習慣化には「弱点」もある! あなたを追い込む "よい習慣" の呪い

増えすぎた常駐ソフトのようにメモリを圧迫される様子をイメージしたビジネスパーソン

パソコンの「常駐ソフト」は、バックグラウンドで自動で動き、いちいち起動しなくても仕事を助けてくれる便利な存在です。ところが増えすぎると、一つひとつは小さくても合計でメモリを食いつぶし、気づけばパソコン全体が重くなっている。そんな経験はないでしょうか。

じつは、同じことが人間にも起こります。人間における「常駐ソフト」——それが習慣です。

本記事では、その習慣を「解決すべき対象」として扱います。意外に思われるかもしれません。習慣化といえば、たいてい「身につけるべき良いもの」として語られてきたからです。けれど、便利な常駐ソフトがじわじわとメモリを削るのと同じことが、いい習慣によっても引き起こされます。習慣化は、ゴールではなくスタート地点なのです。

大事なのは、増やすことより管理すること。本記事では、習慣を点検して整える具体的な手法を紹介します。

いい習慣ほど、気づかないうちに増えていく

習慣を身につけるとは、一つのソフトを自分の中にインストールし、常駐させること。一度立ち上げてしまえば、意志の力をほとんど使わずに行動が自動で回り続けます。毎朝の歯磨きにやる気がいらないのと同じです。これが習慣の最大の強みです。

ところが、この「自動で動く」長所が、そのまま弱点に裏返ります。自動で動くものは、増えても気づきにくいのです。

朝の英語学習、昼休みの読書、夜の筋トレと日記。「いいことだから」と一つ、また一つとインストールしていく。どれも単体では立派な習慣ですが、自動で回っているぶん、全体でどれだけのリソースを食っているかは意識にのぼりません。気づいたときには、生活のメモリをかなり占有しています。

筆者自身がそうでした。毎朝の筋トレメニューが少しずつ膨らみ、最初は30分だったのが、いつの間にか1時間30分。増やした覚えはないのに、気づけば「なんだかよく分からないこと」になっていました。

少しずつ数が増え、メモリを圧迫していく習慣のイメージ

習慣が増えすぎると、常駐ソフトを積みすぎたパソコンと同じことが起こります。具体的には、次の3つです。

1. 有限のメモリが削られる

朝の英語30分、ニュース10分、夜の筋トレ20分、日記10分、読書30分。どれもいい習慣ですが、合計すれば1日100分です。

削られるのは時間だけではありません。「やらなきゃ」と毎朝決断し、集中を立ち上げる――その意志力や注意も、目に見えないメモリとして消費されます。1日に使える認知資源には限りがあり、習慣はそれを少しずつ占有していくのです。

2. 動きが固くなる

毎朝決まった情報源しか見ない、ずっと同じやり方を繰り返す。自動化は判断の負担を減らしてくれますが、行き過ぎると、新しい発見や偶然の出会い(セレンディピティ)を遠ざけます。近年の研究でも、ルーティンへの過度な依存が変化への適応力やイノベーションを損なう可能性が指摘されています*1

3. 効いていなくても止まらない

常駐ソフトは、もう役に立っていなくても、自分で終了させない限り動き続けます。習慣も同じです。かつてはSNS発信が仕事につながったのに、いまはほとんど成果が出ていない。それでも自動で起動し、惰性で続いてしまう――そんな習慣を、誰もが一つは抱えているのではないでしょうか。

解 説

なぜ効かなくなっても止まれないのか

習慣化とは、行動の制御が「なぜやるのかを考える自分」から、きっかけに自動で反応する脳の回路へと移っていくことだといわれます。脳科学者のアン・グレイビエルによれば、習慣化された行動は意識的な判断をほとんど経ずに遂行されるようになります*2。「これはまだ役に立っているか」という問いを通らずに起動するため、効果が薄れても自動で走り続けてしまうのです。

💡 習慣が自動で動くのは長所。問題は、増えたぶんの管理まで手放してしまうこと。

習慣が自動で動くこと自体は悪くありません。実行を自動に任せられるからこそ、意志力を節約できます。問題は、実行だけでなく「何を動かし続けるか」の管理まで自動に委ねてしまうこと。そうなると、メモリの空きを誰も見ていないパソコンのように、システムは少しずつ重くなっていきます。

習慣を管理する、3つの手法

習慣を整理し、生活に余裕が生まれたビジネスパーソン

習慣は常駐ソフトと同じで、放っておけば終わりません。だから、自分から点検し、止める仕組みを持っておく必要があります。3つの手法を紹介します。

手法1. 増やす前に、いま動いている数を確認する

新しいソフトを入れる前、「いまどれだけ動いていて、メモリにどれだけ空きがあるか」を確認するはずです。習慣も同じ。新しい習慣を足したくなったら、まず、いま回している習慣の総量を数えるところから始めます。そのうえで、習慣に割けるリソースの上限を決めておく。物差しは時間が現実的です――「平日、習慣に充てるのは1日60分まで」というように。

肝心なのは、新しく足すなら、必ず何かをやめること。枠が決まっていれば、追加はおのずと「入れ替え」になります。毎日30分の読書を始めるなら、成果の出ていない情報収集を30分閉じる。これが、増殖を防ぐ最初の一手です。

手法2. 「続いているか」ではなく「効いているか」で見る

ソフトの管理で見るべきは、「起動しているか」ではなく「起動する価値があるか」です。正常に動いていても、役に立っていなければ、終了させるべきソフトです。

ところが習慣となると、私たちはつい「何日続いたか」ばかりを見てしまいます。継続日数は、一番測りやすく、一番自分をごまかしやすい数字です。「30日続いた」は、その30日が成果につながったかどうかを何も語りません。

そこで、3か月を目安に、各習慣を継続日数ではなく次の3点で点検しましょう。

※習慣が生活に定着するまでの期間は、代表的な研究で平均66日と報告されており*3、3か月という区切りは「定着した習慣を見直す」タイミングとして理にかなっています。

◆ 目的:いまの目標につながっているか。続ける理由を、ひとことで説明できるか。

◆ 効果:かけた時間と集中に見合う成果が出ているか。同じリソースを別のことに使ったほうが、成果は大きくないか。

◆ 適合性:いまの生活や働き方に無理なく収まっているか。続けること自体が、負担になっていないか。

一つでも答えに詰まる習慣があれば、見直しのサインです。続いていることは、続ける理由にはなりません。

手法3. 「やめる」を、ふだんの操作にする

常駐ソフトを自分で終了させない限り動き続けるように、習慣も、止める役を自分で引き受けないかぎり誰も止めてくれません。始めるのも、続けるのも、やめるのも、決められるのは自分だけだからです。

だから「やめる」を、特別なことではなく、ふだんの操作の一つにしておきます。いきなり全部やめなくてかまいません。「やめる」「頻度を下げる」「やり方を変える」の3つを選択肢として持っておく。週5の発信を週2に落とす。30分を15分に縮める。同じ目的を、もっと効率のいい方法に乗り換える。

💡 やめるのは挫折ではなく、空けたメモリを本当に必要なものへ回すための操作。

やめることは挫折ではなく、メモリを空けて本当に動かすべきものに回す、まっとうな操作です。

習慣は、増やすものではなく整えるもの

習慣を身につけるテクニックは、世の中にあふれています。けれど、成果を出し続けている人がしているのは、習慣を増やすことではありません。動かし続けるものと、やめるものを、定期的に選び直しているのです。

実行は、自動に任せていい。それが習慣の強みです。けれど「何を動かし続けるか」という管理だけは、手放してはいけません。増やす前に数を確認し、3か月ごとに続いているかではなく効いているかで点検し、やめるという操作を手元に置いておく。この3つで、いい習慣は最後まで味方であり続けます。

よくある質問(FAQ)

Q. いい習慣なのに、なぜ続けると苦しくなるのですか?

習慣は時間だけでなく、意志力や注意といった認知資源も消費するためです。自動で回るぶん、増えても気づきにくく、有限のリソースを少しずつ圧迫します。いい習慣でも無計画に積み上げれば負担になります。

Q. 習慣を見直すタイミングはいつがいいですか?

3か月(四半期)ごとがおすすめです。習慣が定着するまでの期間は平均66日とされており、定着した頃こそ「続ける価値があるか」を点検すべきタイミングだからです。

Q. 続けてきた習慣をやめるのは、もったいなくないですか?

やめることは挫折ではなく、空いたリソースを本当に必要なものへ回す操作です。「やめる・頻度を下げる・やり方を変える」の3つを選択肢として持っておきましょう。

Q. 続けるべき習慣とやめるべき習慣は、どう見分ければいいですか?

「目的・効果・適合性」の3点で点検しましょう。続ける理由をひとことで説明できず、成果も実感できない習慣は、やめどきのサインです。

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

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