「キャリアアップのために資格試験の勉強をしているけれど、受かる気がしない」「一度落ちてしまった。また次の試験に向けて勉強しなければならないなんて、心が折れそう……」
資格試験で合格するには、ある程度の時間、継続して勉強することが必要です。時間がかかればかかるほど、モチベーションが下がってしまうのも無理はありません。一方で、何度も試験に挑戦し、合格を勝ち取る人がいるのも事実。
そのような人は、どんな工夫をしてモチベーションを維持しているのでしょうか?
今回は、バルセロナ五輪柔道銀メダリストでありながら、4度のチャレンジを経て、宅建試験に合格した小川直也氏の勉強方法に触れながら、モチベーション維持の工夫について紹介します。
4度目のトライで難関資格である宅建を取得した小川直也さん
バルセロナ五輪柔道銀メダリストの小川直也氏は、2023年に宅建試験に合格しています。合格率15~17%という難関資格に、じつは4回のチャレンジを経て合格を勝ち取ったのです。
小川氏の挑戦の軌跡を見てみましょう:
- 1回目(令和2年):23点
- 2回目(令和3年):不合格
- 3回目(令和4年):31点
- 4回目:37点(合格)*1
宅建試験は、資格試験のなかでも非常に難易度が高いことで有名です。さらに、柔道とはまったく別世界の試験にチャレンジするとなると、並々ならぬ努力が必要だったのではないかと思います。
小川氏のように、粘り強くチャレンジを続け、合格を勝ち取るにはどんな工夫が必要なのでしょうか。
1. 成果を出しやすい環境に身を置く
「独学は厳しいと思う」「独学だと無駄なことを覚えすぎる」と小川氏は明言します。実際に小川氏は、ネットを使った通信教育で学習を進め、「最後の1年で講師の方針に従って、お任せした感じでやった」ことで合格を掴みました。*1
資格勉強を始めるとき、その手軽さから独学を選択する人は多いのではないでしょうか。書店に行けば、多種多様な参考書が手に入りますし、動画サイトで解説動画などを無料で見ることもできます。
しかし、心から好きなことを自分のペースで学ぶならともかく、キャリアアップという目的のために、決められた試験日までにスケジュールを立てて、ひとりで勉強し続けるというのは、想像以上に大変な作業です。
独学にチャレンジしたあと、「さぼってしまう」「モチベーションを保てない」ということが続くのなら、小川氏のように潔く独学は諦め、スクールに通うなど、外部環境に頼ることも賢い選択なのです。組織心理学者のベンジャミン・ハーディ氏は以下のように語っています。
本当の意味で「最適な方法」とは、自分の内なる決意や意志の強さに頼ることではない。目標の外周を防御システムで固めてしまう方法、つまり「目標を確実に達成できる環境」を自分で作り上げるのがベストだ。*2
では、具体的にどのような環境が自分に合っているのでしょうか。以下のチェックリストで確認してみましょう。
学習環境診断チェックリスト
タイプ別おすすめ学習環境
時間不足タイプ 通勤時間活用コース
・通勤電車での音声教材活用
・隙間時間に最適な要点まとめ
計画苦手タイプ スクール活用コース
・定期的な進捗チェック
・専門家による学習計画作成
継続苦手タイプ コミュニティ活用コース
・定期的な勉強会への参加
・SNSでの進捗共有
環境不足タイプ 集中環境確保コース
・コワーキングスペース利用
・カフェでの学習タイム確保
方法不明タイプ 完全サポートコース
・質問し放題のサポート体制
・学習方法の個別カウンセリング
2. マインドフルネスで何度でも立ち直る力を養う
頑張って勉強したにもかかわらず、資格試験に落ちてしまったことにショックを受け、なかなか立ち直れないという人もいるのではないでしょうか。
小川氏は宅建試験について「未知の世界に踏み込むアドベンチャー」と表現しています。*1 その未知の世界で、1回目は23点、3回目でも31点と、合格点に届かない経験を重ねながらも、諦めることなく4度目の挑戦で合格を勝ち取りました。
実は、試験会場では「俺に話しかけるな状態になり」「見向きもされなかった」*1 という小川氏。世界選手権4回優勝という輝かしい実績を持つトップアスリートでさえ、新しい分野での挑戦には大きなストレスを感じているのです。
ストレスを受けても、立ち直って適応していける特性のことを「レジリエンス」と呼びますが、合否がある資格試験では、まさにこのレジリエンスが必要です。では、レジリエンスを高めるためには、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。
*
東北大学大学院情報科学研究科准教授の細田千尋氏は、レジリエンスを高める方法として、マインドフルネスをすすめています。*3
マインドフルネスと聞くと、なんとなく怪しげに感じる方もいるかもしれませんが、その効果は科学的に証明されています。細田氏は、「マインドフルネスとは、『意図的に今この瞬間に、価値判断をすることなく注意を向けること』」と定義しています。*3
最も大切なポイントは、「今の経験を過去の記憶や未来への期待と関係づけず、今起きていることに注意を向け」、「良い・悪いといった評価をせず、ありのままに観察すること」です。*3
たとえば、1年間頑張ってきた資格試験に、合格点まであと10点足りず落ちてしまったとします。「もっとあの分野を重点的に勉強しておくべきだった」と後悔したり、「どうせ勉強してもまた落ちるに違いない」と悲観的になってしまったりするでしょう。
放っておくと、ネガティブな考えから抜け出せなくなってしまいます。このような状態で、次の試験に向けて勉強を始めるのは難しいものです。そこで、ネガティブな考えから抜け出すために、マインドフルネスを取り入れてみます。未来や過去のことではなく、自分の目の前にある環境や自分の身体の状態に集中してみるのです。
具体的には、お腹など、身体の一点に意識を集中して20分ほど呼吸を続ける方法があります。また、歩くという動作そのものに集中しながら歩くという方法もあります。*4
いまの状態だけに目を向け続けることで、「自分を俯瞰し目の前の事実のみに着眼する力」を鍛えることができます。その結果、困難な状況に陥っても、「自分自身も自身を取り囲む周囲についても、肯定的に受け入れられるようにな」るのです。*3
止まらないネガティブな考えを、マインドフルネスによって意識的に断ち切ることを繰り返すと、落ち着きを取り戻すことができます。
そうすれば「今回はこの分野の勉強が甘かったけれど、ほかの分野はしっかり点が取れていた。この経験を活かして対策すれば、次は合格できるはずだ」と、前向きに状況を分析できるようになるのです。
さあ、準備しよう!
なにごとも最初が肝心。あなたが何かを始めるなら事前準備は完璧に。これまでの説明をもとに、準備計画の基本をまとめてみました。
資格試験突破のための「はじめの7日間」準備計画
学習を始める前の1週間を、効果的な準備期間として活用しましょう。小川氏は「カウントダウン方式」で学習を進めたように、逆算での計画が効果的です。
- 📊 目標点数の設定(合格ライン+2点が目安)
- 📝 これまでの学習時間・方法の振り返り
- 📅 試験までのカレンダー作成
- 📚 持っている教材の確認
- ⏰ 活用できる時間帯の洗い出し
- 🏢 利用可能な学習施設のリストアップ
- 📋 過去の試験結果の分析
- ✍️ 理解度の自己診断
- 📊 重点的に学ぶ分野の優先順位付け
- 📈 科目ごとの学習時間配分
- 🎯 1日の目標学習時間設定
- 📅 週間スケジュールの作成
- 📚 必要な参考書・問題集の入手
- 💻 オンライン学習の登録・設定
- 📱 スマートフォンの学習環境整備
- 📝 学習記録シートの作成
- 📊 進捗管理の方法決定
- 👀 定期的な見直し計画の設定
- 🎯 1日分の学習の試行
- ⏱️ タイムスケジュールの検証
- ✅ 必要に応じた計画の微調整
***
資格試験の勉強では、モチベーションを維持し続けることが欠かせません。世界選手権4回優勝という輝かしい実績を持つ小川氏でさえ、試験勉強では不安や緊張と向き合う必要がありました。*1 それでも諦めることなく、4度目の挑戦で見事合格を果たしたのです。
小川氏の経験が私たちに教えてくれるのは、結果を出すには「余裕を持った目標設定」と「諦めない心」の両方が大切だということ。完璧を求めすぎず、かといって妥協もせず、着実に一歩一歩進んでいく。そんな姿勢が合格への近道なのかもしれません。
もしいまモチベーションが下がってきていると感じたときは、立ち止まって自分の状況を見つめ直してみましょう。適切な環境作り、マインドフルネスの実践、そして何より諦めない心。これらを組み合わせることで、きっとあなたも目標を達成できるはずです。
※引用の太字は編集部が施した
*1 ENCOUNT|小川直也、難関資格に4度目で合格 秘訣を伝授「独学だと無駄なことを覚えすぎる」
*2 東洋経済オンライン|目標は「意志の力」で達成できるほど甘くない
*3 PRESIDENT WOMAN Online|脳科学が教える、逆境で心折れる人と平常心を保てる人の決定的な違いとは
*4 早稲田ウィークリー|ストレスをためない心の態度 マインドフルネスのすすめ
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。