千代の富士に学ぶ「三年先の稽古」。 "目の前の成功"と"将来の成長"をどう両立するのか

千代の富士のような力強い力士

毎日、目の前の仕事を片づけるだけで精一杯。メールを返し、会議に出て、資料をつくる。気づけば、もう一日が終わっている。

資格の勉強も、読書も、英語も、「いつかやろう」と思ったまま手つかずで残っていく。そうして数か月が、あっという間に過ぎていきます。

キャリアの差は、じつは「今日どれだけ忙しかったか」だけでは決まりません。

大横綱・千代の富士の言葉として紹介される「いま強くなる稽古と、三年先に強くなるための稽古の両方をしなくてはならない」という考え方をヒントに、忙しい日々に「未来の自分を強くする時間」を差し込む方法を紹介します。

千代の富士に学ぶ。強い人は「今日の稽古」と「未来の稽古」を分けている

千代の富士は、第58代横綱として相撲史に残る大横綱です。日本相撲協会の歴代横綱プロフィールには、幕内優勝31回、生涯戦歴1045勝437敗159休という成績が記されています。*1

千代の富士として知られる九重親方は、「三年先の稽古」という相撲界の言葉に触れ、今日の稽古がすぐ結果になるわけではなく、毎日の積み重ねが数年後に「稽古の貯金」になる、という趣旨を語ったと紹介されています。*2

ビジネスに置き換えるなら、「いま強くなる稽古」とは、資料作成やメール対応など、今日の仕事を前に進める力。目の前の成果に直結します。

一方の「三年先に強くなるための稽古」とは、専門分野の読書や資格の勉強、英語など、すぐには評価されにくいけれど、数年後の選択肢を増やしてくれる学びです。

問題は、多くの人が「いま強くなる稽古」だけで一日を使い切ってしまうことです。

もちろん目の前の仕事は大切ですが、それだけでは「目の前の仕事をこなす人」のままかもしれません。

キャリアを伸ばす人は、努力量が特別に多い人ではありません。「今日の仕事」と「未来の学び」を、同じ一日のなかで分けて考えられる人なのです。

稽古の貯金

なぜ私たちは「3年後のための学び」を後回しにしてしまうのか

「将来のために勉強したほうがいい」と頭ではわかっていても、実際にはなかなか動けません。

仕事のあとにテキストを開こうと思っても、疲れてスマホを見てしまう。休日は、平日の疲れを取り戻すだけで終わってしまう。

これは、意志が弱いからとは限りません。人には、遠い将来の利益より目の前の楽さを優先しやすい傾向があり、行動経済学では「現在バイアス」と呼ばれています。*3

📝 たとえば

資格の勉強が効いてくるのは数か月後、数年後。今日の自分には「疲れているのに、さらに勉強する」という負担でしかありません。だから「時間ができたらやる」は後回しになるのです。

「3年後のための学び」が続かない本当の理由は、やる気不足ではなく、予定のなかに居場所がないことにあります。

3年後に効く学びは「時間が余ったら」ではなく「先に15分だけ」入れる

おすすめしたいのは、壮大な学習計画を立てることではありません。まずは、1日の予定に「3年後の15分」を先に置くことです。

最初から「毎日1時間」と決めると、忙しい日にすぐ崩れます。まずは15分で十分です。

📝 15分の使い方の例

・出社前に、専門書を2ページだけ読む

・昼休みの最後に、資格の問題を1問だけ解く

・帰宅後すぐ、英単語を5個だけ確認する

ここで大切なのは、「何をどれだけやるか」よりも「いつやるか」を決めることです。

15分でできること

心理学者ピーター・ゴルヴィッツァーらの研究では、「いつ・どこで・何をするか」をあらかじめ決める実行意図が、目標達成を助けることが示されています。*4

単に「勉強する」より、「朝のコーヒーのあとにテキストを1ページ」まで決めるほうが、行動に移しやすくなるのです。

未来の学びは「気合い」で守るものではありません。予定のなかに、先に小さく固定してしまうものです。この切り替えが、3年後の差をつくります。

成長している感より「今日の仕事と少しだけつながる学び」を選ぶ

ただし、何でも学べばいいわけではありません。今の仕事との接点が見えない学びは、「成長している感」は得られても、忙しい日ほど「これ、今やる意味ある?」と感じやすいからです。

そこでおすすめなのが「今日の仕事と少しだけつながる学び」を選ぶことです。

なぜ、直接つながる学びではないのでしょうか。明日の資料づくりのコツのような学びは、それ自体が「いま強くなる稽古」であり、日々の仕事で自然に鍛えられる範囲だからです。それだけでは、3年後の差になりにくいのです。

かといって、まったくつながらない学びは、前述のとおり忙しさに押し流されてしまいます。

📝 職種別のヒント

・営業職なら、心理学の本を読む

・企画職なら、データ分析やマーケティングを学ぶ

・ライターなら、認知科学や行動経済学を学ぶ

・管理職なら、マネジメント理論や対話の技術を学ぶ

今の仕事の周辺にある知識を少し広げると、数年後に強みとして効いてきます。

「未来の稽古」は、今の仕事から離れた別世界に置かなくていいのです。今日の仕事の延長線上に、少し遠くを見る学びを置く。これなら続けやすくなります。

「3年後の自分」ではなく、「3か月後の変化」で考える

「3年後のために学びましょう」と言われても、正直、遠すぎると感じる人もいるかもしれません。

そこで、実践では「3年後」ではなく「3か月後」に置き換えて考えることをおすすめします。問いはシンプルです。

💡 自分に問いかけたいこと

「3か月後、今より少し楽になるために、今日15分だけ何を学ぶか?」

3か月後に、資料作成が少し速くなる。会議で少し自信をもって発言できる。このくらいで十分なのです。

カレンダー

「大きく変わろう」とすると学びは重くなりますが、「少し楽になるため」と考えると、学びは自分を助けるものに変わります。

3年先の稽古は、遠い未来だけを見て行なうものではありません。3か月後の自分を少し楽にする積み重ねが、3年後の力になるのです。

今日できる小さな行動。「未来の稽古」をカレンダーに15分だけ入れる

カレンダーや手帳に、今週のどこか1か所だけ「未来の稽古 15分」と書き込んでください。

中身は、あとから決めてもかまいません。まずは、時間の居場所をつくることが先です。

📝 具体化の例

・水曜の朝8時30分から、資格のテキストを1ページ読む

・金曜の昼休み最後の15分で、専門記事を1本読む

・日曜の夜に、今週学んだことを1行だけ書く

大事なのは、完璧な学習計画を立てることではありません。今日の予定のなかに、未来の自分の席をひとつ用意することです。

今日の15分は目立たなくても、その積み重ねが数年後のあなたを支えます。

***

目の前の仕事だけで一日を終えると、未来の武器は育ちにくいもの。

千代の富士の言葉に学び、今日の予定に「未来の稽古」を15分だけ入れてみましょう。3年後の差は、今日の小さな学びから始まります。for the future

よくある質問(FAQ)

Q. 「3年先の稽古」とは、もともとどういう意味の言葉ですか?
相撲界で使われてきた言葉で、今日の稽古がすぐに結果につながるわけではなく、日々の積み重ねが数年後の実力になる、という考え方を表しています。千代の富士(九重親方)がこの趣旨を語ったと紹介されています。
Q. 「未来の学び」の時間は、1日どのくらい確保すればいいですか?
まずは15分で十分です。長い時間を最初から確保しようとすると挫折しやすいため、短い時間を毎日の予定に固定することを優先しましょう。
Q. 何を学べばいいか決められないときは、どうすればいいですか?
今の仕事と少しだけ接点がある分野を選ぶのがおすすめです。「今日の仕事と少しだけつながる学び」であれば、忙しいなかでも意味を感じやすく、続けやすくなります。
Q. 「いつ学ぶか」を決めることが大事なのはなぜですか?
「いつ・どこで・何をするか」をあらかじめ決めておく実行意図が、目標達成を助けることが心理学の研究で示されているためです。時間を先に決めておくことで、行動に移しやすくなります。
(参考)

*1: 日本相撲協会|千代の富士 貢 - 歴代横綱
*2: 飯能市立美杉台中学校|美杉台中だより「三年先の稽古」(令和3年12月24日号)
*3: The Decision Lab|Present Bias
*4: Gollwitzer, P. M., & Brandstätter, V.|Implementation Intentions and Effective Goal Pursuit

【ライタープロフィール】
橋本麻理香

大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。