あなたは、こんな経験をしたことがありませんか?
チームの成長を願って、勇気を出してフィードバックしたはずなのに、相手の表情が凍りつく。あるいは、上司から「率直なフィードバックだ」と言われながらも、胸に重いものが残り、やる気を失ってしまう——。
いまや、「オープンなフィードバック文化」はビジネスの常識になりつつあります。けれどその一方で、フィードバックをする側もされる側も、静かにすり減っている現実があるのです。
本来、フィードバックとは組織と個人を育てるための手段だったはず。それなのに、なぜこんなにも「しんどい」ものになってしまったのでしょうか?
この記事では、フィードバック文化の「落とし穴」を直視しながら、どうすれば「すり減らずに育てる場」をつくれるのかを探っていきます。
もしあなたが、日々のフィードバックに違和感や葛藤を感じているなら、きっとヒントが見つかるはずです。
「フィードバック神話」に潜む落とし穴
「オープンなフィードバック文化は、組織や個人の成長に不可欠だ」——そんな考えが、いまやビジネスの現場では常識になりつつあります。
ですが、その陰で、現場の「気持ち」が置き去りにされている可能性があります。
こうした抵抗感は、多くの場合、相手の感情を傷つける恐怖に根ざしているといいます。*1
その結果、約75%がフィードバックの受け入れに課題を感じており、「解釈の難しさ」「自己評価とのギャップ」「ネガティブな感情の発生」が主な理由とわかりました。*2
考えるだけで吐き気を催すほど、追い詰められていました。*3
フィードバックがあふれる一方で、心が追いつかず疲弊する人が増えています。「成長のため」と言いながら、誰もが静かに摩耗しているのです。
いまこそ、フィードバックのあり方を見直すとき。
このまま組織を蝕むくらいなら、いっそフィードバックを手放す覚悟も必要かもしれません。
「なんでも言える場」で、何も言えなくなっている?
ここで、フィードバックを伝える側と、受ける側、それぞれの気持ちをちょっとのぞいてみましょう。
伝える側の気持ち
- 「どんな言葉を選べばいいのか」と悩み、結局何も言えなくなる
- 「余計なことを言って関係を壊したくない」とブレーキをかける
- 「本音」を伝えた結果、裏で責められるリスクを感じる
こういった心理的な壁で本音が封じ込められると、建前だけが漂う場になってしまうのではないでしょうか。意見が活発に見えても、実態は本音なき空洞となり、変化も成長も生まれない恐れがあります。
受ける側の気持ち
- とにかく何でも素直に受け止めなさい、という無言の空気が漂っている
- 否定され続けることで、自己肯定感がじわじわ削られていく
- 言われるだけ言われてケアなし、フォローアップなしで迷子状態
一方的なフィードバックは、受け手を無感動にさせ、組織の活力すら奪いかねません。真に機能させるには、受け手にも「主体性」が必要です。
どうすれば双方が「すり減らずに育てる場」をつくれるか?
では、フィードバックによるすり減りを防ぐにはどうすればいいのか──
識者のアドバイスと、具体的な伝え方・受け止め方をご紹介します。
フィードバックを行なう側へのアドバイス
エグゼクティブコーチのメロディ・ワイルディング氏は、フィードバックを批判ではなく育成の一環ととらえ、最悪の反応(泣き出す・食ってかかるなど)も想定して備えるべきと語ります。また、「私」を主語にすることで、率直で力強い伝え方ができるとも提言しています。*3
一方で、清掃サービス会社「スチューデント・メイド」CEOのクリステン・ハディード氏は、フィードバックにおいて気まずさや迷い(わからない点があるなど)も率直に伝えることで、信頼関係を築けると語ります。*4
ちなみに、ハディード氏がフィードバックの際に実践する「FBIメソッド」は、Feeling(自分の気持ち)、Behavior(相手の行動)、Impact(自分への影響)をこの順で伝える効果的な手法。*4
さらにこのあと、逆に「私にもフィードバックをください」と相手に伝えることで、双方向の信頼が深まるとしています。*4
では、これらを参考にした具体例を紹介しましょう。
具体例:フィードバックする側
≪ポイント≫
- フィードバックは相手のためだと考える(心構え)
- 最悪の事態を想定する(心構え)
- 「私」という言葉をできるだけ使う
- 「本音」を言う
- 「FBI」メソッドを活用する
- 「私にもフィードバックをください」と言う
≪実践例≫
じつは私、フィードバックは少し苦手です。でも大切なことなのでお伝えしますね。私はAさんの熱心な仕事ぶりを評価しています。しかし、Aさんの担当箇所に、多くの抜け落ち部分が見つかるのも事実です。
私はそうした状況を、とても残念に思っていいます(F)。
原因は、Aさんの確認作業が不足しているためではないでしょうか(B)。
今回は、納品前に見つかったからいいものの、納品あとなら私を含むチームのみんなが、大きな迷惑を被ります(I)。
ですから私は今日、Aさんと一緒に対処できることがあるかどうかを把握したいのです。可能であれば、いますぐそれを実践していきましょう。まずは、Aさんの考えを聞いていいですか?
(中略)
今日は、話をしっかりと受け止めてくれてありがとう。
上司(リーダー)である私にも、見えていない部分があるかもしれません。後日、私に対してもフィードバックをいただけると嬉しいです。
これなら信頼関係が深まり、相手も前向きになってくれるのではないでしょうか?
フィードバックを受ける側へのアドバイス
理学療法士の山田真伸氏(Be a Smile代表)は、過去に「フィードバック=ダメ出し」と思い込んでいたけれど、のちにそうではないとわかったそうです。*5
なぜならば、先輩に「フィードバックは目標との差を伝えるものであり、受け取るかどうかは受け手が選んでいい」と伝えられたから。*5
それを聞いた瞬間に山田氏は、すっと肩の荷が下りました。そして、いまでは、自らフィードバックを受け取りにいくこともあるといいます。*5
また、前出のハディード氏は、フィードバック側に気まずさがあると、内容が抽象的になってしまう点を指摘しています。*4
だからこそ、フィードバックを受ける側は、「もう少し詳しく教えてください」と質問しなければなりません。何を改善すべきか把握するためです。*4
具体例:フィードバックを受ける側
≪ポイント≫
- フィードバックは自分を助けるものであり、自分が選択できるもの
┗積極的になるほど自分の得になる(心構え) - フィードバックする側もじつは気が重い(相手への配慮と共感)
- 内容が曖昧なときは質問を重ねる・提案するなどして解像度を高める
≪実践例≫
【フィードバックする側】:
Cさんはいつも、どんなふうに確認作業していますか?
先日、Cさんが担当している部分で抜け落ちているところがあったんだけど……。もちろん、Cさんのところだけじゃないんですけどね。
なんか、やりにくかったりする部分はありますか? 一緒に考えていけたらいいなぁと……。
【フィードバックされる側】:
お忙しいところ、お時間をいただきありがとうございます。確認が行き届かず、抜けてしまった部分がありましたこと、大変申し訳ありません。
私自身の不注意もあったかと思いますので、一度ほかのみなさまと状況を整理してみようと考えております。
もしお気づきの点やご助言などがありましたら、ぜひ詳しくお聞かせいただけますと助かります。
こうした配慮ある真摯な姿勢と、丁寧かつ積極的な行動は、確実にその人の価値を高めます。さらに、フィードバックする側をリラックスさせ、より的確な指導やアドバイスを引き出すことにもつながるでしょう。
***
フィードバックとは、本来、「相手を正すため」ではなく、「相手とともに未来をつくるため」のもの。だからこそ、一方的な指摘ではなく、相手の気持ちに寄り添い、対話を重ねることが必要です。
伝える側も、受け取る側も、「育てる」意図と「選び取る」自由を手にしながら、互いにすり減らずに成長できる関係を築いていきましょう。
それができたとき、フィードバックはようやく、単なる義務や制度ではなく、組織の未来を照らす力に変わるはずです。
*1: Quartz|How to give feedback effectively: A guide for managers
*2: PR TIMES|【上司からのフィードバックに関する調査結果を公開】約半数が上司からのフィードバックは役に立つものの割合が多いと回答する一方、フィードバックの受け取り方に課題感あり
*3: DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|部下への厳しいフィードバックを恐れてはならない
*4: サイボウズ式|「する側もされる側も気が重い」。フィードバックの生産性を上げる秘訣を、米人気企業CEOに聞いた
*5: コーチングプラットフォーム|「フィードバック≠ダメ出し」と分かり、フィードバックを受け取れるようになった
STUDY HACKER 編集部
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