みます。
Q. 「5要素の一行メモ」は、毎回すべての項目を書かないといけませんか?
いいえ。内容・原因・背景・環境・防げたポイントの5要素は、埋まったところだけで構いません。むしろ「すべて埋めなくてもいい」とルール化しておいたほうが、習慣として続きやすくなります。一行だけのメモでも、失敗を客観視する効果は十分にあります。
Q. 自分を責めてしまいそうで、失敗と向き合うのが怖いです。
一行メモで扱うのは、自分の人格ではなく「起きた出来事の形」です。書き出す対象を、内容・原因・背景・環境・防げたポイントという事実に限定してしまえば、反省文にはなりません。責める相手を自分ではなく「穴」に切り替えるのがコツです。
Q. スイスチーズモデルは、個人の小さなミスにも当てはまるのですか?
もともとは大きな組織事故を説明するための考え方なので、そのまま個人のミスに当てはまるわけではありません。ただし「ひとつの原因だけで失敗は起きない」「表に見えるきっかけの奥に、手前の事情が隠れている」という見方は、毎日の仕事の分析にも応用できます。
Q. 図式化はどのくらい丁寧に描く必要がありますか?
丁寧さは必要ありません。要素を囲んで線でつなぐ程度で十分です。目的はきれいな図をつくることではなく、文字の羅列では見えにくい「穴どうしの重なり」を目に見える形にすること。手描きの走り書きでも効果は変わりません。
Q. 「マイルール」はいくつまでつくっていいですか?
ひとつの失敗につき、ひとつかふたつで十分です。失敗は穴がすべて揃ったときにだけ起きるので、どれかひとつ塞げば同じ失敗は成立しません。ふたつめは保険です。3つ以上に増やすと分析自体が重くなって続かなくなるため、おすすめしません。

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。