そのイライラ、忙しさのせいじゃないかも。脳を消耗させる「認知負荷」の正体

イライラしている女性

超多忙な毎日。チャットの通知が鳴るたびにイラッ、同僚からの質問にイラッ。今日は思わず後輩に、強い口調で返してしまった……。

こんなとき、多くの人は「仕事が忙しすぎる」「忍耐力がない」と考えるでしょう。でも、原因は「忙しさ」や「精神力」だけとは限りません。

ここで見落とされがちなのが、集中力や感情をむしばむ「認知負荷」の存在です。

では、いったい何があなたの認知負荷をそこまで奪っているのか。その正体を、対策とあわせて見ていきましょう。

原因1 自分で決められない「コントロール権の欠如」

タスクが山積みの日は、誰だって心に余裕がなくなります。

しかし、「忙しい=イライラの原因」とは限りません。私たちは往々にして、目の前の「仕事量」と「ストレスの真因」を混同してしまいます。

じつは、仕事量そのものより脳に効いてくるのが、「自分でコントロールできない」という状態です。

コントロールできない状況では、「次はどうなるのか」「どう判断すればよいのか」を考え続ける必要があり、それ自体が認知負荷になります。

教育心理学の「認知負荷理論」では、人の認知資源には限りがあり、情報そのものだけでなく、不要な負荷が増えるほど、本来の作業に使える余力が減ると考えられています。*1

たとえば、ものすごく忙しくても、やるべきことが明確で、自分の裁量で進められる日は、不思議と気持ちよく仕事を終えられる場合があります。

気持ちよく仕事をしている男性

一方で、次のような状況では、仕事量以上に認知資源を余計に消耗してしまうのです。

  • 指示が曖昧で何度も確認が必要になる
  • 優先順位が頻繁に変わる
  • 細かな判断を何度も求められる

私たちを疲れさせているのは「仕事の量」ではなく、「考えなくてもいいことを考え続けなければならない状態」なのかもしれません。

とくに見落とされやすいのが、決裁権の問題です。たとえ意思決定の権限を持っていても、上司が逐一口を出せば自律性は失われ、それ自体がストレス因子になると指摘されています。*2

イライラを感じたときは、「忙しさのせいだ」で終わらせるのではなく、「今日は何が脳の負荷になっていたのだろう」と切り分けてみましょう。

そのうえで、コントロール権を取り戻すには、「何をやるか」を明確にし、「自分で決められる範囲」を広げるのが有効です。

対策
 
 
  • やるべきことを具体的にする。「資料をつくる」ではなく「A社向け提案書の構成を決める」まで落とし込み、次に何をすればいいか迷わない状態にする。
  • 自分の裁量で決められる範囲を確保する。すべてを承認待ちにせず、「ここまでは自分の判断で進めてよい」というラインを上司や相手とすり合わせ、都度うかがいを立てずに動けるようにする。

原因が具体的になるほど、改善策も見つけやすくなります。

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原因2 集中を寸断する「頻繁な中断」

認知負荷を奪う要因は、前段で紹介した「コントロール権の欠如」だけではありません。

以下に示したような通知や騒音、頻繁な中断といった環境要因も、集中力を大きく左右します。

  • チャット通知が何度も届く
  • 周囲の会話が耳に入る
  • 別件の相談で作業が中断される

ひとつひとつは小さな出来事ですが、こうした中断が積み重なることで、脳はそのたびに元の仕事へ注意を戻す必要があります。

たくさんの通知で集中が切れている女性

情報学者グロリア・マーク氏らの研究では、中断のある環境で作業すると、人はかえって作業を急ぐ一方で、ストレスやフラストレーション、余計な労力が増すことが報告されています。*3

つまり、問題なのは通知を見る数秒ではなく、「元の状態へ戻るための見えない負荷」です。

もし最近イライラしすぎると感じているのなら、自分ができる範囲で以下のような調整を試みてみましょう。

対策
 
 
  • 通知をまとめて確認する
  • 集中時間だけチャットを閉じる
  • 机の上を整理する
  • 会議や相談の時間をまとめる

こうした小さな工夫でも、中断回数を減らし、認知資源を本来の仕事へ使いやすくなります。

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原因3 頭に居座る「未処理タスクの蓄積」

もうひとつ見逃せないのが、「終わっていない仕事」が頭のなかに残り続けることです。

  • 「あとで返信しよう」
  • 「この資料も修正しなければ」
  • 「あれ振り込んだっけ?」

これらを抱えたままだと、目の前の業務とは関係なく、そのタスクが何度も頭に浮かんできます。

心理学では、未完了の目標は認知資源を占有しやすい一方で、具体的な実行計画を立てることで、その認知的負荷が軽減される可能性が示されています(Masicampo & Baumeister, 2011)。*4

つまり、未処理タスクは「数」が問題なのではなく、「頭のなかに置いたまま」であることが問題なのです。

だからこそ、抱えているタスクを「頭の外に出す」のが有効です。

対策
 
 
  • 頭のなかのタスクを書き出す。「あとで返信しよう」「資料を修正しなければ」など、気になっていることを一度メモやタスク管理ツールに移し、頭の外に預ける。
  • 「いつ」「何をするか」まで決める。書き出すだけで終わらせず、実行するタイミングと最初の一歩を具体化しておくと、脳はそのタスクを抱え続けなくて済む。

簡単ですが効果は大きいものです。ぜひ一度お試しください。

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「量のせい」だと思っていた筆者が、変えたこと

じつは、筆者自身も長らく、イライラの原因は仕事量だと思い込んでいました。ところがある日、友人から「暇になってもイライラしてそうだね」と冗談を言われてハッとしたのです。量を減らしても、この苛立ちは消えないのかもしれない、と。

あらためて振り返ると、当時いちばん自分を消耗させていたのは、案件の多さそのものではなく、「先が読めず、自分で判断をコントロールできない」状態でした。まさに、この記事でいう認知負荷です。

そこで仕事量は変えないまま、さきほど紹介したような「コントロール権を取り戻す工夫」を実際に取り入れてみました。すると、仕事量は減らしていないのに、グッとイライラする機会が減ったのです。

大量の仕事をテキパキこなす女性

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本稿では、仕事中のイライラについて、忙しさや精神力だけが問題ではなく、曖昧な状況や、頻繁な中断、未処理タスクも影響しているとお伝えしてきました。

こうした見えにくい認知負荷が積み重なった結果として、そのイライラが現れている可能性もあると、ぜひ知ってください。

そうすれば、「どこかに改善できる負荷がある」という視点が備わると同時に、冷静さも取り戻せるはず。

仕事のしやすさも、心の余裕も、一緒に取り戻してくださいね。

よくある質問(FAQ)

Q. 仕事中のイライラは、忙しさが原因ではないのですか?

忙しさも一因ですが、それだけとは限りません。指示の曖昧さ(コントロール権の欠如)、頻繁な中断、未処理タスクといった「見えにくい認知負荷」も影響している可能性があります。業務量を減らしてもイライラが改善しない場合は、原因を取り違えているのかもしれません。

Q. 「コントロール権の欠如」とは、具体的にどういう状態ですか?

「次はどうなるのか」「どう判断すればよいのか」を考え続けなければならない状態を指します。指示が曖昧で何度も確認が必要になる、優先順位が頻繁に変わる、細かな判断を繰り返し求められる、といった状況では、仕事量以上に認知資源を消耗してしまいます。

Q. 通知や中断は、なぜそんなに負担になるのですか?

問題は通知を見る数秒ではなく、中断後に元の作業へ戻るための「見えない負荷」です。中断のある環境で作業すると、ストレスやフラストレーション、余計な労力が増すことが研究で報告されています。通知をまとめて確認する、集中したい時間はチャットを閉じる、といった工夫が有効です。

Q. 終わっていないタスクが頭から離れません。どうすればいいですか?

未処理タスクは「数」よりも、「頭のなかに置いたまま」であることが問題です。「いつ」「何をするか」を具体的にメモやタスク管理ツールに書き出すだけで、脳はその仕事を抱え続ける必要がなくなり、認知的な負荷が軽くなる可能性が示されています。

(参考)

*1: Wiley Online Library|Cognitive Load During Problem Solving: Effects on Learning - Sweller - 1988 - Cognitive Science
*2: DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー|自由裁量権の欠落がストレス 病気を引き起こす
*3: ACM Digital Library|Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems|The cost of interrupted work
*4: PubMed|Consider it done! Plan making can eliminate the cognitive effects of unfulfilled goals

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

「STUDY HACKER」は、これからの学びを考える、勉強法のハッキングメディアです。「STUDY SMART」をコンセプトに、2014年のサイトオープン以後、効率的な勉強法 / 記憶に残るノート術 / 脳科学に基づく学習テクニック / 身になる読書術 / 文章術 / 思考法など、勉強・仕事に必要な知識やスキルをより合理的に身につけるためのヒントを、多数紹介しています。