「初対面」だからこそうまくいく——ビジネス関係を制する「初めまして」の脳科学

握手を求めるビジネスパーソン

「人と会う機会は多いのに、どうしても距離を縮められない」

「せっかく出会っても、ビジネスチャンスにつながるような関係に発展させられない」

このように、ビジネスでの人間関係構築に悩むことは多いもの。

しかし、出会いの瞬間に脳がどのように働いているのかわかれば、関係づくりの突破口が見えてくるかもしれません。鍵となるのは、「初めまして」の力です。

「初めまして」の脳科学

共同作業をするときは、お互いをよく知る人同士と一緒に作業したほうがスムーズに進められそうだと誰もが思うでしょう。

しかし早稲田大学の研究から、初対面のペアのほうが「脳波が同期」することが明らかになりました。*1

例:

  • 急遽、初対面の人とペアになってプレゼンの準備をすることに。作業がスムーズに進むか不安だったが、「ここは私が資料作りますね」「じゃあ私は図表をまとめます」と自然と役割分担が決まり、いつも以上にはかどった。
  • 知り合いがいないキックオフミーティングに参加し不安だったが、初対面だからこそ質問が多く飛び交い盛り上がった。

この「よく知らない人とのほうがスムーズにいく」という背景には、初対面だからこそお互いに注意を向けて理解しようと配慮し合うためだと考えられています。*1

ほかにも社会科学的知見から、新たなビジネスチャンスにつながるのは、親しい友人や家族といった「強いつながり」よりも、交流の浅い「弱いつながり」の者との関わりだともわかっています。

2022年9月に『サイエンス』誌に掲載された研究では、2000万人を対象とした大規模実験を行い、転職したりビジネスチャンスをつかんだりする際は、こうした「弱いつながり」の人とのほうが大きな助けになるという結果が出ました。

研究では、親しい人たちは生活環境や価値観が似通っているため、自分と同じような情報しか持っていないことが多い一方で、交流の浅い人たちは自分とは異なる世界に属しているため、新しく価値の高い情報をもたらしてくれるからだとされています。*2

身近な例で言うと、LinkedInやWantedlyも「弱いつながり」の利点を活用していると言えるでしょう。

つまり初対面という状況は、自分の可能性を広げる絶好の機会なのです。

これが「初めまして」の力です。脳波が同期しやすく、新たなチャンスをもたらす弱いつながりを生み出す――初対面だからこそ発揮される、関係構築の力なのです。

笑顔を見せる、スーツを着たビジネスパーソン

初対面の数秒が長期的関係を左右する

「初めまして」の力を最大限に活かすには、もう一つ重要なポイントがあります。それが「第一印象」です。

「第一印象は数秒で決まる」ということは、みなさんも耳にしたことがあることでしょう。そしてその第一印象はその後の関係性にも影響を及ぼします。

その背景には脳の「扁桃体」が関わっているようです。

「扁桃体は、見たり聞いたりしたものや、体験した出来事に対して、好き嫌いを判断するために、他の脳領域と密接な神経連絡をもっている」と説明するのは、武蔵野大学薬学部教授の阿部和穂氏。*3

もう少し掘り下げると、扁桃体は記憶をつくる海馬とも連携しており、扁桃体で処理された感情は海馬にも影響します。

一度抱いた印象がなかなか払拭されない経験が、みなさんにも一度はあるのではないでしょうか。

その背景には、脳の扁桃体と海馬の関わりが影響していたのです。

初対面の印象で「信頼できる相手」として記憶に刻まれると、2回目以降も脳は「信頼できる相手」として処理するため、会話や共同作業が格段にスムーズになります。

そうすれば、信頼関係の構築にかかるコストも大幅に削減できるでしょう。

だからこそ、初回の印象は未来にも影響することをふまえ、「少し頑張りすぎかな」と思うくらい全力で投入する価値があるのです。

それは一瞬の印象にとどまらず、長期的な関係の基盤をつくる投資だからです。

初対面のためぎこちないビジネスパーソンたち

「初めまして」の力を引き出すテクニック8選

1. 適度なアイコンタクト

コミュニケーションにおいて重要であるアイコンタクト。ハリウッド大学院大学特任教授の佐藤綾子氏は、「話している時間の半分以上はアイコンタクトをする」ようにすすめます。*4

ただし黒目を直視し続けるのは威圧感を与えるため、「両目と鼻を結ぶ逆三角形の範囲」に視線を向けるのがコツです。

2. 話すリズム・間(テンポ)を相手に合わせる

会話のテンポを相手に合わせることで、「相性がいい」という印象を与えられます。

3. 相手のジェスチャーや姿勢のミラーリング

相手の話を頷きながら聞いたり、動作を真似てみたりなど、親近感が湧きやすくなる工夫も大切です。

4. 共通の話題・体験を共有する

「出身地」「天気」「趣味」などで共通の話題を広げられると、相手もリラックスしながら会話を楽しめるでしょう。

5. ゆったりと落ち着いた話し方を心がける

焦りや緊張は相手にも伝染します。落ち着いて話す姿勢が大切です。

6. ポジティブな表情(笑顔・表情筋の広がり)

暗い表情だと、そのつもりはなくても「感じ悪い」と誤解されかねません。相手に安心感を抱いてもらうためにも、笑顔でポジティブな表情を心がけましょう。

7. 相手の言葉をオウム返しで肯定的に反応する

適度なオウム返しは、「ちゃんと話を聞いている」という姿勢を表せます。

8. 身体の向きと距離感を合わせる

同じ方向を向いたり、心地よい距離を保ったりすることで、相手に安心感を与えられます。

【「初めまして」の力を引き出すチェックリスト】

  • ☑ 適度なアイコンタクト
  • ☑ 話すリズム・間(テンポ)を相手に合わせる
  • ☑ 相手のジェスチャーや姿勢のミラーリング
  • ☑ 共通の話題・体験を共有する
  • ☑ ゆったりと落ち着いた話し方を心がける
  • ☑ ポジティブな表情(笑顔・表情筋の広がり)
  • ☑ 相手の言葉をオウム返しで肯定的に反応する
  • ☑ 身体の向きと距離感を合わせる

「初めまして」を制す者はビジネスを制す

脳科学と社会科学の知見を組み合わせると、「初対面こそ関係性構築に最適」だとわかります。

そして、その関係性構築こそが、ビジネスにおける成果の土台となります。

初回の訪問営業での関係構築が大型契約につながる。採用面接で築いた信頼関係が内定を決める。新規プロジェクトのキックオフで生まれた協力関係がプロジェクト成功の鍵になる。

いずれも「初めまして」という瞬間を最大限に活かした結果なのです。

楽しそうにカメラに笑顔を向けるビジネスパーソンたち

***
初対面はチャンスの宝庫。今日からぜひ、「最初の数秒」に全力を注いでみてください。

※引用の太字は編集部が施した

【ライタープロフィール】
澤田みのり

大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。

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